【背景】
近年、コンピュータウイルスや
DoS(Denial of Service:サービスの妨害)攻撃、
DDoS(Distributed DoS:分散型サービス妨害)攻撃など、インターネット上の犯罪や事故は増大しており、社会インフラとしての安全対策が求められています。しかし、インターネット上の住所であるIPアドレスの書き換えなど、発信源が隠蔽、詐称されている場合には特定が困難であり、対策が望まれています。
これに対しNICTでは、平成17年度から平成21年度まで「インターネットにおけるトレースバック技術に関する研究開発」を実施しています。IPアドレスが詐称されている状態で攻撃元を特定するには、どこからどのような経路で通信が行われているのかを把握する必要があります。また、セキュリティポリシーやプライバシーポリシーの異なる複数のISPが連携し、通信の秘匿性を確保する必要もあります。
【今後の展開】
本研究開発は、複数のISPの管理するネットワークを超えて、不正アクセスの発信源を追跡し逆探知が可能なことを実証しました。これにより、発信源への迅速な対処が可能になるとともに、サイバー攻撃に対する大きな抑止効果となり、より安全で安心なインターネット環境の実現につながります。
トレースバック相互接続システムのソフトウェアを、以下のURLにおいてオープンソースとして公開していま
す。
[トレースバック相互接続システムソフトウェア(名称:InterTrack)公開URL]
http://intertrack.naist.jp/
- 株式会社KDDI研究所による成果
• トレースバック検索システム
- 各ISPの担当者からの要求により、トレースバック管理センターが逆探知を行うための検索システム。ISP間で直接情報交換することなくトレースできる機能を実現している。
- 財団法人日本データ通信協会による成果
• 実インターネット環境における実証実験の実施
- 開発された各システムの構成や運用ルールの制定を運用面や制度面での課題を考慮して行い、実インターネット環境での模擬攻撃を使用した実証実験を実施した。
<用語 解説>
- トレースバック
- トレースバックとは追跡のことを指し、インターネットにおけるトレースバックでは、実際にどこからパケットが送られてきたのか、通信経路を追跡して発信源をつきとめること。
- インターネット接続事業者(ISP)
- インターネット接続事業者(Internet Service Provider:ISP)とは、電話回線や光ファイバー回線などを通じて、インターネットへの接続を提供する事業者のこと。
- DoS(Denial of Service:サービスの妨害)攻撃
- サーバなどのネットワークを構成する機器に対して、サービスの提供を不能な状態にする攻撃のこと。
- DDoS(Distributed DoS:分散型サービス妨害)攻撃
- 複数のコンピュータにより、標的とされたサーバ等に行うDoS攻撃のこと。
- ハッシュ値
- 加工前の情報(パケットヘッダー情報)から特定の処理を行うことで算出された値。データ量が縮減されるとともに、不可逆性・匿名性を持つ。
補足資料
トレースバック実証実験の動作概要
システムの動作概要(実証実験の開始により以下の動作が開始される)
⑴
パケット収集システムによるハッシュ値の算出と保管を開始する。
⑵
IDS(Intrusion Detection System)が模擬攻撃パケットの検出を開始する。模擬攻撃パケットを検出した場合、模擬攻撃パケットのハッシュ値を算出し、トレースバック相互接続システムへ提供する。
*IDS:ネットワークを流れるパケットを監視して、不正アクセスと思われるパケットを発見した場合に管理者に通報するシステム。
⑶
トレースバック相互接続システムは提供されたハッシュ値をもとにトレースバック相互接続システム間で問い合わせを行い、その結果得られた模擬攻撃パケットの経路情報をトレースバック管理センターのトレースバック検索システムへ登録する。
実証実験参加者のオペレーション概要
(イ)
ISP-Aの真の攻撃者役が発信元のIPアドレスをISP-Bの見せかけの攻撃者役のIPアドレスに詐称して、ISP-Cの被害者役宛の模擬攻撃パケットの送出を開始する。
(ロ)
被害者役が模擬攻撃を検知し、ISP-Cの担当者に問題の解決を要請する。
(ハ)
ISP-Cの担当者は被害者役からの要請により、模擬攻撃パケットのハッシュ値を確認し、
トレースバック管理センターに模擬攻撃パケットの探索を依頼する。
(ニ)
探索依頼を受けたトレースバック管理センターは、トレースバック検索システムを利用して模擬攻撃元を探索し、ISP-Aであることを特定する。
(ホ)
模擬攻撃元を特定したトレースバック管理センターは、模擬攻撃元のISP-Aの担当者に模擬攻撃の停止の対処依頼をする。ISP-Aの担当者が真の攻撃者役に対して模擬攻撃パケットの送出を停止するように依頼する。
参考
パケットヘッダーにある発信元のIPアドレスでトレースするのではなく、通過したパケットのハッシュ値を痕跡としてトレースをするので、発信元のIPアドレスが詐称されていても発信源を特定することが可能となっている。