報道発表




 通信総合研究所(理事長:飯田尚志。以下、CRL)では、情報の電磁的流通に関する研究の一環として、宇宙天気予報に関する研究並びに予報・警報・情報提供に関するサービス業務を実施しています。

2003年10月下旬に発生した太陽活動とその地球への影響では、今回初めて、太陽爆発による衝撃波により磁気圏が急激に収縮し、地球を周回する人工衛星にも影響を与えることが考えられる現象が観測されました。このような現象の発見は、学術上貴重であると共に、現在の私たちの生活には無くてはならない人工衛星の運用に大きな影響を与える可能性があるものであり、CRLでは、今回の一連の現象を詳細に解析し、得られる成果や資料は関係諸機関に提供していきたいと考えています。



太陽活動は、ほぼ11年の周期で繰り返しており、今回の活動周期のピークは2000年?2001年にあり、現在はピークを過ぎて下降期に入ったところであるにもかかわらず、本年10月18日頃から巨大な黒点が出現し(図1参照)、CRLでは監視してきたところです。別紙に、10月23日に発生した表面爆発(太陽フレア(太陽表面爆発))とそれによる太陽風衝撃波の影響と、10月28日に発生した表面爆発とこの結果放出された陽子(プロトン)の影響についてまとめていますのでご参照ください。

また、CRLでは、このような太陽爆発による宇宙空間の乱れ(宇宙天気)を常時監視し予報・警報を出すと共に、人工衛星の運用、航空機、電力など関連した関係諸機関には情報を提供しております。短波通信を利用される方、精密測位やナビゲーションに測位衛星(GPS)を利用される方など電波を利用される方は、以下のホームページなどCRLの情報にご注意頂ければ幸いです。


<連絡先>
電磁波計測部門
宇宙天気システムグループ
菊池 崇
Tel:042-327-6369 Fax:042-327-6676


別 紙

<2003年10月下旬に発生した太陽活動とその地球への影響について>

1.2003年10月23日17時19分の爆発(プロトン放出を伴わない爆発)

2003年10月23日17時19分(日本時間)に発生した爆発は、太陽風衝撃波を発生させたが、プロトン放出は伴っていない(図2参照)。このため、静止衛星などが激しいプロトン・シャワーにさらされることはなかったが、このときに発生した衝撃波は25日0時25分(日本時間)に地球磁気圏に到達し、地磁気の急激な増加がCRLの磁気圏観測ネットワーク(図3)で観測された。比較的赤道に近い沖縄においても、その大きさは60nT(ナノテスラ)であり(図4参照)、太陽風衝撃波による磁場増加としては大規模なものであった。この約30分後の01時前後に磁場強度は急激に減少し、もとのレベルに戻った。これらの磁場変化は磁気圏(地球磁場が及ぶ10万kmの宇宙空間)がいきなり半分以下に圧縮された後、急激に膨張したために発生した。この磁気圏の急激な収縮と膨張は、静止衛星軌道でも観測されており、この付近の高エネルギー粒子が2桁以上減少し、一時的に磁気圏の境界が静止軌道の内側まで圧縮されたことが確認され、太陽風ショックがいかに強烈であったかを示している。

CRLでは、CRLが一翼を担う世界宇宙天気予報ネットワークで送られてくる世界各地点で観測されたデータを解析したところ、このときに磁気圏の内側で異常な現象が発生していることを確認した。すなわち、磁気圏が急激に圧縮し、その30分後の膨張に時を同じくして、図5で模式的に示すように、中緯度域で強い高エネルギー粒子の降り込みが発生した。図6の例は、CRLに送られてきた、カナダのリオメータ(注1)観測データで、高エネルギー粒子の降り込みによる下部電離圏(高度70km)の異常電離を示している。同様の観測が、アラスカの緯度65度付近に設置したCRLのリオメータでも一部観測されている。カナダの観測値は極めて大きく、約1時間後には通常状態に復帰したが、そのピーク時の降り込みの大きさは、高緯度で発生するオーロラ帯の激しいオーロラに伴うものと同程度であったと予測され、中緯度帯ではまれな現象である。 このような現象の発見は、学術上貴重であると共に、地球を周回する人工衛星にも影響を与えることが考えられ、CRLでは今後データの解析を進めて関係諸機関に地磁気・電離層等の資料を提供していく予定である。

2.2003年10月28日18時51分の爆発(プロトン放出を伴う爆発)

 太陽活動がピークを超え、下降線をたどる途中に大規模な太陽フレアが発生することはこれまでにも発生している(例えば1972年8月)。今回もこれに相当する下降期において、大規模なプロトン放出をともなう太陽フレアが発生したわけである(図7)。10月28日18時51分に発生したフレアX線の強度は28年間の観測史上で3番目の規模であり、これに伴って放出されたプロトンは36年間の観測史上で5番目の強さであった(10月30日CRL報道発表)。この強い放射線は人工衛星の機器の障害を与える可能性があり、また、有人宇宙活動への支障が懸念された。このフレアにより放出されたCME(コロナプラズマ塊)は20時間後に地球磁気圏に達し、29日15時11分に370nTに達する大規模磁気嵐を発生させた(図8)。20時間という到達時間は通常2日前後の半分以下であり、太陽風衝撃波とこれを発生させたCMEが例のないほどの高速度(平均2,000km/s)であったことを示している。

さらに10月30日05時49分に発生した大規模フレアのために再び同規模の磁気嵐が発生した。この一連の大規模太陽フレア、磁気嵐による障害は現在調査中であるが、宇宙航空研究開発機構(JAXA)によれば、データ中継技術衛星「こだま」にも障害を与えたようである。また、南太平洋で航空機無線に障害が発生したとの報告もある。日本各地でオーロラの発生が報告され、中低緯度特有の赤いオーロラの移動などが観測されている。 CRLでは、これらの太陽フレア、磁気嵐の発生と発達を詳細に解析し、今後の予報に役立てるとともに関係諸機関に必要なデータや解析等情報を提供していく予定である。

 なお、通信総合研究所は、本日11月5日午前4時半頃にもプロトン放出を伴う史上最大規模の爆発が太陽表面で発生したことを確認し、直ちに関係各方面に通知しております。爆発の規模はこれまでで最大でありますが、爆発箇所は太陽の回転によって西に沈む直前であり、地球に向いた面で起こる爆発よりは影響が少ないと考えていますが、規模が極めて大きいため警報を出しています。

<補足説明>

(注1)リオメータは銀河系中心部より到来する電波雑音が上空の電離層により吸収されること(銀河雑音電波強度減少CAN)を利用して、電離層の状態を観測する装置。中緯度帯では、カナダPinawaにこの観測装置が設置されている

図1

図1.2003年10月23日以降、大規模太陽フレア・地磁気嵐を発生させた黒点群(平磯太陽観測センターで2003年10月30日観測)

2003年10月23日-31日に発生した太陽フレアX線・プロトンおよび磁気嵐

図2

図2 太陽フレアX線(上段)、プロトン(中段:米国NOAA衛星観測)とCRL沖縄磁力計が観測した磁気嵐(下段)

図3

図3 CRL磁気圏観測ネットワーク

図4

図4  CRL沖縄の磁力計によって記録された太陽風衝撃波による磁場増加と30分後の磁場減少。振幅は60nTに達し、大規模であった。

図5

図5 地球磁気圏の模式図。放射線帯と静止衛星、周回衛星の位置関係を示した。磁気圏が圧縮された時の磁気圏境界の位置を点線で示した。磁気圏圧縮により放射線帯高エネルギー粒子が周回軌道へ降り込む可能性がある

図6

図6 カナダ中部に位置するPinawaで観測された5dBに達する銀河雑音電波強度の減少(CNA) (Canadian Space Agency提供)。沖縄の磁場が急減少した01時に符合。

図7-1

図7-2

図7 太陽フレアX線、プロトン(NOAA/SEC提供)とCRL沖縄磁力計が観測した磁気嵐

図8-1

図8-2

図8 太陽フレアX線、プロトン(NOAA/SEC提供)とCRL沖縄磁力計が観測した磁気嵐