第18回IVS技術開発センター会議　議事録　　(2001.3.31)
　　　　（作成：関戸衛、編集：近藤哲朗）


平成１３年３月２１日（水）　午後１時半～午後５時半
場所：通信総合研究所本所　４号館２階中会議室

出席者：

外部専門委員
　川口則幸	国立天文台                 　　　　
　小林秀行	国立天文台                 　　　　
　福﨑順洋	建設省国土地理院測地部測地第二課   
　渋谷和雄	国立極地研究所南極圏モニタリング研究センター
　魚瀬尚郎	ＮＴＴ情報流通プラットフォーム研究所
オブザーバー
　松坂　茂	建設省国土地理院   

（欠席）
　日置幸介	国立天文台                 　　　　
　仙石　新	海上保安庁水路部航法測地課  
　岩田隆浩	宇宙開発事業団SELENEプロジェクトチーム

内部

飯田尚志、塩見　正、廣本宜久、増子治信、森川容雄、吉野泰造、今江理人、細川瑞彦、栗原則
幸、国森裕生、勝尾双葉、雨谷　純、木内　等、大坪俊通、花土ゆう子、後藤忠広

（以上本所）

近藤哲朗、小山泰弘＊、中島潤一、関戸　衛、大久保寛、大崎裕生
（以上鹿島宇宙通信センター）＊内閣府併任

合計２８名

１．挨拶　　所長　（飯田尚志）

　本日はお忙しいところありがとうございます。　VLBI技術開発は、情報通信の分野でも大量の
データをやり取りする技術として注目されています。4月より独立行政法人化されることで予算の
弾力的運用面で、今後の協力がよりしやすくなると期待しています。今後ともご支援よろしくお願
いします。

２.　CRL技術開発センター活動報告

２－１　第5回IVS評議会（NASA/SFC)報告　（近藤哲朗）

　繰り返しになるが、ＩＶＳについて最初に説明を行う。　国際VLBI事業（IVS)は1999年3月1日
発足し、測地学、位置天文学の発展、　測地学、位置天文学の技術開発を目的としている。　｛更
にIVS,IERS,IGS,ILR、IAGの関係及び、IVSの内部構造（評議会、技術開発センター、ｅｔｃ…）に
ついて説明があった。｝　評議委員は近藤が２００１年２月まで務めた後、２００１年３月より小山氏
が評議委員となっている。　日本からの参加は、CRL、国立天文台、国土地理院、国立極地研究
所である。　
　今回の評議委員会では新たに選出された評議委員の紹介、VLBI標準インタフェースの制定に
あたり、議長より感謝の書簡が送られた等の報告があった。技術開発コーディネータのアランホ
イットニーからは、GVWG（Global　VLBI　Working Group）で承認されたとの報告があった。相対
VLBIによるGPS衛星の位相中心の計測についてのＷＧの報告もあった。　NASAのＶＬＢＩによ
る連続地球回転パラメータ計測プロジェクト（CORE）のレビューが行われるとの報告も行われた。
　これまでVLBI　Hardware Standard Interfaceの制定は　K4,S2,Mark-IIIのそれぞれの開発機関 
３代表が揃っていたので実現したが、今回キャノン氏が評議委員に落選した。また、評議委員に
ロシアが含まれていない等の問題もあるので、評議委員を増やしてはどうかと提案したが、まだ
結論が出ていない。近藤からはＫＳＰが１年間延長されることになったことを正式に報告した。ま
た日本のVERAプロジェクトの紹介も行った。
　次回のIVS総会を２００２年２月４日より日本で開催することが決定した。ホスト機関としてCRL
と国土地理院が準備を進めている。


（川口）GPSの位相中心の計測について、どのような報告があったのか。　
（近藤）奥行き方向を決めることが重要。GPSにも役立てるVLBIの技術である。
（増子）NASAの方針は？
（近藤)　COREのプロジェクトを続けることを基本に、今後予算が獲得できるかどうかに関しての
レビューがあるとのことで、結論がどうなっているかは知らない。
（小山）精密な地球姿勢を決めることがVLBIの役目である。GPSの短期的な観測と、その住み
分けなどが議論されている。

２－３　IVSワークショップ報告　（小山泰弘）

　第２回VLBI Analysis Workshop　が２月１２-１４日に、ユーザにデータを提供するための品質向
上及び、各解析センター間の情報交換、議論を目的として開催されている（参加者総数４７名）。　
IGSに習って、IVSとして地球回転パラメータの合成解を出して、ユーザに提供しようとしている。
　SOLVE/CALC,　OCCAM、MODEST、の各解析ソフトウェアの利点、欠点が議論された。　また、
データベースファイルフォーマットの構造の改良について議論された。　鹿島,小金井のIGSのコ
ロケーションサイトとして登録する件について問い合わせがあった。　COREのプロジェクトについ
ての議論があり、VLBIの利点を最大に生かす観測として、１６局の観測局で同時観測することが
議論された。ユーザより観測プロポーザルをうけることについても検討中。
 Technical Operators Workshop （TOW）が　３月１２-１４にネットワーク観測局のデータ取得方法、
データの品質向上を目的として開催された。　次回のつくばのでの総会でも、TOWを開催したい。　
技術開発の状況についてもデモンストレーションがあり、ヘイスタック観測所のMaik-IVでは現在
２５６Mbpsまで実現しつつある。Mark－VとしてHDを使ったデータ収集系を開発中が行われて
おり、テープの代わりにHDを輸送して相関処理を行う計画である。カナダのS3システムについ
ても報告があった。
　
（川口）GPSの位相中心の計測についてもう少し詳しく教えて欲しい
（小山）GPSの位相中心計測にVLBIが貢献できるだろうとは言われているが、GPSとQSOとの
視差が問題となって、相対VLBIが使えない。逆にKSPのような短基線のVLBIの方がいいので
はないか。

（増子）NASAの今後のVLBIの方針はどうなっているのか？
（小山）連続観測が重要なのか、精度の高い観測が重要なのかが議論となっている。
位相中心計測はGPSの精度向上のためである。　地球回転パラメータのうちUT1-UTCはVLBI
でなければ測れないのに、GPSだけで計測できるとの誤解がある。GPSで閉じて、地上の位置を
計測するにはUT1-UTCの真値は必要ないと言われている。
（増子）必要性の問題ではないか。
（小林）Deep SpaceのトラッキングにはUT1-UTCは必要なものではないか。
（小山）その点ではVLBIによる観測が必要不可欠なものである。
（川口）天文台のVERA計画でも地球の姿勢の高精度なデータは必要である。
（森川）どの程度の精度が必要なのか？
（川口）慣性座標系に対して局位置がmm精度で必要。

（川口）１６局の観測をやりたい理由が良くわからない。アンサンブル平均の数を増やすだけでは
ないか。
（小山）時間を増やすよりも、局数が増えることによる基線数の増加の方がファクターが大きく、短
期変動も観測できる利点がある。

｛ここで議事の進行上、小山氏に３－１についても報告をお願いした｝

３－１　総合科学技術会議の紹介　（小山泰弘）

　経済財政諮問会議にならぶ重要政策会議のひとつで、人文社会科学を含めて、生命倫理問題
についても議論する。　総合科学技術会議は自主的に総理大臣に科学技術政策についての提
言を行うことが出来る。また、科学技術政策・資源配分、などについても検討する。
私は中でも社会基盤、フロンティア基盤　の担当をしている。　総合総合科学技術会議と日本学
術会議の違い、及び総合科学技術会議と宇宙開発委員会との関係について説明が行われた。
科学技術基本法で科学技術基本計画を規定しており、最近の大きな変更点は、科学技術予算を
過去　１７兆円レベルであったものを今後5年間で２４兆円に増額する。また、５０年でノーベル賞
受賞者を３０名を目標とする。また、特に情報通信、ライフサイエンス、環境、ナノテクノロジーに
重点的に予算を配分する方針である。
　私は、分野別専門調査会　８分野を担当しており、その中には宇宙、海洋、などが含まれる。
　
（中島）　総合科学技術会議への働きかけは何かできるのか？
（小山）　総合科学技術会議は、トップダウン的なものであり、ボトムアップはない。会議のメンバ
ーへロビー活動はありうるかもしれない。

（渋谷）事務局が実質的な準備をすると思うが、事務局はどのような方向で原案を作るのか？
（小山）　総合技術会議は、これまでの官僚が文書を準備するというやり方を変えたい意向で、現
在まだ方向が見えていない。

（飯田）ノーベル賞３０人の意味は？外人でもいいから日本で取ればいいのか？
（小山）どんどん日本人からもノーベル賞をとれるようにという意味である。しかし、ノーベル賞をと
ることが目標なのかとの批判が出ている。
（飯田）　米国は必ずしも米国人ばかりではないのだが。。。

｛議事を本来の議題に戻し、ＫＳＰの報告へと進めた｝

２－２　KSP報告　（吉野泰造）

KSPの地殻変動の観測結果、伊豆・神津島の地殻変動の結果が報告された。三浦局閉局に伴
いVLBIアンテナは北海道大学へ、SLR望遠鏡は鹿児島大学へ移管された。地殻変動データの
議論について、地殻変動の時間遅れ現象の検討や、広域性に着目した、曲率を考慮した弾性体
応答　などの点で検討されている。SLRによる今回の地殻変動観測結果についても報告があっ
た。

（川口）変動観測後の測位解の振る舞いについて、GPSとVLBIの差があるのではないか？
（吉野）GPSは大気の異方性を入れた推定結果を示している

（渋谷）　北大はアンテナをどのような目的で使うのか
（吉野）電波天文観測を目的としている。

２－４　VLBI標準インタフェース（VSI-H)の実機導入と問題点　（中島潤一）

 VLBI標準インタフェースの製作状況が報告された。

（川口）サンプラのジッタの問題がTDSではあったが、新しいシステムではどうか？
（中島）今後計測予定である。

２－５　新ギガビットVBIシステムの今後の展開　（中島潤一）

　　JNETでの３局観測や、新しいシステムの相関処理系、今後の計画について報告があった。

　（川口）相関器が４局２基線なのはなぜ？
　（中島）相関器は長い目で見ると将来的に分散処理、計算機相関処理で消えていくと考えてい
る。
　（川口）統計数理研究所など他分野から興味をもたれているのは、どのような点で？
　（中島）ギガビットクラスのサンプラを作っている人たちは、その設計の大変さを知っているので、
標準化されたシステムがあるのであればそれを使いたいということである。
　
２－６　インターネットVLBI開発報告（近藤哲朗）

　チャンネルごとにPCのボードでサンプリングを行うIPーVLBIシステムについての報告があっ
た。　また、ソフトウェアによる相関処理の高速化の手法についての報告があった。
４MHｚサンプリングデータを１６Lag相関で行うのに、C++の言語で記述したソフトを使うことにより
1秒間のデータを約１秒で処理できるようになった。　将来計算機の分散処理を行うことにより、い
くらでも高速化が期待できる。今年の６月に４MHｚ試験観測まで行う予定である。

（木内）なぜコネクタをBNCにこだわったのか？UMでも良かったのではないか？
（近藤）２号機、３号機ではコネクタを変更することも可能であろう。
（小林）この実験のゴールは何か？
（近藤）KSPと同じ２５６Ｍｂｐｓ観測（１６ｃｈ×１６Mbps）を実現すること。

２－７　スーパーイーサネットを利用した光結合インターネットVLBI計画　（川口則幸）

　学術情報ネットワークが高速化する話が進んでおり、情報学研究所（元学術情報センター）や拠
点大学、拠点研究機関のネットワーク拡張が２００１年度よりスタートする。１０Gbpsの高速データ
伝送が可能であり、分散相関処理を使って観測ネットワークの伝送レートよりも高いデータレート
の観測ができる。このような観測の目的は、観測感度を大幅に向上させて、アストロメトリ、拡張し
たネットワーク観測によりイメージング性能を向上させることである。
問題は、ネットワークノードへのアクセスポイントであるが、今後のネットワークの広がりに期待し
ている。

（中島）山口局の立ち上げプロセスは？
（川口）観測周波数４GHｚでの試験観測を行っている。同施設内に６GHｚの送信局があり、今後の
観測周波数変更へ問題点の調査などを行っている。現在の試験の結果では、干渉はなさそうで
あり、望遠鏡は２２GHｚまで４０％の効率で観測可能の見込みである。近い将来８GHｚ帯で協力を
お願いするかもしれない。

２－８　パルサーVLBIにおける電離層補正　（関戸衛）

　電離層の遅延量をGPSで計測することにより、VLBIのデータを補正した結果について報告が
あった。

（小林）GPSとVLBIの比較結果のオフセットは何か？
（関戸）VLBI受信系のS-bandおよびX-bandの信号伝送系の時間差であると考えている。

２－９　南鳥島でのGPS無人運用システム　（大崎裕生）

　Ｌｉｎｕｘを使った南鳥島のGP無人観測システムについて報告があった。

（川口）バッテリの劣化が高温環境下で劣化するのは本当か？
（大崎）真夏では、閉め切ったＢＯＸの中でかなり高温になっていた可能性がある。

２－１０　３４ｍアンテナへの４３GHｚ受信機搭載　（大久保寛）

３４ｍアンテナへの４３ＧＨｚの搭載準備状況と、２２ＧＨｚ受信機の性能などについて報告があっ
た。受信機のサイズは冷凍機を含めて３５センチ四方程度。ＬＮＡの物理温度２０Ｋ程度である。

（川口）受信機の雑音温度が３００Ｋお高いのはなぜか？
（大久保）受信機そのものにはＣＲＬとしてあまりタッチしていないので、よくわからない。
（近藤）ポイティングのオフセットの除去に新たなモデル化が必要ではないか？
（小山）ＦＳ９にはそのような拡張性もあるので、出来ると思う。

２－１１　KSP-SLR局によるH2A-LRE追尾について　（国森裕生）

　ＮＡＳＤＡが打ち上げ予定のＬＲＥの投入軌道を、SＬＲを使って決定するプロジェクトについて報
告があった。

（川口）ミラーのサイズが小さくなってるが１００００ｋｍまでリターンが取れるのか？
（国森）あじさいのデータからの類推からも、その程度は大丈夫なはずである。
（渋谷）アジサイに比べての測地学的メリットは何か？
（国森）まだ、はっきりとは出ていない。衛星を追跡するけるステーションが少ないこともありそれ
ほどメリットは期待できない。低高度から高高度までの観測モデルの検証に使えると思う。
（川口）光通信ネットワークへの応用とはどういう意味か？
（国森）光通信ネットワークを構成する案として、アジサイに光を当てて反射光を使う案がある。

２－１２　ITRF2000へのCRL解の寄与　（大坪俊通）

　グリニッジ天文台のグループと２年間仕事をしてきた。そこで行ったＣＲＬの仕事を紹介する。
ＩＴＲＦ２０００のＩＴＲＦ９７との違いの大きな点は、ゆるい束縛条件を使わなければならないというこ
と。座標系が回転することは許容して合成解が作りやすいようにする。VLBI,GPS,及びSLRを使
った地球のスケールファクタの決定等について報告があった。

（川口）Preliminary Analysis、の結果において、地球の大きさのスケールファクターが年々変化す
るのはどうしてか？
（大坪）本当は一定なものと思うが、すべての観測局は鉛直方向の速度を持っており、その平均
値としてスケールファクターが得られる。もしも,すべての局が上方向の速度を持っていれば、地球
が大きくなっているということになる。

３．その他
｛３－１　は既報告｝

３－２　KSP相関処理装置信頼度向上のためのワーキンググループ設置要望　（福崎順洋）

　時間の関係で報告が省略されたが、ワーキンググループの設置は了承され、次回センター会
議に報告書を提出すべく作業を開始することとなった。

４．閉会の挨拶

IVSーCRL　技術開発センター長　（森川容雄）

　長時間に渡り熱心な議論に感謝する。独立行政法人化後はより強く人類社会への貢献にかか
わる研究開発を求められる。具体的にはＣＲＬの中期計画に沿って研究開発を行う。各グループ
に属する研究者はこのようなミッションを念頭において仕事をすることが求められる。それがＣＲＬ
の外部評価などで評価されていくことになる。ＶＬＢＩ，ＳＬＲの研究開発は何らかの形でミッション
に貢献していくことが必要になる。独法化後の予算状況はかなり厳しいものになる見込みである。
プロジェクトによっては大幅な見直しを行わなければならないところも出てくるだろう。本日の貴重
なご意見を考慮に入れて計画を作っていきたい。本日はたいへんありがとうございました。

（以上）