報道発表




独立行政法人情報通信研究機構(以下NICT。理事長: 長尾 真)では、研究成果の産業界への普及を推進しており、今回、脳機能研究における研究成果の技術移転を行いました。技術移転の対象は、被験者への刺激呈示装置と、刺激に対する被験者の脳活動を計測するfMRIなどの脳機能測定装置との同期制御を行うことのできる「脳活動制御装置」です。特許は、竹田理化工業(株)にライセンスされ、同社により商品化、販売を開始する予定です。


<背景>
脳の活動を計測する場合、視覚や聴覚、触覚などに刺激を与え、この反応を脳磁図(MEG:注1)、機能的磁気共鳴イメージング(fMRI:注2)、近赤外分光イメージング(NIRS:注3)などの計測装置を用いてデータを取得します。しかしこれまでは、刺激を与える装置と、脳活動を計測する装置とが別々で同期がとれていなかったため、正確な脳活動を計測することが出来ませんでした。

今回、NICT基礎先端部門脳機能研究グループは、刺激呈示装置からの情報の出力と、その刺激に対する脳機能信号の取得の同期制御を可能にする「脳活動計測制御装置」を開発しました(詳細は補足資料2を参照)。それにより、刺激と脳の反応の時間的なずれを、脳活動計測において無視することができるミリ秒精度までおさえることに成功しました。

<成果>
NICTでは、研究成果の産業界への普及の一環として、今回、脳機能研究における研究成果である「脳活動計測制御装置」についての技術移転を竹田理化工業(株)に行い、同社より商品化、販売を開始することになりました。脳機能研究において正確な測定が実現できるこの脳活動計測制御装置は、脳機能研究の推進に大きく貢献できるとともに、医療分野での普及が期待されています。


<問い合わせ先>
情報通信研究機構 総務部 広報室
奥山 利幸、大野 由樹子
Tel: 042−327−6923、Fax: 042−327−7587
広報室アドレス

<研究内容に関する問い合わせ先>
情報通信研究機構 総合企画部
知財・産学連携室
澤田史武
Tel: 042-327-7464
Fax: 042-327-6659
E-mail: ip@ml.nict.go.jp


補足資料1

用語解説 注1.脳磁図(MEG:Magnetoencepharogram)
神経が活動する場合には、細胞単位でイオンや電子が流れます。その電流によって頭部の周囲に磁場が形成されます。MEGとは、脳内の電気信号に伴って発生する極めて微弱な磁場信号を、超伝導量子干渉素子(SQUID)といった高感度センサで計測することによって、脳活動を非侵襲に計測するものです。高い時間分解能を持ったデータを得ることができます。

注2.機能的磁気共鳴イメージング(fMRI:Functional magnetic resonance imaging)
一般の病院等で使用されているMRIの撮影法の一つです。脱酸素化ヘモグロビンの変動に伴う磁気信号の計測により、脳の血流と相関のある信号を高い空間分解能で測定することができます。

注3.近赤外分光イメージング(NIRS:Near-infrared spectroscopy)
頭部などの生体組織に対して透過性の高い近赤外線(波長700nm-1000nm)を外部から照射し、組織を透過してきた光を調べることにより、脳内を流れている血液中のヘモグロビンの酸素化状態、血液量の増減などを測定することができます。fMRIやMEGと違って被験者の頭を若干動かしても正確に計測できることから、被験者の身体的負担が少ないのが特徴です


補足資料2

【脳活動計測制御装置】

脳研究においては視覚や聴覚、触覚などの刺激呈示装置と、脳磁図(MEG)、機能的磁気共鳴イメージング(fMRI)、近赤外分光イメージング(NIRS)などの無侵襲脳活動計測装置を用いて実験を行い、刺激による脳活動信号を解析します。今回開発した「脳活動計測制御装置」は、刺激呈示装置による刺激呈示情報の出力とその刺激に対する脳機能信号の取得の制御を可能とし、さらにそれらの信号間の時間のずれをミリ秒精度で実現したものです(図1)。従来、刺激生成には、Windowsなど通常のOSに基づくソフトウエアや拡張ボードが利用されます。それらは外部への出力端子を備えているため、その出力を計測装置への制御信号として使うことができます。しかし、通常のOSはリアルタイム制御に特化していないために、刺激呈示と脳計測とのタイミングがずれてしまう不都合が生じていました。その問題を解決するために、NICTの脳機能研究グループが開発した制御装置では、OSとは独立して、ほぼ同時に刺激呈示指示信号と装置制御信号とを両方に与えることができ、設定したクロック周波数での動作が保証されていることが特徴です。また、本装置では、複数のディジタルレベル入出力とアナログ入力とがあるため被験者のボタン押しの反応時間などの行動指標や、脈拍、呼吸などの生体信号も取り込むことができます。

 本装置を脳活動計測装置であるfMRI装置(図2)やNIRS装置(図3)に連結させた実証実験も行っています。撮像開始を指示する制御信号をfMRI装置に備わっている心電同期入力に加えfMRI装置については、一秒に一回のパルスを与えて外部信号による撮像開始制御動作を確立させ、その後、パルス幅20msの1ビットの撮像開始信号を与えて、動作を確認しました。NIRS装置については、サンプリング時間が数十ミリ秒から数百ミリ秒であるため、本装置によりサンプリング時間以上のパルス幅を持つマーカー信号を与えて、NIRSの動作を確認しました。このように、本装置をMEG 、fMRI、NIRSいずれに連結させた場合でも、制御信号を数秒ごとに繰り返し与えた結果、実際の実験時間にわたって正確な動作が確認されました。今回の「脳活動計測制御装置」が普及することにより、刺激呈示による脳機能研究が簡易になるとともに、従来、その刺激情報と脳信号情報の取得タイミングのずれが解消され、脳研究にも資することができます。今後は、医療分野での脳機能計測装置の普及が進み、本装置の応用が期待されます。


図

図1 脳活動計測制御システムの構成 (視覚刺激によるイメージ)

装置写真

図2 fMRI装置

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図3 NIRS装置