- 世界に先駆けて非揮発性分子を高真空中に分子ビームとして取り出す手法(スプレー・ジェット法)を開発
- 平成16年12月20日
独立行政法人情報通信研究機構(以下、NICT。理事長: 長尾 真)は、非揮発性分子をその溶液から、高真空中に分子ビームとして取り出す画期的な手法(スプレー・ジェット法)を開発しました。本手法は非揮発性分子の高真空中での分光、分子堆積、表面分析等様々な応用が産業界から期待され、非揮発性分子の評価や非揮発性の機能性分子を用いた分子素子作製における基盤技術の一つになる可能性を持っています。
<背景>
シリコンなどの無機材料を用いた現在の半導体集積回路は、1つのデバイスのサイズを小さくすることで高速化を遂げています。高性能化するために、更なる加工の微細化が必要ですが、デバイスのサイズがナノメートルスケールに達する時には、技術的、経済的に限界に達すると予測されています。この限界を打破する技術として注目されているのが、機能性分子や分子素子に代表される分子テクノロジーです。分子テクノロジーでは、化学設計・合成技術により、様々な特徴を持った分子を任意に作り出すことが出来るため、分子1個で多様な機能を持ったデバイスやそれらの分子を組み上げた集積回路を構築することが可能となり、現在の半導体集積回路と比較して格段に高い性能を実現できることが予測されています。例えば、青色発光ダイオードの開発に象徴されるように、無機材料を用いて様々な色の発光素子を開発することは容易ではありません。しかし、分子素子を用いると、比較的容易に様々な色の発光素子が開発可能だと考えられています。また、分子素子を利用し、フレキシブル基板のような柔軟性を持ったフィルム状集積回路を作ることも夢ではありません。<今回の成果>
分子素子の製造には、高真空中で機能性分子を基板上に堆積させる必要があります。この際、加熱により気化する機能性分子だけでなく、分子量が大きく気化させることが困難なあるいは高温で加熱すると分解しやすい機能性分子を高真空中に導入し基板に吸着させることが可能になれば、真空中で使用できる機能性分子材料の種類を大幅に増やすことができます。NICTのナノ機構グループでは、多くの分子は溶媒に溶かすことができる特徴に着目し、溶液から高真空中に分子ビームを生成する手法(スプレー・ジェット法)を開発しました。更に分子を基板上に堆積する技術も開発しました。次に本研究の成果であるスプレー・ジェット法を用いた分子ビーム装置の概要を説明します。本分子ビーム装置は、(1)超音波噴霧装置、導入チャンバー、パルスノズルからなる新規導入系、(2) 2段のスキマー構造をもつ差動排気真空系、(3)飛行時間型質量分析装置、基板導入機構をもつ高真空チャンバーから構成されています。まず、超音波噴霧により試料溶液の濃い霧状溶液を生成し、導入チャンバーに蓄え、そこで霧状溶液から溶媒分子を極力取り除いた後、パルスノズル、2段のスキマーを通して、断熱膨張により非揮発性分子のパルス化された分子ビームを生成します。分光評価の際には1波長または2波長の波長可変ナノ秒レーザーを分子ビームに照射し、共鳴多光子イオン化質量スペクトル(REMPI-TOFMS)、共鳴多光子イオン化励起スペクトル(REMPI excatation)等を測定します。この測定から非揮発性分子の真空中での電子状態、振動状態に関する情報が得られます。分子堆積の際には、その分子ビームの進路に基板を導入します。また、高真空を維持したまま、基板を超高真空低温走査型トンネル電子顕微鏡(UHV-LT-STM)に輸送する装置も開発し、スプレー・ジェット法により基板に堆積させた分子の単一分子のトンネル電子顕微鏡画像を得ることも可能になりました。
<今後>
本手法の更なる高性能化を行い、ポリマー、生体分子等の更に分子量の大きい機能性分子に適用していき、分光評価、分子堆積、表面分析等を系統的に行っていく予定です。また、スプレー・ジェット法を機能性分子の分子素子作製にも応用していく予定です。
<問い合わせ先>
情報通信研究機構 総務部 広報室
大崎祐次、大野由樹子
Tel: 042−327−6923、Fax: 042−327−7587
<研究内容に関する問い合わせ先>
情報通信研究機構 基礎先端部門 ナノ機構グループ
山田俊樹
Tel: 078-969-2257、Fax: 078-969-2259
E-mail: toshiki@nict.go.jp