報道発表




 独立行政法人情報通信研究機構(以下、NICT。理事長:長尾 真)は、世界で初めて第3世代移動通信システムおよび高速無線LANシステムを融合した無線機の開発に成功しました。この無線機は、一台の無線機でもソフトウェアの変更のみで複数の通信システムに対応できる、画期的な新世代移動通信用ソフトウェア無線機です。

<背景>
近年、移動体通信においては、高速化、多機能化に伴い新しい無線通信システムが次々と導入されようとしています。ユーザーがいる場所、および要求にあわせて最適な通信回線を有線無線とわずに自動選択し、速やかに情報を通信の相手方に伝えることを可能にする新世代移動通信システムの実現が期待されています。しかし、これらの無線システムをすべて利用できる無線機を所有することは困難です。このような状況を解決する一つの手段として「ソフトウェア無線技術」があります。これは、今までアナログ回路で処理されてきた無線端末の機能をデジタル回路でソフトウェアにより処理するもので、ソフトウェアを変更することによって、所望の無線通信システムの機能を実現するものです。NICTはこのソフトウェア無線機の開発を1997年より行っており、1999年および2001年に高度道路交通通信用ソフトウェア無線機の開発に成功しています。しかし、新世代移動通信システムを実現可能なソフトウェア無線機については、信号処理をこなす共通プラットフォームおよび通信システム切り替えソフトウェア等が未整備であったため実現できていませんでした。

<今回の成果>
今回NICTはソフトウェア無線機用の信号処理部として汎用的なデバイスおよび各種高周波無線部によって構成されたソフトウェア無線開発用共通プラットフォームを開発いたしました。また、このプラットフォームに対してソフトウェアをインストールするためのインストールソフトウェアおよび各種通信システムをユーザーの希望にあわせて、任意の順序で変更可能なシステム切り替えソフトウェアも開発いたしました。そして、このような共通プラットフォームを用いて第3世代移動通信システム(W-CDMA)および高速無線LANシステム(IEEE802.11a)を実現するソフトウェアを用意しました。このソフトウェアは物理層、データリンク層、ネットワーク層すべてのソフトウェア化に成功しており、適宜共通プラットフォーム上で変更することが可能です。また、W-CDMA機能を実現するソフトウェアは市販のW-CDMAの基地局シミュレータとも接続は可能です。そして、無線用の信号処理部と表示部を組み合わせることにより、W-CDMA、IEEE802.11aを介した動画像およびVoIPを用いた音声通信が可能です。また、この2つのネットワークを組み合わせることにより、2つのネットワーク間をユーザーが移動しても通信が途切れることなく、シームレスに通信することも可能です。

<今後の予定>
本無線機の開発の成功により、ソフトウェア無線機を用いた新世代移動通信システムの実用化への第一歩を確立しました。今後はこの共通プラットフォーム上でW-CDMA、IEEE802.11aのみならず、各種移動通信システム及び各種放送受信回路等もソフトウェア化し、ユーザーの希望に応じてたった1台で各種通信システム、放送システムを何種類でもスムーズに切り替え可能なソフトウェア無線機の開発を進めていく予定です。また、共通プラットフォームおよび関連ソフトウェアの技術移転も検討しております。なお、本無線機を用いたW-CDMA、IEEE802.11a両システム間シームレス通信に関しては7月21〜23日に東京ビックサイトで開催される第1回次世代ワイヤレス技術展にて展示をする予定です。



<問い合わせ先>
総務部広報室
大崎祐次
大野由樹子
Tel:042-327-6923
Fax:042-327-7587
広報室アドレス
<研究内容に関する問い合わせ先>
横須賀無線通信研究センター
新世代モバイル研究開発プロジェクト
ワイヤレスアクセスグループ
原田博司
Tel: 046-847-5074
E-mail:harada@nict.go.jp


<補足資料>

開発したソフトウェア無線機は図1に示すように表示部(カメラによる動画像撮影機能付き)及び無線信号処理部からなります。また、その内部は図2に示すようにNICTで独自開発したFPGAボードおよびCPUボード、オープンインターフェースを持った高周波無線ボードからなる共通プラットフォームで構成されています。このプラットフォームの特徴として、OSにμITRONを採用したので、開発したソフトウェアは携帯電話システムへ容易に移植可能です。そしておもに無線伝送に係る物理層はFPGAで、またプロトコルに代表されるデータリンク層、ネットワーク層はCPUボードで動作します。高周波無線信号処理部としては2GHz帯と5GHz帯に対応しています。各ボードの仕様を表1にまとめます。

ソフトウェアは、コンパクトフラッシュカードにより、無線機背部からインストール可能です。インストールはソフトウェアで簡単に行うことができます。このとき、そのソフトウェアの優先度、通信システム切り替えの条件等もユーザーが決定できます。さらに、決められた条件、優先度に応じて自動的にソフトウェアを切り替えることも可能ですし、手動でソフトウェアを切り替えることも可能です。ソフトウェアはW-CDMAシステムおよびIEEE802.11a無線LANシステムを用意しています。特に物理層はデジタル直交変復調からすべてソフトウェアで構築しています。また、IP層以下のすべての部分がソフトウェアとして供給されています。

デモンストレーションは図3に示すもので行われます。ソフトウェア無線機はW-CDMAおよび無線LANのアクセスポイントを介してネットワーク上の固定端末と接続されています。まず無線LANアクセスポイントに対する無線信号レベルを下げ、W-CDMA用の無線信号レベルを上げると、W-CDMA用ソフトウェアが無線機にダウンロードされ、W-CDMAネットワークを介して、動画像、音声通信が実現できます。また、無線LANアクセスポイントに対する無線信号レベルを上げ、W-CDMA用の無線信号レベルを下げると自動的に無線LANに切り替わり、数10Mbpsの高速無線回線を利用した動画像、音声通信が実現できます。


<用語解説>

W-CDMA:
符号分割多元接続方式を利用したデジタル携帯電話システムの1種であり、全世界で使用できる第3世代携帯電話システムとして標準化された移動体通信規格である。日本では、NTTドコモおよびVodafoneによりサービスが行われている。現状、移動時の最大伝送レートが384kbpsの伝送速度が実現されている。

IEEE802.11a:
米国電気電子学会(Institute of Electrical and Electronic Engineers : IEEE)内のLAN技術の基準を定める802委員会が定めた無線LAN(Local Area Network)規格の一つ、変調方式に直交周波数分割多重(OFDM)方式を用い、5.2GHz帯で最大54Mbpsの伝送が可能である。

bps: bit per second
すなわち、1秒あたりに伝送することができるビット数のこと。Mbps(Mega bit per second)は1秒あたり100万ビット伝送することが可能である。

VoIP:
インターネット等で用いられているIPネットワーク上で音声通話を実現する技術。電話網のインフラをデータネットワークと統合を行うことができるため、通信コストを下げることができる。

FPGA:
Field Programmable Gate Arrayの略で各種デジタル信号処理ブロックをプログラミングすることができる大規模集積回路(LSI)のこと。専用LSIより動作が遅く高価だが、汎用的に書き換えができるため試作等によく使われる。1985年にXilinx社 によって初めて製品化された。


図1

図1 開発したソフトウェア無線機の外観図
(左:表示部(カメラによる動画像撮影機能付き、
右:無線信号処理部)


図2

図2 ソフトウェア無線開発用共通プラットフォーム
(左上:FPGA信号処理部、
右上:CPU信号処理部、
左下:高周波無線信号処理部、
右下:処理部をすべて組み合わせたもの)


図3

図3 デモシステムの概要図


表1 共通プラットフォームの基本スペック

表4