報道発表


  • テラヘルツマイクロスコープによる絵画の非破壊調査
    〜 テラヘルツ電磁波の実用化〜


  • 平成20年6月26日


独立行政法人情報通信研究機構(以下「NICT」という。理事長:宮原 秀夫。)は、NICTの量子カスケードレーザー技術、絵画材料データベース及びNICTの委託研究で開発中のテラヘルツカメラと組み合わせ、絵画等文化財の非破壊調査に使用可能で、かつ、小型で可搬型のテラヘルツマイクロスコープを開発しました。これにより、測定対象物のある場所で、テラヘルツ分光を用いた材料分析がリアルタイムで実現できます。この技術は、第8次日伊科学技術協力実施計画に基づく文化財の非破壊検査法に関する国際共同研究に活用されます。また、バイオテクノロジー関連、汎用の非破壊検査装置など様々な分野への応用も期待できます。





【研究開発の背景】

 テラヘルツ領域*1は、光と電波の中間に位置する電磁波で、計測や通信等における新たな利用技術の研究が進められています。NICTでは、小型安価で信頼性の高いテラヘルツ波光源として注目されている量子カスケードレーザーの発振を日本で初めて成功させました。更に、委託研究テーマ「ICTによる安全・安心を実現するためのテラヘルツ波技術の研究開発」において、テラヘルツ帯画像計測技術の研究開発を日本電気株式会社(NEC)に委託し、大幅な高感度化に成功しています。また、NICTでは、テラヘルツ波を世界で初めて文化財調査にも応用し、これまで、西洋古典絵画の非破壊分析に役立つ顔料や展色材のデータベースを構築してきました。

 
【これまでの成果】

 テラヘルツ分光*2・イメージングによる絵画材料の非破壊検査は、スペクトルデータベースを構築することにより実現できることが明らかになってきました。しかし、文化財を対象とする場合には、作品が置かれている場所での分析が必要となります。今回開発したテラヘルツマイクロスコープは、市販の赤外線カメラとほぼ同じ大きさで、持ち運びも容易であり、操作性にも優れています。更に、比較的薄い木の板の上に描かれたテンペラ画等は、透過と反射のデータを得ることができ、これにより同じ色でも材料が異なる部分をリアルタイムで検出することが可能です。

 
補足資料参照: テラヘルツ波の透過イメージング例に示すように、肉眼では青2種類、黒2種類が同じ色に見えても、テラヘルツ波ではその差が認識できます。
【今後の展望】

 現在、テラヘルツ帯の単一周波数を使用していますが、今後、複数の周波数を使用することによって、多くの材料の分析が可能となり、数値解析を用いた画像処理を行える等、より正確な材料の同定が実現できる予定です。また、必要とされる観測領域、分解能に合わせた光路設計を行ない、装置のシステム化を進めつつ、国際共同研究等に活用する予定です。更に、文化財分野だけでなく、バイオテクノロジー等、様々な分野に応用できる汎用の非破壊検査技術として、研究開発を加速する予定です。

 

 

<問い合わせ先>
  総合企画部 広報室
   栗原則幸
 Tel:042-327-6923
 Fax:042-327-7587
E-mail:publicity@マークnict.go.jp
< 本件に関する 問い合わせ先 >
  電磁波計測研究センター
   福永 香
 Tel: 042-327-6259
 Fax: 042-327-6673
E-mail:terahertz-arte@マークnict.go.jp


 

 

<用語 説明>
 
*1 テラヘルツ領域
   概ね0.1THz〜10THzの周波数帯の電磁波を示します。その波長は3mm〜30μm(1μmは10-6m)であって電波と光の境界に位置します。テラヘルツは1秒間に1兆回振動する波の周波数、10の12乗ヘルツ(1012 Hz)でTHzと記述します。英語では、terahertz(“tera”は10の12乗を表す英語の接頭辞)と書きます。
   
*2 分光
   物質に光などの電磁波をあてて、その反射や吸収の特性(応答)を測定する方法を分光と言います。その応答(スペクトル)は、物質固有のパターンと物質量に比例したピーク強度を示すため、物質の定性分析あるいは定量分析から天文学に至るまで広く応用され利用されています。テラヘルツ領域では光より波長が長く、分子そのものの動きに応じたスペクトルが得られると考えられています。

 


 
 
  (a) 可視画像(b) THz透過イメージング結果(3.1THz)(c) 使用した顔料の透過スペクトル
(a) 可視画像
(b) THz透過イメージング結果(3.1THz)
(c) 使用した顔料の透過スペクトル
   
   
   
  (d) 測定状況例
   
(d) 測定状況例