CO2計測ライダー

19世紀半ばに第2次産業革命が始まり、人間活動による化石燃料の消費が増えることにより、温室効果ガスの一つであるCO2の排出量が増えました。世界人口の増加は、化石燃料の消費拡大をもたらし、その消費量は世界人口の増加の割合に比べて20-30倍に達するという状況です。大気中のCO2濃度は、この約200年もの間に280ppm程度から400ppmにまで上昇しています。森林破壊等も含めた温室効果ガス(CO2,CH4,N2O等)の増大が地球温暖化を引き起こしていると考えられています。南極の氷コア解析は、あきらかなCO2濃度増加と気温上昇の相互関係を示しています。

地球温暖化による平均気温の上昇があきらかになる中、京都議定書の第一約束期間が始まりました。日本は2012年までに1990年レベルから6%のCO2排出量削減の約束をしています。世界では最終的にCO2の排出量を半減する必要があると言われています。 CO2の削減策の効率的な策定と評価のためには、大気中CO2の正確な分布計測を行い、個別排出源、海や森林などの吸収源のCO2吸収・排出量を地球規模で推定する必要があります。しかしながら、それらの吸収源の性質や空間的・時間的変動は、必ずしも十分には理解されているとはいえません。

衛星からの観測はCO2濃度の空間的・時間的な分布を地球規模で測定でき、炭素循環を理解するために必要なデータを取得するための有望な手段となります。必要とされるCO2カラム密度の測定精度は、1%未満とされています。2009年1月に受動センサーを用いる温室効果ガス観測技術衛星いぶき(Greenhouse Gases Observing Satellite:GOSAT)が打ち上げられました。同じように受動センサーを搭載した観測衛星OCO-II(Orbiting Carbon Observatory)が米国に2013年に打上げられる予定です。一方、次世代の衛星センサーを目指して各研究機関では、能動型センサーである差分吸収ライダーの開発が活発に行われています。NICTでも、大気中のCO2濃度計測用差分吸収ライダーの開発を始めています。

差分吸収ライダー(DIAL: Differential Absorption Lidar)とは、大気中にCO2のような大気中の微量成分によって吸収されるレーザ(on)と光を吸収しないレーザ(off)を射出し、大気中のエアロゾルや雲によって散乱されたそれぞれの受信電力を計測し、その電力の比から微量成分濃度を決定する、能動的リモートセンシング技術です。

CO2濃度計測用差分吸収ライダー
▲CO2濃度計測用差分吸収ライダー

上の写真は、開発したCO2濃度計測用差分吸収ライダー。このライダーは、コヒーレント方式によるライダーのため風も計測ができます。

観測例
▲観測例

上のグラフは2008年4月28-29日、5月1-2に得られた観測例。黒丸がライダーによる結果、灰色の太線は比較のために設置された地上測定器。ライダーの結果は、地上測定器の結果と良く一致しています。