報道発表




独立行政法人情報通信研究機構(以下NICT。理事長: 長尾 真)は、目に安全な波長2ミクロンで発光するレーザーダイオード(LD)励起伝導冷却型レーザで、世界最高のパルスレーザ出力460ミリジュール(mJ)を達成しました。
1.4ミクロンより長い波長で発光するレーザは、人間の目に影響をおよぼすことなく、地球を取り巻く大気計測を、人工衛星から行うには最適な光源と考えられています。


<背景>
 衛星からのライダー観測は、地球規模でのエアロゾル(注1.)、風、水蒸気、二酸化炭素等の高度分布が得られることから、気象予報や地球環境観測の分野で注目されています。衛星搭載ライダー(注2.)では、衛星から地球に向けてレーザ光を送信するため目に対する安全性の確保が必要になります。目に対する安全性が高い1.4ミクロンより長い波長で発振(光)するレーザが、衛星搭載ライダーに理想的なレーザであると考えられており、このようなレーザが"アイセーフ"なレーザと呼ばれています。特に、効率が高く液体冷却を必要としないLD励起のアイセーフな伝導冷却型レーザは衛星搭載に適しており、さらに人工衛星を利用した観測でも十分な信号を得られる高出力レーザの開発が望まれています。NICTでは衛星からの風観測を目指し、2ミクロンで発振するアイセーフなレーザの研究開発を進めてきました。

<今回の成果>
アイセーフな伝導冷却型レーザの高出力化には、温度があがらないよう効率良くレーザ結晶から熱を抜きながらレーザ結晶に励起用のLDからの光を集めることが必要です。今回の開発ではTm,Ho:YLF(LiYF4 リチウム・イットリウム・フロライド)製(発振波長2.05ミクロン)のレーザ用結晶から銅製のヒートシンクにインジウムを介して熱を運び、一方で、十分に励起光を集中することに成功しました。500mJ近い高出力を達成するために、レーザ装置を発振器、前段アンプ、後段アンプの3段構造にし、460mJの高出力パルスレーザ光(パルス幅650ナノ秒(1秒/10億))を繰り返し周波数10Hzで実現しました。従来のこのタイプのレーザの最高出力はNASA(アメリカ航空宇宙局)が達成した約100mJでした。今回の開発実験は米国コヒーレントテクノロジー社、NEC、浜松ホトニクスとの協力の下で行われました。

<今後>
今回の技術開発は、人工衛星からの風観測を行う衛星搭載ライダー開発に応用することができます(概念図を下記に示す)。また、本レーザの発振波長は温室効果ガスとして注目されている二酸化炭素の測定に適した波長です。このため、このレーザを使ったライダー技術により二酸化炭素排出量測定への応用が期待されます。こうした宇宙からの高精度測定技術開発は、地球温暖化抑制を目指す京都議定書の実行化にとって不可欠なものであり、引き続きこうした研究開発を遂行し、国際貢献を果たしていきます。


<問い合わせ先>
情報通信研究機構 総務部 広報室
奥山 利幸、大野 由樹子
Tel: 042−327−6923、Fax: 042−327−7587
広報室アドレス

<研究内容に関する問い合わせ先>
情報通信研究機構 電磁波計測部門
ライダーグループ
水谷耕平
Tel: 042-327-6955
Fax: 042-327-6667
E-mail: mizutani@nict.go.jp


<用語解説>

注1.エアロゾル
大気中を漂う微粒子。海塩粒子、煤煙、土埃、硫酸水溶液等。
中国の砂漠地帯からの黄砂や花粉も含まれる。

注2.ライダー
レーザ光を使うレーダの意味からレーザレーダとも言う。パルスレーザ光を大気中に送信し、エアロゾル、大気分子、雲などからの散乱光を望遠鏡で集光して受信し、その強度、スペクトルや偏光等の高度分布を測定する装置。

概念図

ドップラーライダー概念図