1999年5月10-12日のLOW SOLAR WIND DENSITYイベント

[現象の概要]

1999年5月10日から12日にかけて太陽風の密度が極度に減少する現象(密度が最小で0.02個/cc程度、通常の密度4個/ccの1/200程度)が観測されました。このとき太陽風の速度も約350km/s程度と低速でした。このため太陽風による磁気圏への動圧が減少し、地球の磁気圏が体積で通常の約十倍くらいの大きさになったと考えられています。WIND衛星や月探査機Lunar Prospectorの直接観測によれば、52〜63地球半径のところで、太陽風と地球磁気圏の相互作用による衝撃波(bow shock)が観測されています。この影響として、米国の気象衛星GOESによって測られている静止軌道の磁場では、日変化がほとんど見られなくなりました。また、NASAのPolar衛星によれば、通常は、リング状に観測されているオーロラがほとんど観測されなくなりましたこのような現象は稀にしか観測されないもので、「太陽風が消失した日(The Day the Solar Wind Disappeared)」というタイトルで、NASAによる報道発表が行われました。

NASAの報道発表に使われた画像

LOW SOLAR WIND DENSITYイベントの統計

1963年から1999年までの太陽風データをもとに密度が0.5個/cc以下のイベントについて継続時間とその発生数を調べてみました。5月10〜12日のイベントでは、継続時間は22時間で、これまで観測された現象の中でもっとも継続時間の長い現象でした。また、観測された密度もこれまでの観測の中で最小のものでした。

 ☆継続時間と発生数(密度が0.5個/cc以下のイベント)

 年毎の発生数(密度が0.5個/cc以下で継続時間が6時間以上)

●LOW SOLAR WIND DENSITYイベントにおける磁気圏の大きさの評価

太陽風による力:2ρV**2と地球磁場Bによる圧力:B**2/2μoが釣り合っていると仮定すると磁気圏の境界付近の地球磁場は、B=2Bo(Ro/R)**3で与えられるので、境界の位置Rは、R=(Bo**2/μoρV**2)**(1/6)・Roで与えられます。(ここで、ρ:太陽風密度、V:太陽風速度、μo:真空の透磁率、Ro:地球半径、Bo:赤道面における双極子磁場の強さ、30000 (nT)。) このイベントでは、ρが通常の1/20、Vが通常の2/3に減少したとすると、Rは、通常の約2倍の大きさ(体積では約8倍)になったと計算されます。

地球磁気圏と太陽風の相互作用による衝撃波(bow shock)の位置

半径Roの球型の物体の場合、ショックフロントまでの位置Rsは、比熱定数が5/3のときは、Rs=1.18*Ro*M/(M**2-1)**(1/2)で与えられます。ACE衛星の太陽風観測データをもとに地球の太陽側正面での太陽風による力と地球磁場による力が釣り合った点の位置、衝撃波(bow shock)までの位置を計算してみましたWIND衛星月探査機Lunar Prospectorの直接観測(図中の印がつけられた部分が衛星がシース領域に入っているところです。)によれば、52〜63地球半径のところで、太陽風と地球磁気圏の境界が観測されています。(NASAによるこのときの太陽風と磁気圏の相互作用のシミュレーション結果

●太陽風の状況

  5月12日にセクターがawayからtowardsに変化しています(セクタ境界通過)。

 ACE衛星による観測(1999/05/05-15)

 陽光・SXT観測より作成したシノプティックチャートと対応する太陽風速度

 ACE/SWEPAMチームによる解釈

●太陽活動太陽活動は、それほど高くはありませんでした。 

 ☆GOES衛星による太陽X線フラックスの観測(1999/05/05-15

5月8〜9日頃に南北に走るへリオスフェリック・カレントシートが太陽の子午線を通過しています。(図中の青線は地球の位置を投影したものです。)

 ☆Wilcox観測所での磁場観測(CR1949:1999/05/01-27、光球2.5Rsanim_gif)

 Wang & Sheeley モデルによる太陽風速度の予測値

 SOHO/LASCOによる太陽コロナ観測によって得られたシノプティックチャート(CR1949

 京都大学飛騨天文台

 ☆国立天文台

 ☆野辺山太陽電波観測所 (へリオグ観測レポート)

 ☆「陽光」のSXTサマリーレポート・サマリプロット(5/34578)

 ☆SOHO/EITによる観測

●磁気圏への影響IMFが北向きだったため10〜12日にかけて地磁気活動は静穏でしたが、地磁気の日変化パターンがほとんどみられなくなりました。

 GOES衛星による軌道におけるプロトン、電子、磁場の観測

   Polar衛星の白色光カメラによる5月11日と13日の観測

   Polar衛星の5月11日のX線カメラによる観測

 ☆気象庁柿岡地磁気観測所の地磁気観測(1999/05/01-15

 京都大学地磁気世界資料センター:AE指数(1999/5/89101112131415)

 Polar衛星によるオーロラ観測(白色光紫外光

 アラスカ大学GIの地磁気観測

 ☆アラスカ大学のオールスカイカメラによるオーロラ観測

 ☆SuperDARNによる観測

●電離圏・超高層大気への影響

 ☆情報通信研究機構の電離層観測データ(電離圏世界資料センター

  稚  内(1999/05/08-111999/05/12-15

  国分寺(1999/05/08-111999/05/12-151999/05/09-13

  山  川(1999/05/08-111999/05/12-15

  沖  縄(1999/05/08-111999/05/12-15

 アラスカ・ポーカーフラットでの情報通信研究機構のイメージングリオメータ観測

   (1999/05/09, 10, 11, 12, 13, 14, 15

 名大STE研大気光イメージングシステム(OMTI)

[関連リンク]

AGU 1999 fall meeting スペシャルセッション

○”When the Solar Wind Disappeared”(A Special Session in AGU 1999 fall meetingのフォローアップ)

ISTPイベント解析のページ