|
|
独立行政法人情報通信機構(以下「NICT」という。宮原秀夫理事長)と独立行政法人理化学研究所(以下「理研」という。野依良治理事長)とは、実験試薬や絵画材料などを盛り込んだ500種以上のテラヘルツに関するデータを統合したデータベースを共同で構築及び整備し、9月15日(月)からwebで公開し、誰もがアクセスできるデータ検索を可能とします。 |
| NICTと理研は、これまで作成してきたテラヘルツ領域*1のデータベースを統合することで、データベースの要であるデータ収録数を増加させ、さらに利用促進を図ることを目標として2008年初めに、データベースの統合化に向けて、検討を始めました。 |
| 新しく構築するデータベースでは、NICT、理研にとどまらず、世界各国の研究機関が保有するスペクトルデータを提供しやすいように、データベースに関する専門的な知識がなくてもデータ登録や更新をweb上で行うことができるようになりました。また同時に、収録されたデータは一括で、分野横断的な検索を可能なインターフェースの提供もできるようになりました。 |
| これらは、NICT新世代ネットワークセンター 先端ICTデバイスグループ寳迫 巌グループリーダーおよび電磁波計測研究センター EMCグループ福永 香研究マネージャーと理研基幹研究所(玉尾皓平 所長)先端光科学研究領域テラヘルツ光研究グループテラヘルツ光源研究チームの伊藤 弘昌チームリーダー、南出 泰亜 副チームリーダーらの成果です。 |
| テラヘルツ光は、これまで強い出力が得にくい、扱いにくいといった理由から研究があまり進んでいませんでした。しかし、テラヘルツ光の発振や検出手法の改善が進んで、比較的容易に扱える技術土壌が整い、研究の裾野が急速に広がってきました。そこで、テラヘルツ光に対する物質の性質や吸収スペクトルをまとめたデータベースが必要とされています。特に、「指紋スペクトル*2」と呼ばれる物質固有の吸収スペクトルを示すテラヘルツ光を利用すると、多くの物質を判別でき、新しい分析手法の1つとして利用できることがわかってきました。 |
| NICTでは、電磁波計測研究センターが中心となって、テラヘルツ分光を、文化財の非破壊検査に用いる基盤技術として利用しています。西洋古典絵画、現代の修復材料など、200種以上の絵画材料の定性的な指紋スペクトルを取得し、そのデータベースを公開、国内外の文化財関係者の注目を集めています。 |
| 理研では、テラヘルツ光源研究チームらが中心となって、実験系試薬の吸収スペクトルのデータ収集を開始し、約200種の試薬について物質固有のテラヘルツ光吸収スペクトルを測定し、2007年にその定量的な結果をデータベースとして公開しました。それ以来、国内外の研究グループ、産業分野からアクセスが続いています。 今回、両者が連携し、世界に先駆けて日本発の統合テラヘルツデータベースを構築し、成果を公開します。公開するデータベースは、分野や測定手法の異なるテラヘルツ光のデータを統合し、約500種の物質に関して収録したもので、指紋スペクトルのデータはキーワードで一括して検索することが可能です。 |
| さらに、多数の研究機関が吸収スペクトルのデータを提供しやすいよう、多機関参加型インターフェースやフォーマットを設けており、今後、参加機関を募り、より広い分野のデータベースへと拡充する予定です。こうして、わが国だけでなく諸外国の幅広い学術分野、産業分野への利用を促進することが期待できます。 統合したデータベースは、米国カリフォルニア州パサデナ市で開催される国際会議IRMMW-THz (9月15日〜19日) にて報告し、各国の研究者へ参加を呼びかけると同時に、9月15日からウェブ(URL: http://www.thzdb.org/)上で公開します。 |
| 1.背 景 | |
| 0.1〜100テラヘルツ(THz:テラは10の12乗)の周波数を有する電磁波のテラヘルツ領域には、「指紋スペクトル」と呼ばれる物質固有の吸収スペクトルが存在しています。基礎研究や産業応用の分野では、指紋スペクトルを活用するために、さまざまな物質や材料ごとに光との相互作用を詳細に調べ、データベース化することが重要となっています。これまで、赤外領域*3では、物質との相互作用を網羅したデータベースが市販されていましたが、テラヘルツの領域ではまとまったデータベースがなく、各研究機関が個別に、その研究分野に応じて、小規模な独自のデータベースを作成しているだけでした。 NICTでは、テラヘルツ光を分光した応用例として、文化財の非破壊検査に取り組んでいます。テラヘルツ分光は、X線などによる元素分析にくらべ、混合物そのものを同定できる可能性がありますが、その特徴を発揮させるためには、絵画材料の吸収スペクトルのデータベース構築が必要不可欠です。そこで、中世古典絵画および現代の修復に用いられる200種以上の絵画材料の定性的なスペクトルデータを取得し、2007年から公開しました。これらのスペクトルは、テラヘルツイメージング技術を用いた文化財の非破壊検査法の基盤技術として、世界各国の美術館関係者からも注目されています。 一方、理研では、実験系試薬のほか、糖やアミノ酸などの生体関連物質、農薬および無機結晶などのスペクトルを収集し、2007年から一般に公開を始めました。 |
|
| 2.研究手法 | |
| NICTと理研は、これまで作成してきたテラヘルツ領域のデータベースを統合することで、データベースの要であるデータ収録数を増加させ、さらに利用促進を図ることを目標として、2008年初めにデータベースの統合化に向けて検討を始めました。新しく構築するデータベースでは、NICT、理研にとどまらず、世界各国の研究機関が、保有するスペクトルデータを提供しやすいように、詳細な実験条件などの公開・非公開を柔軟に設定できるようにしました。さらに、データベースに関する専門的な知識がなくても、データ登録や更新をウェブ上で行うことができるようなシステムを構築しました。その結果、収録したデータを一括で分野横断的に検索でき、データの提供を簡便にできるインターフェースを公開できることになりました(図1)。 | |
| 3.研究成果 | |
| 統合データベースには、実験系試薬のほか、糖やアミノ酸などの生体関連物質、農薬、無機結晶などのスペクトルデータのほか、鉱物系を中心とした無機顔料、植物由来の多い有機染料などを収録しています。そのデータ数は、約500種です。 こうしたデータベースは、地球科学や食品科学、一般工業などに広く活用することができます。例えば、郵便物中に隠された物質を開封せずに同定したり(図2)、食品中の混入異物を同定するといったことが期待でき、世界的な課題である、安心で安全な社会の実現に重要な手法といえます。 さらに、最近、NICTでは、統合データベースを活用することによって1200年代の羊皮紙に書かれた赤の顔料を特定することができました(図3)。 |
|
| 統合データベースへのアクセスは、ウェブ(URL: http://www.thzdb.org/)上で行うことができ、9月15日より一般に公開します。 | |
| 公開時に参加が決まっている団体は以下の通りです。 | |
| ● | 情報通信研究機構 |
| ● | 理化学研究所 |
| ● | 東北大学大学院農学研究科 テラヘルツ生物工学寄付講座 |
| 4.今後の展開 | |
| 今後、両機関の研究の進捗に伴い、データを拡充していくだけでなく、多くの研究機関などからデータの提供を受けることで、データベースの質を向上させ、より利用しやすいデータベースへと展開する見込みです。特に、バイオテクノロジー、薬品などテラヘルツの利用が進んでいる分野や、国内外で大きなプロジェクトが立ち上がりつつある文化財分野、さらに、建材などの一般的な非破壊検査の分野のデータを拡充させていく計画です。また、イタリアENEA(Ente
per le Nuove tecnologie, l'Energia e l'Ambiente:イタリア新技術エネルギー環境公団)などへデータの提供の協力を呼びかけ、データを充実させる予定です。このようにデータベースを随時拡充させながら、2010年にはデータ数2000件を目指します。こうした参加型のデータベースは世界的に例がなく、またデータ数も世界最大規模となります。 この統合データベースが、既存の産業の促進および新規産業の創生に寄与すると期待できます。 |
|
|
|
|||
| *1 | テラヘルツ領域 | ||
| 0.1〜100テラヘルツ(THz:テラは10の12乗)の周波数を有する電磁波の周波帯域。ミリ波・サブミリ波・遠赤外線が該当する。この領域の電磁波を、テラヘルツ波やテラヘルツ光と呼ぶことがある。 | |||
| *2 | 指紋スペクトル | ||
| テラヘルツおよび赤外領域に存在する物質固有の吸収スペクトル。そのスペクトルから物質を見分けられることから、人間の指紋になぞらえて指紋スペクトルと呼ばれる。特に、テラヘルツ領域の指紋スペクトルを、テラヘルツ指紋スペクトルと呼ぶ。 | |||
| *3 | 赤外領域 | ||
| 可視光よりも波長が長く、テラヘルツ光よりも波長の短い帯域。この帯域にも多くの分子において固有の吸収スペクトルがあり、それらはデータベース化されている。 | |||