報道発表




独立行政法人 情報通信研究機構(NICT)と独立行政法人 宇宙航空研究開発機構(JAXA)は、成層圏プラットフォームの研究の一環として、平成16年7月から11月末にかけて「定点滞空飛行試験」を北海道大樹町の大樹実験場において行ってまいりました。本試験では遠隔・自動操縦による定点滞空飛行の成功を始めとして、所定の成果を収めることができ、その結果概要がまとまりましたのでお知らせいたします。


<概略>

  1. 目的
    ア.飛行制御技術、運用技術、追跡管制技術の確認、実証
    イ.通信・放送ミッション、地球観測ミッション試験の実施

  2. 飛行回数(低空での浮揚も含む)
    8回

  3. 最高到達高度
    約4,000m

  4. 主な成果
    ア.世界で初めて大型無人飛行船の遠隔操縦、自動操縦による定点滞空を実施し、自律制御による機体制御技術を確立するとともに、遠隔操縦システム等の運用法を確立し、また追跡管制システムの機能・性能が実証された。

    イ.通信・放送ミッションでは無線局位置推定実験等、地球観測ミッションでは植生観測等の試験に成功した。

  5. その他
    当試験の成果は2月23日〜24日にコクヨホールにて開催の第5回成層圏プラットフォームワークショップでも発表いたします。URL:http://www.jsfws.info/spsw2005/index.htmlを参照ください。

<添付資料>
資料1:定点滞空飛行試験について、資料2:定点滞空飛行試験の結果および資料3:ミッション試験の結果


<問い合わせ先>
情報通信研究機構 総務部 広報室
谷岡 大祐、栗原 則幸
Tel: 042−327−6923、Fax: 042−327−7587
広報室アドレス

宇宙航空研究開発機構 総合技術研究本部 広報係
肥土 貴明
Tel:0422-40-3958、Fax:0422-40-3281
E-mail:koho@chofu.jaxa.jp



資料1

<<定点滞空飛行試験について>>

  • 試験目的:
    定点滞空飛行試験は、高度20kmの成層圏に飛行船を滞空させ、新しい通信・放送や地球観測、災害監視等に利用する成層圏プラットフォームの実現に向けた研究の一環として行ったもので、全長70m弱の動力付き無人飛行船型試験機(定点滞空試験機)による飛行試験で、下記の事項を行うことを目的として実施した。
    • 飛行制御技術、運用技術、追跡管制技術の確認、実証
    • 通信・放送ミッション、地球観測ミッション試験の実施

  • 試験期間:平成16年7月〜同年11月末

  • 試験実施場所:成層圏プラットフォーム大樹実験場 (北海道広尾郡大樹町)


<<定点滞空試験機概要>>

■ 試験機外観

写真

■ 試験機仕様

表

■ 試験機鳥瞰図および外部コンパートメント詳細

詳細図

■ 成層圏プラットフォーム大樹実験場

実験場




資料2

<定点滞空飛行試験の結果>

試験機完成(2004年5月14日)

地上確認試験基本特性確認試験(第1及び第2段階) 定点滞空・ミッション試験(第3段階)
テザー状態で、浮力制御機能や地上操作を評価。試験機を左右2機の電動モータ駆動のプロペラによりフリーフライトさせ、基本特性の確認。併せてミッション機器の機能を確認。 中高度及び高高度(4km)の定点滞空を行い、地球観測及び通信・放送ミッションを実施。

地上取扱い
総合試験
離着陸試験
(P2−1)
場周飛行試験
(P2−2)
基本特性試験
(P2−3)
飛行特性データ
取得試験
(P2−4)
中高度
到達試験
(P3−1)
高高度
到達試験
(P3−2)
定点滞空試験
(P3−3)
8月 7日(土)
最高到達高度
8m

・浮力制御システムの機能を確認。

・関連する操作の慣熟・を実施。

8月29日(日)
3m

・上向き推力の調節による離着陸ジャンプ飛行を実施。

9月12日(日)
250m

・場周経路飛行により、低空での飛行特性

・操縦性を確認。

9月24日(金)
560m

・旋回、上昇、加速性能等の基本特性データを取得。

・CAS(操縦性最適化)モードへの切り替えを実施。

10月 5日(火)
600m

・自律モード等による飛行能力及び特性を取得。

・地球観測ミッション(植生観測等)を実施。

11月 5日(金)
2000m

・高度2000mの定点滞空に成功。

・地球観測ミッション(植生観測等)を実施。

11月19日(金)
4000m

・高度3600mの定点滞空に成功。

・通信・放送ミッション(無線局位置推定実験等)を実施。

11月22日(月)
4000m

・高度4000mの定点滞空に成功。

・通信・放送ミッション(光リンク等)を実施。


<試験機、追跡管制分野 試験結果概要>

項目 目 標結 果
全体60m級の試験機を開発し、高度4000mまでの空域で繰り返し飛行試験を行なう。 試験機の開発・製作・運用を実施した。
高度4000m付近で定点滞空する飛行試験を実施した。
構造 4000mまで到達し、差圧・姿勢制御が可能な60m級船体の開発 高度4000mまでの飛行試験を通じて、構造の健全性が実証され、差圧・姿勢制御等に問題を生じなかった。
熱・浮力制御 機体内部ガス状態、浮力等の予測・制御 高度変化に伴う内部ガスの状態等の予測は良好であり、浮力についても概ね予測される範囲で制御できた。
差圧制御 全ての高度域にわたる内外差圧の維持目標高度4000mまでの全ての高度域において差圧制御は有効に機能した。
飛行誘導制御 CAS(操縦性最適化)
機能による遠隔操縦の支援
操舵面、バロネットにより有効な姿勢制御が実現できた。
自律モードによる高度誘導・コース誘導 試験全体を通じて概ね良好に機能し、飛行規程に定められた運用範囲や指定の試験空域を逸脱することはなかった。
自律モードによる定点滞空 一定値以上の風速に対し、所定の範囲に定点滞空させることが出来た。風が弱い場合の旋回を伴う定点滞空範囲は若干大きめの結果である。
空力性能 試験機の基本的な空力特性の把握 実フライトにて試験機の抵抗係数、速度性能、操舵応答などの特性を取得した。またシミュレーションモデルとの良好な相似性を確認した。
地上運用 60m級船体によるハンドリング技術の確立 事前の訓練、運用経験者の確保などにより、安全に地上運用を実施することができた。
運用体制の確立 航空機に準じる運航体制を確立し、要員に必要な訓練を施すこと 風観測・予測システム(MEWS)、飛行・運用シミュレータ(FLOPS)及び追跡管制設備(TTRAC)を統合した追跡管制システム(ITACS)の機能・性能が、飛行船の運用に有効であることが実証された。 FLOPSによる操縦者の訓練は有効であり、 特にMEWS予測風による事前シミュレーションは飛行のリハーサルとして有効であることが確認された。
また、運航基準、飛行規程等を制定し、運航体制を確立した。


<飛行試験例(P3-3 定点滞空試験)>

飛行経路図




資料3

<ミッション試験の結果(1)−通信・放送ミッション−>


定点滞空飛行試験用に搭載機器、地上機器等を整備し、本年5月からの試験作業において、主にEMI試験、基本特性試験、高高度到達試験、定点滞空試験を実施した。高高度到達試験、定点滞空試験においては高度4km付近を定点滞空する飛行船による下記実験を行い、概ね所期の目標データが取得出来た。

  • 無線局位置推定実験
    飛行船に搭載された電波源について、地上に設置したアレーセンサーにより、その位置情報を高精度かつ実時間で推定出来る事の実証を目的として実施。

  • 光リンク機能実験
    広帯域光通信実現に向けた基礎技術の一つとして、飛行船に搭載された光送受信機と地上に設置された光送受信機間における双方向の光リンク機能の実証を目的として実施。

  • デジタル放送実験
    高度4kmの飛行船から広覆域アンテナを使用した広域デジタル放送実験を行い、飛行船の動きにあわせた各種パラメータ取得を目的として実施。


<無線局位置推定実験結果の概要>

1.目的
成層圏プラットフォームから地上の電波発信源や無線局の位置を、高精度に推定するシステムの基礎技術を習得するために実施

2.結果

  • 地上に設置された直交配列アレーセンサーにより、飛行船に搭載された無線局から送信される電波の実時間絶対方位推定を行い、GPSデータとの間の位置誤差10m以内を達成

  • 方位推定は、移動する飛行船の方向を実時間で追尾できることを実証するとともに、2つの直線アレーセンサーを同一直線上に間隔をおいて配置し、センサー開口面を拡大することによる位置推定高精度化に向けた基礎データを取得

無線局位置推定実験結果


<光リンク機能実験結果の概要>

1.目的
将来複数の成層圏プラットフォーム間を直接光による広帯域回線でネットワーク化するための基礎技術習得を目的として実施

2.結果

  • 飛行船に搭載された光追尾アンテナと、地上に設置された光追尾アンテナとの間で、相互の光ビーム(ビーム幅上り約2度、下り約0.5度)を捕捉し、かつ飛行船の動きにあわせてこれを互いに追尾することに成功
    (飛行船と地上間距離4kmでの光捕捉追尾は世界初)

  • 飛行船の動きにあわせて変化する光追尾アンテナの指向方向、光強度等のデータを取得

光リンク機能実験結果の概要


<デジタル放送実験結果の概要>

1.目的
定点滞空する飛行船から地上の広域にわたってデジタル放送等大容量伝送を行うシステムの基礎技術を習得するために実施。

2.結果

  • 実験場から広尾町に至る数箇所で市販受信機を用いた放送受信を行い、ハイビジョン画像の受信に成功
    (飛行船からのデジタル放送は世界初)

  • 各受信点において、飛行船の動きにあわせた受信電界強度およびその変動、受信スペクトル、変調度等のパラメータを取得

  • 最低仰角10度強での受信データ取得を行い、新規に開発した広覆域搭載アンテナの有効性を検証

光リンク機能実験結果の概要


<定点滞空飛行ミッション試験結果(2) −地球観測ミッションー>

1.目的
将来の成層圏プラットフォーム或いは衛星からの地球観測に必要な観測センサ技術を確認すると共に、飛行船から観測対象を予想通りに観測できるか、観測データから目的の情報を把握できるかを確認することが地球観測ミッションの目的である。

2.観測実験結果
以下の3種類の観測センサを搭載した地球観測ミッション機器を研究開発し、飛行特性データ取得試験及び中高度到達試験の2回の飛行試験において、ミッション機器を搭載し観測実験を実施した。

  1. 広画角マルチバンドセンサ(可視・近赤外) : 可視域の複数の波長で観測し、植物の生育状況・大気の状況を把握

  2. 広画角マルチバンドセンサ(熱赤外) : 熱赤外波長で観測し、地表面の温度分布を把握

  3. 高分解能センサ : 走行車両を認識して交通流を把握する基礎実験として、走行車両の時系列データを取得 飛行試験において計画通り観測実験を行い、地球観測ミッションとしての目的を達成した。

地球観測ミッション機器の概観

<3種類の観測センサの仕様>

  広画角マルチバンドセンサ (可視・近赤外) 広画角マルチバンドセンサ (熱赤外) 高分解能センサ
観測波長 545, 678, 763, 865, 940nm
(偏光観測:678, 865nm)
8.6, 10.8, 12.0μm
WideBand(7〜12μm)
可視(RGB)
観測視野
(高度4km)
8km×8km 8km×6km 0.27km×0.36km
地表分解能
(高度4km)
4.6m 16m 30cm
検出器
(有効画素数)
2次元CCD
(1024×1024pixels)
非冷却マイクロボロメタアレイ
(320×240pixels)
3CCD ×4台
(38万画素/1台)
S/N・NEdT 200以上 0.3K程度 -
観測方式 フィルタホイール切替 フィルタホイール切替 動画撮影
(ビデオカメラ)
主要観測
ミッション
植生観測・大気観測 地表面温度分布観測 交通流観測


<地球観測ミッション試験結果の概要>

飛行船に搭載した3種類のセンサを用いて、交通観測や植生観測等を目的とした複数の 観測ミッションに成功。

地球観測ミッション機器の概観
高分解能センサ:交通観測の基礎実験
30cmの空間分解能で動画を撮像し、車両認識の基礎実験として、走行車両の時系列データを取得しました。
(高度:約500m)

●搭載センサによる観測画像例

広画角マルチバンドセンサ(熱赤外)
広画角マルチバンドセンサ(熱赤外) :地表面温度分布観測  (高度:約850m)
3アスファルトは温度が高く、樹高の高い林は温度が低いなど、土地被覆により温度が異なることが分かります。

広画角マルチバンドセンサ(可視・近赤外)
広画角マルチバンドセンサ(可視・近赤外):植生・大気観測
左:678nm(赤)バンド、右:865nm(近赤外)バンド (高度:約850m)
植生の活発な部分は、近赤外波長(865nmバンド)で相対的に明るく撮像されます(丸印)。