報道発表



独立行政法人情報通信研究機構(以下NICT。理事長: 長尾 真)は千葉大学(学長: 古在 豊樹)との共同研究により、MRI画像に基づく妊娠女性の解剖学的構造を有する全身数値モデルを世界で初めて開発しました。 今後妊娠女性、特に胎児に対し、より高精度な電波の安全性評価実施に貢献するものと期待されています。


<背景>
近年、妊娠女性、特に胎児に対する無線通信機器等からの電波の安全性評価を行うことが、重要な研究課題となっています。電磁界の安全性評価のためには、人体の解剖学的構造を有した数値モデルを用いた詳細なばく露評価が必要とされています。しかし、これまでに開発された妊娠女性モデルはいずれも子宮や胎児については球や楕円体等の単純形状でモデル化されており(補足資料2:表1)、子宮や胎児の形状や組織構造を詳細にモデル化した高精度な妊娠女性の全身数値モデルの開発が必要とされていました。

<今回の成果>
本妊娠女性数値モデルを開発するにあたり、千葉大学医学部にて妊娠7ヶ月のボランティアの腹部MRI画像を撮像し、同大学工学部メディカルシステム工学科およびフロンティアメディカル工学研究開発センターにて胎児モデル(補足資料2:図1)を構築しました。NICTでは、数値人体モデルの体型を変形するためのソフトウェアを開発し、成人女性モデル(HANAKO,補足資料2:表1)を修正し、妊娠女性の体型に合致するモデルを作成しました。これらのモデルをNICTで開発した3次元可視化ソフトウェア上で合体・調整を行ない、胎児を含む妊娠女性モデルを新たに開発しました(補足資料2:表1,図2)。

本モデルは2 mm立方体ブロック約710万個から構成されており、妊娠女性固有の組織を含む56種類の組織・臓器を有しています。専門家の医学監修により、本モデルの妥当性を確認しており、さらに身体各部位の寸法や臓器重量が妊娠7ヶ月女性平均値に近いことも確認しています。

本モデルは、実際の妊娠女性のMRI画像に基づいた子宮・胎児を含む妊娠女性全身の詳細な形状と組織構造を有しております。こうした詳細な妊娠女性モデルは世界でも初めての開発であり、これまで以上に正確かつ信頼性の高いばく露評価が実施できるものと期待されています。

<今後>
本モデルの詳細は平成18年8月に開催されるIEEE-EMBC第28回国際会議で報告する予定です。また、基本的なばく露条件における解析を実施した後、従来の成人男女の数値人体モデルデータベース同様(http://emc.nict.go.jp/bio/bio_human_model.html)に、一般に公開していく予定です。



<問い合わせ先>
独立行政法人情報通信研究機構
総合企画部広報室
栗原則幸、大野由樹子
TEL:042-327-6923、FAX:042-327-7587
広報室アドレス
   <研究内容に関する問い合わせ先>
独立行政法人情報通信研究機構 電磁波計測研究センター
EMCグループ
渡辺 聡一、長岡 智明
Tel: 042-327-7486、Fax: 042-327-6675
E-mail: voxel@ml.nict.go.jp


補足資料1


【 用語解説 】

数値人体モデル
人体(組織・臓器)の形状を微小な要素(本モデルでは一辺が2mmの立方体ブロック)の集合体として表現したもの。各微小ブロックはその部位に対応する組織・臓器名が与えられており、その組織・臓器に対応する電気定数を与えることで電磁界解析シミュレーションに用いることができる。

MRI
Magnetic Resonance Imaging。核磁気共鳴現象を利用して、人体の断層像を撮像すること。またはそのための装置。人体内部の画像診断装置としてX線CT(Computed Tomography、コンピュータ断層撮像)装置も使用されているが、MRIではX線CTに比べて、各臓器が細部にわたり明瞭に描出されること、X線等の電離放射線を用いないので被撮像者に対する負荷が小さいこと等の特徴がある。



補足資料2


表1 これまでに開発されている主な数値人体モデル

作成機関(愛称)性別対象空間分解能組織数データ
NICT 本モデル日本女性妊娠女性2mm56MRI
HPA(1)英国女性妊娠女性2mm45MRI&数学
FDA(2)米国女性妊娠女性-6CAD
NICT(TARO)日本男性成人2mm51MRI
NICT(HANAKO)日本女性成人2mm51MRI
HPA(NORMAN)英国男性成人2mm37MRI
HPA(NAOMI)英国女性成人2mm41MRI
Utah Univ.米国男性成人3mm29MRI
Victoria Univ.カナダ男性成人3.6mm34MRI&VHP3
米軍研究所米国男性成人1mm43VHP(3)

(1)HPA開発の妊娠女性モデルは、MRI画像に基づいて開発されたNAOMIと妊娠女性固有組織を球や円柱等の数式で表現したハイブリッドモデル。
(2) FDAモデルは、妊娠女性のMRI画像に基づいて開発されたCADモデルであり、胴体部分のみがモデル化されている。
(3) 米国国立医学図書館により推進されている可視化人体画像データプロジェクト。死体断面の光学写真、X線CT、MRI画像等のデータベースが公開されている。


図1 胎児モデルの3次元表示。
胎児モデルは、胎児、胎児の脳、胎児の眼球、羊水、胎盤、そして子宮壁の組織から構成されている。

図1:胎児モデルの3次元表示


図2 妊娠女性モデルのボリュームレンダリング表示
(左:体表画像、中:横からの断層画像、右:正面からの断層画像)。
モデル内の緑色の部分が胎児モデルを示している。

図2:妊娠女性モデルのボリュームレンダリング表示