報道発表


  • 世界初のリアルタイム宇宙天気統合シミュレータが完成
    〜スパコンで太陽面からオーロラまで再現〜

  • 平成20年7月24日


独立行政法人情報通信研究機構(以下「NICT」という。理事長:宮原 秀夫)は、NICTのスーパーコンピュータを用いて“リアルタイム宇宙天気統合シミュレータ”の開発に世界で初めて成功しました。本システムにより、太陽面から地球の超高層大気までの状態をリアルタイムでコンピュータ上に再現し、表示することが可能となりました。本システムの開発によって、これまでの地球磁気圏の予報に加え、電離圏のじょう乱に起因する衛星測位誤差の増加やオーロラの発生予知も可能になりました。本研究成果は、有人宇宙活動、衛星運用、衛星測位、通信障害等をもたらす宇宙空間のじょう乱現象の予報の大幅な高度化をもたらすものです。




【背景】
 20世紀後半に始まった宇宙探査は、今まさに宇宙の本格利用に向けて宇宙ステーションや実験棟の建設が精力的に進められています。完成後に予定されている様々な有人活動や実験においては、長期間の宇宙滞在や長時間の船外活動が必要になります。しかし、宇宙空間では太陽活動に伴って高エネルギー粒子や強いX線が時々発生し、衛星の機器や人体に悪影響を及ぼします。また、地磁気嵐*1に伴う電離圏*2のじょう乱は、船舶・航空機の無線や海外放送の途絶、GPS *3の測位誤差等を引き起こすほか、電離圏に流れる電流が大きくなると、電力送電線・海底ケーブルなどに異常な電流が流れることがあります。さらに、地磁気嵐による超高層大気の加熱・膨張は、人工衛星の軌道・姿勢障害などを起こす場合があります(図1)。このようなハイテクインフラを維持、発展させるためには、宇宙環境情報の正確な予測が必要で、宇宙環境を数値的に再現・予測できる「宇宙天気数値予報システム」が求められてきました。
 
【今回の成果】
 我々(品川 裕之 主任研究員 他)は、これまでに開発された「リアルタイム磁気圏*4シミュレータ」に加えて、今回新たに太陽・太陽風*5と電離圏・熱圏*6の2つのリアルタイムシミュレータを開発し、太陽から地球周辺までの現在の状態を再現する「リアルタイム宇宙天気統合シミュレータ」の開発に成功しました。これは太陽から地球周辺までをリアルタイムで統合的に計算できる世界で初めてのシミュレータです。これによって、太陽面から放出される太陽風が地球周辺まで到達する様子や、磁気圏、電離圏、熱圏の状態がどのようになっているか、また極域電離圏におけるオーロラの発生を計算で求め、その結果を画像に表示することが可能となりました(図2〜図6)。今回開発したシステムでは、特に、電離圏じょう乱と熱圏大気膨張の予測精度が向上し、無線通信、GPSによる測位、低軌道衛星の運用などの分野で、より正確なじょう乱予測情報を与えることができます。また、従来に比べ、電離圏の状態を約3日程度早く予報できると期待されます。本システムの計算結果は、以下のURLにてリアルタイム公開します。
http://www2.nict.go.jp/y/y223/simulation/realtime/enter.html

これらの物理モデルは、NICTのスーパーコンピュータSX-8R(NEC社製)によって稼働しています。
 
【今後の展望】
 今回開発したシミュレータと、衛星や地上観測で得られるデータとの比較を行い、モデルの検証と改良を行います。さらに、数時間〜数日先までの宇宙環境を予測する技術の開発を行います。そして、3〜4年後に予想される次期太陽活動極大期に向けて、本格的な「数値宇宙天気予報システム」の構築を目指します。

 なお、システムの開発は、九州大学、気象大学校、伊藤忠テクノソリューションズ社の協力と、(独)科学技術振興機構戦略的創造研究推進事業(CREST)「リアルタイム宇宙天気シミュレーションの研究」の下で行われました。

 



< 広報 問い合わせ先 >
総合企画部 広報室
 栗原則幸
Tel:042-327-6923  Fax:042-327-7587
E-mail:publicity@マークnict.go.jp
< 本件に関する問い合わせ先 >
電磁波計測研究センター   宇宙環境計測グループ
 品川 裕之 久保 勇樹
Tel:042-327-6596  Fax:042-327-6661
E-mail:simulation@マークnict.go.jp







  <用語 説明>
   
*1 地磁気嵐
   太陽風が原因となって起きる地球磁場の大きな変動。単に磁気嵐とも言います。地磁気嵐が起きると、オーロラが発生したり、電離圏に強い電流が流れて、電離圏や熱圏のじょう乱を引き起こします。
   
*2 電離圏
   太陽からの紫外線やX線放射によって地上60 km〜数1000 kmの超高層地球大気が電離された領域。電離層とも呼ばれます。下から、D層 (90 km以下)、E層 (90 km-150 km)、F層 (150 km以上) に分けられます。その状態によって、電波が反射・屈折・吸収されるので、電波を用いた通信や衛星測位に影響を与えることがあります。
   
*3 GPS (Global Positioning System:全地球測位システム)
   複数の周回衛星からの電波を受信して、受信機の緯度・経度・高度などを高精度で決定するシステム。容易に位置情報が得られるため、最近ではカーナビなど様々な用途に利用されています。しかし、使われている電波が電離圏の影響を受けるため、高精度の位置決定が必要な場合、電離圏じょう乱が起きると精度が低下することが問題となっています。このことを逆に利用して、電波のずれから電離圏の状態を調べることも可能です
   
*4 磁気圏
   磁場を持った地球などの惑星周辺に形成される磁場が卓越した領域。太陽風の影響を強く受けて構造が大きく変化し、磁気嵐やオーロラなどの現象を引き起こします。
   
*5 太陽風
   太陽から定常的に吹き出している磁場を伴った希薄なプラズマ(イオンと電子)の流れ。流れの速さは通常秒速400 kmメートル程度ですが、速い時には秒速700 km以上にもなり、地磁気嵐の原因となります。
   
*6 熱圏
   地球上空約80 km〜600 kmの、中性大気圏の一番外側の領域。 最下端では約180 K(約-90 ºC)と地球大気では最も低温ですが、高くなるにつれ高温になり、上部では1000 K程度に達することからこの名がついています。領域としては電離圏とほぼ重なりますが、中性大気に注目するときに用いられる名称です。







 
図1.宇宙環境じょう乱が社会生活に与えるさまざまな影響の模式図
図1.宇宙環境じょう乱が社会生活に与えるさまざまな影響の模式図
 
 太陽面の爆発現象によって、強いエネルギーを持ったX線や粒子が放出されると、人工衛星の機器、宇宙飛行士の船外活動、地上のインフラ等にさまざまな悪影響が出ます。これらの被害を事前に防いだり、軽減したりするためには、宇宙環境じょう乱予報が必要です。我々は、太陽風から磁気圏-電離圏-熱圏領域までのリアルタイムシミュレーションモデルを開発して、スーパーコンピュータを用いて太陽面から地上100kmまでの全宇宙空間をリアルタイムに再現することに成功しました。
 
 
(左)太陽付近の磁力線と太陽表面の温度分布(カラーコンター)。
(右)地球公転面内の太陽風速度。赤い色が高速風、青い色が低速風を表します。
図2.リアルタイム宇宙天気シミュレータで得られた太陽・太陽風
 
 (左)太陽付近の磁力線と太陽表面の温度分布(カラーコンター)。(右)地球公転面内の太陽風速度。赤い色が高速風、青い色が低速風を表します。太陽と地球の円は実際よりも大きく描いてあります。太陽表面の観測データを使って数値シミュレーションを行うことにより、太陽表面から地球軌道までの太陽風の状態を求めることができます。
 
 
図3.リアルタイム宇宙天気シミュレータで得られた磁気圏の状態
図3.リアルタイム宇宙天気シミュレータで得られた磁気圏の状態
 
 左上は磁力線、右上はプラズマ圧力、左下は極域の活動度、右下は入力になった太陽風パラメータの最近6時間分のデータを表しています。このモデルは2003年に開発され、現在も稼働しています。
 
 
リアルタイム宇宙天気統合シミュレータで得られた北半球の下部電離圏の電子密度・イオン速度(左)
人工衛星で宇宙から撮影したオーロラ画像(右)
図4.リアルタイム宇宙天気統合シミュレータで得られた北半球の下部電離圏の電子密度・イオン速度(左)と、人工衛星で宇宙から撮影したオーロラ画像(右)
 
 左図では夜側(下側)で三日月形の電子密度の高い領域が見えます。これはコンピュータ上で再現された「オーロラ」です。右図は衛星の紫外線カメラで撮影した画像で、電子密度の高いところに対応しています。右図でも北極の夜側(図の下側)に三日月形のオーロラが見えます。上側の明るい領域は昼側の太陽紫外線の効果によるものです。
(左右の絵は、同じ日時のものではありませんが、シミュレーションにより、オーロラがほぼ現実に近く再現されることを示すために表示したものです。)
 
 
(左)高度300 kmにおける温度上昇量(カラーコンター)と風速(矢印)。 (右)大気密度の上昇量(カラーコンター)と風速(矢印)。
図5.リアルタイム宇宙天気統合シミュレータで得られた熱圏の状態
 
 (左)高度300 kmにおける温度上昇量(カラーコンター)と風速(矢印)。(右)大気密度の上昇量(カラーコンター)と風速(矢印)。いずれも静穏時大気からの変動量を表しています。中心が北極点、上側が昼側。磁気嵐が起きると極域で太陽風のエネルギーが超高層大気に流入して、温度が大きく上昇します(左図の赤い領域)。この加熱は、大気膨張を引き起こして密度を上昇させ(右図の赤い領域)、非常に大きなじょう乱時には大気摩擦によって人工衛星の軌道を変えてしまうこともあります。
 
 
図6.東京付近における電離圏じょう乱日(2008年6月14日〜15日)(赤線)の電離圏全電子数
図6.東京付近における電離圏じょう乱日(2008年6月14日〜15日)(赤線)の電離圏全電子数(単位1016cm-2)の変化
 
 (上)リアルタイム宇宙天気シミュレータの計算結果。(下) 観測から求められた電離圏全電子数。点線は電離圏静穏日の変動を表しています。6月14日終わりから15日にかけて、静穏日に比べて明らかに電子密度が上昇しているのが再現されています。