報道発表(お知らせ)



独立行政法人情報通信研究機構(以下NICT。理事長: 長尾 真)は、電波と人体との相互影響を調べるための日本人成人男女の平均体型を有する数値人体モデルデータベースを非営利の研究目的に対して無償公開を開始します。国内初の本格的な全身モデルデータベースであり、女性モデルとしては世界で初めてのものであり、海外も含め電磁環境分野に携わっている研究者から大きな注目を集めています。

<背景>
きたるべきユビキタス社会では、我々の身の回りで様々な無線通信機器が使われます。このような電波に取り囲まれた環境で電波が人体へ与える影響を正確に評価するためには、数値人体モデルを用いて電波と人体との相互影響をコンピュータ上で正確にシミュレーションすることが必要とされています。このため、NICTは北里大・慶応大・都立大と共同で日本人の平均体型を有する数値人体モデル「モデル名TARO(男性)とHANAKO(女性)」を開発してきました(補足資料2:図1)。

<モデルの概要>
数値人体モデルとは人体を細かなブロックで分割し、それぞれのブロックに筋肉や脂肪といった組織名を示す番号を付与したものです。それぞれのブロックに電気的特性を設定することで、電波が人体に吸収される様子(補足資料2:図2)をシミュレーションすることができます。数値人体モデルの寸法や臓器重量等については詳細な評価を実施し、欧米人に基づく数値人体モデルとは異なり(補足資料2:表1)、日本人の平均値と一致していることを確認しました(補足資料2:図3、図4)

このモデルは電波と人体との相互影響を調べる目的だけではなく、弾性係数や放射線吸収係数等をモデル内で設定することにより、例えば車が衝突した場合の搭乗者の被害解析や癌患者のための放射線治療計画作成等の様々な分野に応用が可能です。数値人体モデルを様々な研究分野で広く利用してもらうために、非営利の研究目的に対して無償で数値人体モデルデータベースを公開することにしました。データベースの公開は2004年11月1日から開始いたします。

詳細は以下のWebページをご覧下さい。

http://www2.nict.go.jp/mt/b186/bio/bio_human_model.html

<今後>
数値人体モデルについては現在も組織種類の追加や内部組織・重量の標準化等の改良を進めています。また、任意の姿勢・体型・解像度に変形可能な高機能化人体モデルの開発も進めています(補足資料2:図5)。今回の数値人体モデルデータ公開は非営利の研究利用を対象としていますが、今後、営利目的の利用に対する有償のデータ公開についても検討しております。ご興味がある方は担当者までご連絡下さい。



<問い合わせ先>
情報通信研究機構 総務部 広報室
大崎祐次、大野由樹子
Tel:042-327-6923
Fax:042-327-7587
広報室アドレス

<研究内容に関する問い合わせ先>
情報通信研究機構 無線通信部門
生体EMCグループ 渡辺 聡一
Tel: 042-327-7486、Fax: 042-327-6675
E-mail: voxel@ml.nict.go.jp



<補足資料1>

<用語解説>

数値人体モデル
人体(組織・臓器)の形状を微小な要素(本モデルでは一辺が2mmの立方体ブロック)の集合体として表現したもの。各微小ブロックはその部位に対応する組織・臓器名が与えられており、その組織・臓器に対応する電気定数を与えることで電磁界解析シミュレーションに用いることができる。

ユビキタス
ユビキタス(ubiquitous)は、もともとラテン語で、「いつでもどこでも」といった「遍在」を表す。ここでは、無線を通じてネットワークに接続することにより、自由に移動しながら「いつでもどこでも」、ネットワークを利用した仕事や娯楽が行えるようになることを指している。接続する機器は、コンピュータに限らず、将来は一般の家電製品も接続されると考えられる。

電波の人体影響
電波が人体に及ぼす影響について、50年以上にわたって世界各国で研究が行われてきており、その膨大な研究成果によって、携帯電話端末などの電波については熱作用に基づいた電波防護指針が定められている。電波による熱作用の評価には体内への電力の吸収量が指標として用いられ、数値人体モデルを利用した数値シミュレーションによって、正確かつ詳細な評価を行うことが必要である。

弾性係数
物質の変形し難さを表す係数。一般的にこの値が大きいほど変形し難いことを表している。


<補足資料2>

図1
図1 本モデルの3次元表示画像。
(左)3次元直交断面表示画像。色の違いは体内の組織の
違いを表している。
(右)骨強調画像。


図2
図2 垂直偏波の平面波電波 (電波の周波数は30 MHzから3 GHz。電波の強度は1mW/cm2 ) が正面から曝露された時の単位重量あたりに吸収される電波の電力(SAR)分布を色の違いで表している。


表1 本モデルと他の全身モデルの比較

作成機関(愛称)性別身長(cm)体重(kg)組織・臓器数空間分解能(mm)データ
NICT(TARO)日本男性173.265512×2×2MRI
NICT(HANAKO)日本女性160.853512×2×2MRI
NRPB(NORMAN)英国男性17673372.077×2.077×2.021MRI
Utah Univ.米国男性176.471291.974×1.974×3MRI
Victoria Univ.カナダ男性17776343.6×3.6×3.6MRI & VHP 注2
米軍研究所米国男性187.1105431×1×1VHP 注2
JAERI(OTOKO) 注1日本男性170650.98×0.98×10CT

注1:主に放射線ばく露評価に利用
注2:VHP(Visible Human Project)は米国国立医学図書館により推進された人体断面画像の電子的なデータベースであり、全身の人体断面のカラー写真、X線CT画像、MRI画像が整備されている。



図3 本モデルの身体寸法と日本人成人の平均身体寸法の比較。
本モデルと日本人の平均寸法との偏差の平均値は5%以下である(図の数値が1.00に近いほど一致)。



図4 本モデルと平均日本人成人との組織臓器重量の比較。
男性で6割、女性で8割の組織・臓器が平均値との偏差が30%以内
(図の数値が1.0に近いほど一致)。


図5 高機能化の例(任意姿勢モデル)。
肘の屈伸を可能にする作業を示している。


<付記>
数値人体モデル開発メンバーであった北里大学医療衛生学部教授櫻井清子先生が昨年10月10日にご逝去されました。櫻井先生は数値人体モデル開発で最も重要な組織同定作業を担当され、本モデル開発作業において中心的な役割を果たされました。特に世界でも初の女性モデルの開発は櫻井先生が開発メンバーにいなければ実現できないものでした。