GPSを使用した時刻比較
1. GPSコモンビュー方式
カーナビなどで知られているGPS衛星には原子時計が搭載されています.
GPSは,この原子時計が刻む正確な時刻を電波に載せて送信しています.
地上の受信機は,受信機が内蔵している時計と,衛星から届いた電波に載っている
時刻情報とを比較する事で,衛星の時計と受信機の時計の間の時刻差を求める事が
できます.
衛星と受信機の他に,2台の受信機が同時に同じ衛星からの電波を受信する事で
受信機間の時刻差も求める事ができます.この方式はGPS共視法(コモンビュー)
と呼ばれ,世界各国が持っている正確な原子時計の間の時刻差を求めるための
方式として広く使われています.
2. より正確な時刻比較を目指して
衛星が送信している電波には,L1(1.5GHz)とL2(1.2GHz)という2種類の電波が
あります.ただし,この電波は搬送波と呼ばれるもので,図に示すような波が1秒間に
L1だと15億回繰り返されるだけの単純な信号のため,このままでは時刻情報を
載せる事ができません.そこで,GPSでは携帯電話などで使用されている
スペクトラム拡散通信方式という方式を使用して時刻情報を送信しています.
これは,疑似雑音符合と呼ばれる1と0の符合がある規則に従って繰り返す信号を
搬送波信号と組み合わせることで情報を送信するものです.GPSには民生用の
C/Aコードと軍用のPコードと呼ばれる2種類の符合が使用されています.
GPSの時刻比較を行なう場合は,C/Aコードと呼ばれる符合を使用して時刻比較を
行なってきました.C/Aコードは1.023MHz(1秒間に100万回の繰り返しが起こる)
信号を基に作り出します.これは1us(マイクロ秒,1秒の100万分の1)の細かさで
時刻を比較する事ができる事を意味します.
本来の目的であるナビゲーションで考えてみると,電波が1秒間に進む速度は
30万キロ秒なので,衛星と受信機間の間の距離を30万km×1us=300mに
1箇所目盛りが振られた物差しで測っている事を意味します.
実際の受信機はもっと賢くて,この目盛の単位をさらに1000分割した程度の
物差しで測る能力を備えています(これを観測精度と呼びます).
ただし,信号には雑音が載ってしまうため,実際に測定する事が可能な観測精度は
数mから数10mとなってしまいます.これは時刻でいうと数10ns〜数100ns(ナノ秒)
という単位になります.
今までの原子時計はC/Aコードと言う物差しで十分測れたのですが,最近の原子時計は
性能が上がったため目盛の間隔が足りなくなってしまいました.
そこで,より正確な(細かな目盛間隔を持った)方式の開発が望まれています.
GPSからはC/Aコードの他に搬送波も送られてきています.搬送波はC/Aコード
に比べて1500倍(1GHzは1,000MHz)の目盛間隔(20cm毎)を持っています.
受信機がC/Aコードと同様にこの目盛を1,000分の1に分割してくれるとすると,
L1を使用した時刻比較では1ps(ピコ秒,1/1000ns)の観測精度を達成する事が
できることになります.これは衛星と受信機間の距離を,およそ2mm毎に目盛が振ら
れた物差しで測っている事になります.しかし,搬送波は最初に書いたように
単なる波の繰り返しです.C/Aコードには情報が載っているので,300m毎に振られた
目盛には衛星からどれだけ離れているかの数値も一緒に振られています.
しかし,搬送波は20cm毎の目盛はありますが,衛星からの距離はわかりません.
従って受信機から出てくる情報は,衛星と受信機の間の距離を,受信機から
20cm以内の部分を2mm単位の目盛で測った値と言う事になります.
搬送波を使用した時刻比較では,受信機から20cm離れた位置から衛星までの距離は
データを処理する人が求めて目盛に数値を書き込んでいく作業が必要となります.
GPS衛星は上空をおよそ20,000kmの地点を,地球や月の重力の影響などを受け
複雑な動きをしながら飛んでいます.また,地上に固定された受信機も地球が
動いているために,衛星との距離を求めると言う点からは複雑な動きをしています.
電波の速度は真空中では一定ですが,衛星と受信機の間には大気など他の物質が存在
することから変化します.
私たちのグループでは,数psの時刻比較を行なうため,衛星や地球の複雑な動きや,
実際の電波の速度の遅れなどを物理モデルなどにより正確に補正して,
20,000km離れた衛星と受信機間の距離を20cm以内の正確さで求めるという研究
をしています.