- 次世代無線方式として注目されるUWB用送受信モジュールを開発
〜世界初、CMOS−MMICでUWB伝送特性評価に成功〜
- 平成16年3月17日
独立行政法人通信総合研究所(以下、CRL。理事長:飯田尚志)は、次世代無線通信方式として注目されるUWB無線通信システム向けのCMOS高周波集積回路(MMIC)と送受信モジュールを民間企業等と共同で開発し、伝送特性評価を行いました。CMOS−MMICを用いたUWB送受信装置で伝送特性評価を行ったのは世界で初めてです。
【背景】
UWB(Ultra Wideband)は、オフィス内や家庭内の小規模な無線ネットワーク向けの次世代通信技術として近年注目を集めています。米国で2002年2月に導入が決定され、日本でも2002年9月から総務省情報通信審議会において導入の検討が進められています。UWBは、これまでにない超広帯域の周波数を利用し、既存のシステムに干渉を与えない程度の微弱な信号で伝送を行うことから、従来の無線通信装置にはない技術仕様を満たす必要があります。これを実現する電子部品としてはこれまでに海外のメーカーから試供的な電子部品が発表されていますが、実環境での実験に使用できるUWB送受信モジュールの実現が期待されていました。特に、CRLはこれまでIEEEなどの国際標準化においてCRLの提唱するSSA方式の考え方を一部導入したDS-SS方式によるUWBシステムを提案してきており、あわせてSSA方式の実現性と優位性を提示するために、産学官連携により送受信モジュールの実現に向けて取り組んできました。
【今回の成果】
今回、CRLは、民間企業(沖電気工業、三洋電機、アドバンテスト等)と共同でUWB用の高周波集積回路(MMIC)と、これを搭載したUWB送受信モジュールを設計・製作し、およそ3〜5GHzの周波数帯を使った高速データ伝送を実現しました。そもそもCRLの提唱するSSA方式UWBシステムはDS−SS方式を含むインパルス方式やマルチバンドOFDM方式を統合した汎用性の高いシステムであることから、今回の試作ではそれぞれの方式に対応した2種類のMMICおよび送受信モジュールを製作しました。本モジュールはSSA方式UWBシステムの実現に向けた重要なステップとなるものです。CRLは、SSA方式の概念に基づいてUWB国際標準化の早期実現のためIEEE802委員会WG15TG3a会合(3月14-19日、米国フロリダ州)においてDS-SS方式とマルチバンドOFDM方式の融合方式を提案することとしていますが、この融合方式の実現性を裏付けるものとして本モジュールの実現を位置づけることができます。
MMICの製造には、デジタル集積回路の製造技術として一般に用いられているCMOS技術を採用し、近い将来の量産技術への適用を視野に入れています。超広帯域の周波数に対応するために、アンプ、ミキサー、周波数シンセサイザーなどの設計に特別な工夫を施しています。また、微弱な信号をノイズから守るための対策も工夫しています。
本装置間を有線で接続した実験で、最高毎秒320Mビットのデータ伝送やエラーレート等の伝送特性評価を行いました。CMOS−MMICを採用したUWB送受信装置で定量的な伝送特性評価を行ったのは世界で初めてです。
【今後】
今回開発したUWB装置を利用して無線伝送実験を行い、未解明の部分が多いUWB伝搬特性の解析を行い、UWB無線技術の実用化と、国際標準化の確立に向け有効な実験データを取得することを目指します。さらに、本装置を発展させてSSA方式の完全な実現を目指すとともに、より高い周波数のUWB信号を伝送する装置の開発及びその伝送データの取得を実現するべく取り組んでいきます。本装置開発成果の詳細については本年5月18〜21日に京都市で開催される国際会議Joint UWBST & IWUWBS 2004で発表する予定です。
<連絡先:標準化関係>
横須賀無線研究センター
UWB結集型特別グループ担当
安井 哲也
TEL:046-847-5107
FAX:046-847-5431
E-mail:t-yasui@crl.go.jp
<連絡先:装置関係>
無線通信部門ミリ波デバイスグループ
笠松 章史 ・ 松井 敏明
TEL:042-327-6824
FAX:042-327-6669
E-mail: kasa@crl.go.jp
<補足資料>
MMICを搭載した高周波送受信モジュール写真(インパルス方式)
MMICを搭載した高周波送受信モジュール写真(マルチバンドOFDM方式)
<用語解説>
UWB無線通信システム
超広帯域(Ultra Wideband)の周波数幅を用いた無線通信システム。既存のシステムに割り当てられた周波数帯をまたがって電波を使用するため、従来の電波利用の常識から考えると革命的ともいえる。FCC(米連邦通信委員会)の定義によれば、UWBは比帯域20%以上または帯域幅500MHz以上のいずれかを満たす通信技術とされる。送信電力に関しては、既存の無線通信へ影響を与えないように厳しく制限されており、マイクロ波帯では3.1GHzから10.6GHzにおいて、準ミリ波帯では22GHzから29GHzにおいて、それぞれ平均電力-41.25dBm/MHzと定められている。MMIC
Monolithic Micro(またはMillimeter) Wave Integrate Circuitの略で、高周波(RF)向けアナログ集積回路のこと。マイクロプロセッサなどのデジタル集積回路と対比して用いられる。従来、マイクロ波帯(3〜30GHz)以上では化合物半導体による製造技術が主流であったが、近年の微細加工技術の向上などによって、従来デジタル用途向けであったCMOS(Complementally Metal Oxide Semiconductor)によっても作られるようになった。SSA方式
Soft Spectrum Adaptationの略で、CRLが標準方式策定作業などの場で提案している方式。時間軸波形を整形することによって周波数領域のスペクトルを制御し、既存無線システムとの干渉を避ける技術である。インパルス方式をはじめ様々な方式に柔軟に対応できるため、UWBの各方式を効果的に統合するコア技術として期待される。インパルス方式
非常に短いパルス信号によってデータを送受信する方式。IEEE(米国電気電子学会)の標準方式策定でCRLやモトローラが提案しているDS−SS方式は、この方式をもとに発展させたものである。デジタル信号を直接にパルス信号として送出するため、アナログ回路が簡略にでき低コスト化が容易、電力の送出が間欠的なので低消費電力が期待できるなどの利点がある。DS−SS方式
伝送する情報を本来必要な周波数帯域よりも広い帯域の信号に変調する変調方式。Direct Sequence - Spread Spectrumの略。広い周波数帯域が必要になるが信号の強さは弱くても伝送が可能。2.4GHz帯無線LANなどに使用されている。マルチバンドOFDM方式
既存の通信方式を基にしてUWBの通信方式を策定していこうと考える企業・グループがそれぞれの提案をマージして作り出された方式。OFDMはOrthogonal Frequency Division Multiplexing(直交周波数分割多重)の略。UWBの帯域全体を500MHz程度のサブバンドに分割(マルチバンド)し、さらに各サブバンドはOFDMによる数MHzのサブキャリアから構成される。従来技術の組み合わせによって広い帯域を効率よく利用することに主眼が置かれており、データ伝送の高速化が可能となる。