過去の研究開発と宇宙実証

OICETS

OICETS(「きらり」)とは

宇宙航空研究開発機構(JAXA)の開発した光衛星間通信実験衛星OICETS(以下「きらり」)は、高度約610kmを周回している低高度地球周回衛星で、数万キロメートルを隔てた衛星と衛星の間で、レーザ光を使った光通信(光衛星間通信)実験を行うための技術試験衛星である。

「きらり」は2005年8月にドニエプルロケットによりカザフスタンから打ち上げられ、軌道高度610km、軌道傾斜角97.8°の太陽同期軌道へ投入された。 
その後2005年12月に「きらり」と欧州宇宙機関(ESA)の静止衛星ARTEMISとの間で、世界初の双方向光衛星間通信実験が成功裏に実施された。

非常に絞ったビームを使用するため、秘匿性が高く(干渉がない)、衛星に搭載される機器が小型・軽量・低消費電力ですみ、超高速で通信できるため大容量のデータをスムーズに通信できるという特徴がある。

NICT光地上局-「きらり」間 での光通信実験

「きらり」は、慣性空間に衛星姿勢を固定することにより、静止衛星方向のみではなく光地上局の方向へも光アンテナを指向することができることができるため、NⅠCTの宇宙光通信地上局の上空において、地上-低軌道衛星間で光通信実験が2006年3月、5月及び9月に実施された。

GOLEM

きらり」は、JAXAによりコマンドが送信され、計画された実験時刻に動作するように設定・制御される。NICT光地上局では、「きらり」が仰角15度以上の可視範囲になると衛星追尾を開始し、双方向のレーザー通信を行った。
人口衛星と光地上局間の光通信は、大気のゆらぎ等に影響され、さらに高速で移動しながら地球局に正確にレーザーを送信し続けなくてはならず、さらに低軌道衛星を用いた光通信実験は、静止軌道衛星と比べ相対移動速度が速いため捕捉追尾にさらに高精度な技術が必要とされます。

NICT光地上局の構成

・レーザー送信装置

光宇宙通信において大気ゆらぎを抑え、レーザ光のアップリンク信号を安定化するために、今回の実験では、「単一レーザ光源からのビームを空間的に複数に分けて空間コヒーレンス長より長くなるように遅延を与えた後、再びビームを合成する」という方法で行った。 NICT地上局では、「通信用レーザ伝送装置」と「ビーコンレーザ伝送装置」の2つのレーザー光源からビームを送信した。通信用レーザ伝送装置は、その変動を押さえ通信回線を安定させるために、4本のビームを平行して射出した。

  波長 ビーム広がり角 レーザー出力 波面精度
通信用レーザ伝送装置 815nm 200μrad 500mW(max) 0.104λ(rms)
ビーコンレーザ伝送装置 808nm 9mrad 30W(max) 0.150λ(rms)

・レーザ受信装置

3月の実験では受信光学系は1.5m望遠鏡の右肩上に設置され20cm開口の望遠鏡で受信した。
5月・9月の実験では1.5m望遠鏡のサブ開口を用いて受信し、受信光学系はクーデベンチ上に設置。 受信したレーザ光は通信信号と追尾信号へ分けられ、同時に大気ゆらぎの測定も行っており、DIMM(Differential Image Motion Monitor)法を用いて、大気のコヒーレンス長の測定を行っている。

また、伝送速度49.3724Mbpsでの光受信器の誤り率(BER)特性はBER=10-6において受信電力-46dBmの特性である。


【きらり捕捉追尾の様子】

NICT光地上局で撮影された衛星捕捉追尾の様子
2006年3月29日 約6分間衛星捕捉追尾に成功
地上でのレーザビームのフットプリント:約6m(距離:1000km)

実験結果

3月の実験は4回計画され、そのうち1日曇りで実施できなかったが、3回中3回とも捕捉追尾に成功。 5月の実験では、ほとんどが雲により回線断となったが、特筆すべきは、5月16日には雲による-27.9dBの減衰があっても捕捉追尾に成功。
9月の実験では、地上局からのアップリンクのアイパターンを改良し、アップリンクとダウンリンク同時に良好なBER(誤り率)を取得。

oicets result

光回線確立の統計結果

今回の実験により、晴天時はすべて追尾に成功し、都市近郊の大気ゆらぎ存在下でも光リンクが確立できることが実証された。静止-低軌道衛星間用に設計された光ターミナルが、限界駆動性能を超える地上局との通信にも十分適応できることを確認できた。またアップリンクの信号変動を複数ビーム(4本)でアップリンクすることにより信号変動を抑えることに成功、ダウンリンクも開口平均効果により信号変動を低減できた。

今後フェージング対策をしていけば、将来、高速大量通信として期待される。また航空機、人工衛星飛翔体との光空間通信等への応用が期待される。

「きらり」その他の実験

2006年6月にはドイツ航空宇宙センター(DLR)の光地上局(バイエルン州ウェスリング)との間で、レーザ光による光通信実験を実施し、3分間の光通信(「きらり」からのダウンリンク)に成功した。
今回の実験は、DLRの光地上局が一般的な地上局とは異なり、場所の移動が可能なシステムである可搬型であり、本実験の成功により、衛星と可搬型光地上局による柔軟な光通信ネットワークの可能性を実証した。
これにより天候等に左右されることがない光衛星通信システムの構築が期待される。

 今後「きらり」は、ARTEMISとの衛星間の光通信実験、NICTやドイツ航空宇宙機関(DLR)等の機関が所有する光地上局との通信実験を継続し、宇宙環境下での光衛星間通信機器の性能確認、大気の影響評価等を行う予定である。

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