「第3回IVS技術開発センターシンポジウム」アブストラクト



【セッションA:ネットワーク技術、ネットワークの利用】10:40-11:52 (座長:通総研 小山)



1.GALAXYにおける超高速実験ネットワークの利用(10:40-10:58)
  ○魚瀬尚郎、岩村相哲、熊谷和則(NTT研究所)

NTT研究所では、超高速通信に関する研究開発を目的とした超高速実験ネットワークを 構築、運用している。その一環として、関連各研究機関と連携したリアルタイムVLBI 実験(GALAXYプロジェクト)を実施しており、超高速通信技術の科学アプリケーショ ンへの適用について検討を進めている。本発表では、本実験ネットワークの現状と将 来の計画について述べる。


2.TCP/IP並列伝送によるVLBIデータの送信(10.58-11:16)
  ○熊谷和則,岩村相哲,魚瀬尚郎(NTT研究所)

TCP/IPを用いたデータ送信においては,送り手と受け手の間のRound Trip Timeに依存する通信速度の限界が存在する.この限界は長距離で大容量データ を送信するVLBIデータ転送においては顕著に現われる.この限界を越えた通信 速度を実現するために,NTT研究所では並列伝送装置の検討を行なってきた. 本発表では装置の仕組と性能評価結果について述べる.


3.実時間広帯域光結合観測による測地・地球回転計測(11:16-11:34)
  ○川口則幸(国立天文台)、安田茂、高島和宏(国土地理院)


4.山口32mとネットワークVLBI観測(11:34-11:52)
  ○藤沢健太(山口大)

山口32mは電波望遠鏡としての基礎的な整備と調整を完了し、 試験観測、研究目的の観測を行っている。これまでに行った VLBI観測は、「のぞみ」ΔVLBI、JADE−0306測地観測、 臼田−山口実験観測、北大・岐阜大・山大連合実験観測である。 これらの観測においてデータをネットワーク伝送するやり方が 次第に確立され、本格的に利用され始めている。 また今年度中には山口大学の小型アンテナと山口32m間で ネットワークを使って準実時間でVLBI観測を行う予定である。 これらの実験観測の成果について報告する。


【セッションB:機器開発・計測技術】11:52-12:10(座長:通総研 小山)



5.34mアンテナS帯受信機の高温超伝導フィルタによる混信対策
  ○川合栄治、中島潤一、竹内央、久保木裕充、近藤哲朗(通総研)

第3世代携帯電話IMT-2000の運用開始により、鹿島34mアンテナの S帯受信帯域内に混信波が強く入り、2002年3月に受信機後段で飽和が 発生して受信が困難になった。

前回報告の常温のバンドパスフィルタに替えて、急峻な遮断特性を有し、 かつ広帯域な高温超伝導(HTS)フィルタを設置した。HTSフィルタは 急峻な遮断特性をもつため、遮断周波数を常温フィルタより混信波に 近接して設定することができ、使用可能な周波数帯域幅を拡大することが できた。

HTSフィルタユニットは小型なためデュワー内部のLNA入力前部への 設置が比較的容易ある。また、挿入損失も小さいので、HTSフィルタを 使用すればシステム雑音温度の増加を最小限にしつつ、LNAが飽和する ような強い混信波があっても近接周波数で宇宙電波の観測が可能である。

本装置は(株)デンソーにより開発されたものであり、関係者に 感謝いたします。


【セッションC:PCシステム、ソフトウエアに関する技術】13:00-14:12 (座長:国土地理院 高島)



6.汎用PCによるVLBIシステムの現状と将来(13:00-13:18)
  ○木村守孝、中島潤一、竹内央、近藤哲朗(通総研)

CRLは汎用PCを用いたギガビットVLBIシステムを完成させ、 専用システムと同等以上の性能を安価に構築する技術を 確立させた。さらに、今後のCPU性能は劇的な向上が見込 まれているため、従来の専用システムでは処理速度的に 不可能であったことが汎用PCで可能になる。
本講演では現状の汎用PCによるVLBIシステムの性能及び 観測結果等を報告し、今後の性能向上について紹介をお こなう。


7.PCによるVLBI観測システムの統合化(13:18-13:36)
  ○中島潤一、木村守孝、竹内央、小山泰弘、近藤哲朗(通総研)

CRLはPCによるVLBIを提唱し、観測から処理までインターネット上で完 結する将来型のVLBIシステムを実現した。K5システムでは実用観測がす でに実施され、ギガビットVLBIシステムでも国際間のギガビット観測に 成功した。今後のVLBIは一見して単一鏡の検波観測並みにバックエンド が簡素化されるが、ユーザーは、CRLによるADサンプラ、PCによる高速 データ取得、ソフトウェア相関を目的に応じて組み立てることにより観 測を実現し、アプリケーションを開発することで、PCによるVLBIをさら に発展することが出来る。なおPCによるVLBIは既存のテープによるVLBI システムとバックワードコンパチを容易に達成し、既存のインフラも無 駄にしないように工夫されている。


8.K5ソフトウェア相関器の現状報告(13:36-13:54)
  ○近藤哲朗、小山泰弘、大崎裕生(通総研)

通信総合研究所ではPCベースのVLBI端末「K5システム」で取得したデータ用の 「K5ソフトウェア相関器」の開発を行ってきた。現在のK5ソフトウェア相関器は K5フォーマット以外にMark-Vフォーマットの相関処理も可能となっており、JIVE (Joint Institute for Very Long Baseline Interferometry in Europe)においても フリンジテスト時にK5ソフトウェア相関器の使用が予定されている。処理速度に 関しては1ビット4MHzサンプリングデータ1chの32ラグ相関を観測時間と同じ時間 で処理することが可能である(ただしCPUとしてPentium III 1GHzを使用した場合)。
本報告ではこうしたK5ソフトウェア相関器の現状および将来計画について述べる。


9.データベースを用いた総合VLBIデータ管理システム(13:54-14:12)
〜VLBI(AT)homeを支えるマネージャー〜
  ○高島和宏(国土地理院)

VLBI観測では、磁気テープを用いたデータ記録が行われてきたが、 近年、HDDを用いた記録が可能となり、データのコピーや抽出など 容易に行えるようになるため、データ管理については逆に難しくなる と考えられる。
本講演では、K5用ハードディスク管理を始めとして、データをオブ ジェクトとして扱ったオブジェクト-リレーショナルデータベース (PostgreSQL)を中心とした総合VLBIデータ管理システムを提唱し、 分散処理管理への応用についても紹介する。


【セッションD:測地観測】14:12-14:48(座長:国土地理院 高島)



10.岐阜大学の測地VLBI(14:12-14:30)
  ○高羽浩、須藤広志、吉田稔、若松謙一(岐阜大)

岐阜大学では3m電波望遠鏡および11m電波望遠鏡を用いて 測地VLBIの研究を行っている。本報告では測地VLBIの観測結果、 水蒸気ラジオメータによる岐阜大上空の水蒸気の観測結果、 スーパーSINETを用いた超高速e-VLBIの準備状況などについて 紹介する。


11.K5システムによる多基線測地VLBI実験(14:30-14:48)
  ○小山泰弘、近藤哲朗、大崎裕生(通総研)、高島和宏(国土地理院)、 徂徠和夫(北大)、高羽浩(岐阜大)、藤沢健太(山口大)

現在通信総合研究所が中心となって開発を行っているK5システムを 用いて、国土地理院の実施した国内測地VLBI実験(実験コード JADE−0306)で5ヶ所の観測局においてK4システムとの 同時観測を実施した。その処理結果を解析することによって、 複数基線の測地VLBI実験におけるK5システムの性能について 評価し、報告する。


【セッションE:宇宙飛翔体の軌道決定に関する技術(その1)】 14:48-15:24(座長:通総研 市川)



12.相対VLBI観測による深宇宙飛翔体軌道決定技術-「のぞみ」位置推定結 果と今後の開発方針-(14:48-15:06)
  ○市川隆一、関戸衛、大崎裕生、小山泰弘、近藤哲朗(通総研)、「のぞみ」相対VLBIグループ

火星探査船「のぞみ」は、日本時間2003年6月19日未明に無事地球 スイングバイを終えて火星へ向かっている。通信総合研究所では、 2002年10月以降、今回の地球スイングバイに至るまで、宇宙科学研究 所をはじめとする関係各機関と協力して約30回のVLBI観測を実施し、 「のぞみ」の位置推定を試みた。本報告では、レンジ&レンジレート 観測結果との比較に基づくVLBI観測による「のぞみ」推定位置の評価 と今後の深宇宙飛翔体軌道決定技術の開発方針について述べる。


13.VLBIによる飛翔体位置決定技術−位相遅延計測・解析の現状−(15:06-15:24)
  ○関戸衛、市川隆一、大崎裕生、近藤哲朗、小山泰弘(通総研)、吉川真(宇宙研 = 10月よりJAXA)、「のぞみ」相対VLBIグループ(JAXA、通総研、国立天文台、国土地理院、北大、岐阜大、山口大、SGL/Crestech)

昨年末から今年の半ばまで、日本の多くのVLBIアンテナおよびカナダのアルゴンキンの協力を得て、 火星探査機「NOZOMI」のVLBI観測をおこなってきた。平行して観測される遅延量として群遅延、位相遅延 を求め、この観測量をから位置天文的に飛翔体の位置を推定するシステムの開発を進めているが、 本発表では、これまで明らかになってきている問題点とデータ解析の進捗状況について 報告する。


【セッションE:宇宙飛翔体の軌道決定に関する技術(その2)】 15:54-16:30(座長:通総研 市川)



14.狭帯域記録システムを用いた火星探査機NOZOMI相対VLBI観測(15:54-16:12)
  ○菊池冬彦(総研大)、河野裕介,平勁松、劉慶会、浅利一善、松本晃治、鶴田誠逸、花田英夫、河野宣之、のぞみVLBIグループ

国立天文台RISEグループは宇宙科学研究所の火星探査機“のぞみ” 相対VLBI観測に参加した。宇宙飛翔体のVLBI観測では通常の測地 VLBIとは異なり、衛星から送信されるコヒーレントな狭帯域の信号 を用いて相関処理を行うことができる。そこで、のぞみのダウンリン クキャリアーと二つのレンジトーンを狭帯域記録システムで記録し、 3波のバンド幅合成による群遅延推定を行った。その結果、遅延時間 を数十nsecの誤差で推定することができた

15.相対VLBI観測による深宇宙探査機の軌道決定の現状と今後(16:12-16:30)
  ○吉川真(宇宙研 = 10月よりJAXA)、加藤隆二、市川勉、山川宏、川口淳一郎、村田泰弘、 石橋史郎、大西隆史、辻本滋雄、黒須勝利、「のぞみ」相対VLBIグループ

相対VLBI観測による深宇宙探査機の軌道決定は、今後の深宇宙ミッションに とって非常に有望な軌道決定方法である。ここでは、火星探査機「のぞみ」 について行ってきた相対VLBI観測による軌道決定の現状をまとめるとともに、 その問題点について整理する。また、今後の計画についても紹介する。


【将来計画】16:30-17:42(座長:通総研 関戸)



16.BHimager− ぷれほらいずん望遠鏡計画(16:30-16:48)
  ○三好真(国立天文台)、ぺぺ・イシツカ、堀内真司

巨大ブラックホ−ル系の解像はVLBI天文学における大きな目標である。 解像のためにはブラックホール周囲を取り囲むプラズマの散乱の影響を逃れる ためミリ波からサブミリ波帯域でのVLBIが必須となる。
現在計画中のALMA,CALMA,稼働しているSMAに加え、我々はペルー のワンカイヨにミリ波サブミリ波電波望遠鏡を配置、VLBI観測に参加させる アイデアを検討している。検討途中結果を報告する。


17.The 32 m Antenna Project in Peru(16:48-17:06)
  ○Jose K. Ishitsuka, Mutsumi Ishitsuka, Makoto Inoue, Masatoshi Ohishi, Kenta Fujisawa, Takashi Kasuga, Masato Tsuboi, Keisuke Miyazawa and Shinji Horiuchi.

ペルーの32mアンテナおよび付帯設備が、2003年中にペルー民間電話会社から ペルー地球物理観測所(IGP)へ移管される予定である。IGPワンカイヨ観測所お よび大学などの関係者と、国立天文台および国内大学関係者とが協力して、 センチ波帯で有力な電波望遠鏡に改造して、南天で貴重な大型望遠鏡として 観測することを計画する。予算的な制約から、当初はまず必要最低限の経費で 電波天文観測が可能な設備および改修を行い、並行して観測・運用グループを 組織・育成する。第一ステップとしてまず観測実績を出した後、次のステップ としてVLBI観測や各種の周波数受信器の整備等を行う。本計画の進行状況を 報告する。


18.次期スペースVLBI計画の提案について(17:06-17:24)
  ○平林久、村田泰弘(宇宙研 = 10月よりJAXA)、他スペースVLBI WG

長らく検討を続けてきた次期スペースVLBIの提案を今年度中に行いたい。現状の案をレヴューし、国内での協力理解を仰ぎたい。


19.次期スペースVLBI計画の開発の状況(17:24-17:42)
  ○村田泰宏、平林久(宇宙研 = 10月よりJAXA)、井上允 ほか次期スペースVLBI WG

VSOP計画の成功を受け、さらに次のスペースVLBI計画としてVSOP 計画を現在進めている。今年度の宇宙研での提案を目標に、衛星用のアンテナ、 広帯域伝送、位相補償のための機能追加、観測および衛星システムなどについて 検討を行っているので、その現状について述べる。


【ポスターセッション】15:24-15:54



P1.ギガビット観測システムによる長基線測地 VLBI 実験
  ○竹内央、中島潤一、木村守孝、小山泰弘、近藤哲朗(通総研)

通信総合研究所では、測地VLBI観測における受信帯域を広帯域化 して観測精度を向上させるために、ギガビット観測システムの開発を 行っている。ギガビット観測システムの性能を評価するために、 国土地理院が行った24時間国内測地VLBI実験(実験コードJADE-0306) に合わせて鹿嶋11mアンテナと苫小牧 11m アンテナにギガビット観測 システムを導入し、K4システムとの同時観測(実験コードGEX-12)を 行った。本報告では、今回の観測で得られた結果をK4システムによる 結果と比較し、ギガビット観測システムを測地目的に利用する事の 優位性及びギガビット測地の将来計画について論じる。


P2.K5システム用の自己診断ツールについて
  ○大崎裕生、近藤哲朗、小山泰弘(通総研)

K5システムが開発されて以来、HaystackのMarkとの間での 24時間以内のUT1の推定実験、国内のべ8局とカナダのアルゴ ンキンが参加した「のぞみ」位置推定観測、更にJADE実験に 相乗りして行なわれた国内5局による測地観測など、さまざま な観測に利用されてきた。これらの観測を通して、K5はネッ トワーク親和性の高さなどで期待通りの利点を発揮している。 しかし反対に、PCベースであるがゆえに、若干ではあるが従 来のテープ記録とは異なった点にも注意が必要になっている。  この講演では、これまでの観測から得られた経験を生かし て、K5が観測に適した状態に設定されているかどうかを判定 し、更には各ユーザが独自に組み上げたK5システムがどれだ けの性能を発揮できるか計測できるようなツール群について 提案する。


P3.惑星電波観測装置用大型方形パラボラアンテナの一次放射器の開発
  ○三澤浩昭、工藤理一、土屋史紀、森岡昭(東北大)、近藤哲朗(通総研)

東北大学では2001年に、物理開口面積1000平米強の国内屈指の開 口を持つ経緯台式アンテナを福島県飯舘村に設立した。本アンテナは、 31m×16.5mの方形のオフセットパラボラアンテナ2面からなるが、 両者は物理的に接合され、常に同一方向を指向するようになっている。 本装置はUHF帯惑星電波観測専用装置として設立されたものであるが、 惑星電波の起源を探るために偏波計測機能の付帯が必要とされる。そこで 本研究グループでは、ユニークな形状をしたこの方形パラボラアンテナで 偏波計測を可能とするための一次放射器を、モデル計算、縮小モデルを用 いた電波暗室実験、および、実際のアンテナに設置しての検証実験という ステップを踏んで、新たに開発した。本講演では、開発された一次放射器 の特徴について、その開発の経緯も交え、紹介を行う。


P4.SELENE/RISEの月重力場測定計画の現状
  花田英夫(国立天文台)、岩田隆浩、松本晃治、鶴田誠逸、石川利昭、浅利一善、 平勁松、劉慶会、河野裕介、○菊池冬彦、野田寛大、日置幸介、河野宣之

宇宙科学研究所と宇宙開発事業団が主体となって推進する月探査周回衛星(SELENE)計画は 2005年に打ち上げ予定であるが、14の観測機器とハイビジョンカメラが搭載される中で、 月の重力場の観測に関連する、リレー衛星搭載中継器(RSAT)と相対VLBI用電波源(VRAD) は、月面地形を調べるレーザー高度計(LALT)とともに、RISE計画として、国立天文台が 中心となって進めている。ここでは、VLBI観測を主体とするVRADミッションを中心に、 SELENE計画の中の月の重力場を推定するミッション計画の現状について報告する。