第9回IERS技術開発センター会議・議事録   (作成日:96/09/26) 場所:通信総合研究所本所4号館3階TV会議室     (鹿島宇宙通信センターとの間でTV会議) 日時:平成8年9月13日 金曜日 午後1時〜午後5時半 出席者: 外部専門委員  河野宣之教授    国立天文台  渋谷和雄教授    国立極地研究所南極圏環境モニタリング研究センター  飛田幹男課長補佐  建設省国土地理院測地部測地2課 (斉藤委員 代理) 藤田雅之主任研究官 海上保安庁水路部企画課海洋研究室  (金沢委員 代理)   (欠席)   川口則幸助教授   国立天文台   日置幸介助教授   国立天文台   平林 久教授    宇宙科学研究所  岡田義光センター長 科学技術庁防災科学技術研究所   加藤照之助教授   東京大学地震研究所 内部 内田国昭、吉野泰造、濱真一、木内 等、金子明弘、瀬端好一、今江理人、 細川瑞彦、花土ゆう子、野尻英行(以上標準計測部)  高橋幸雄、栗原則幸、市川隆一、小山泰弘、関戸衛、中島潤一、川合栄治、  近藤哲朗(以上鹿島宇宙通信センター) 鹿島宇宙通信センターからTV会議での出席者  高橋冨士信(鹿島宇宙通信センター)、大坪俊通(標準計測部) 合計24名 開催準備他: 第9回技術開発センター会議を9月に開催すべく8月上旬から日程調整を開始し たが、結果的に専門委員の出席は4名であった。 議事:    1.あいさつ IERS技術開発副センター長の高橋冨士信関東支所長が会議開催のあいさつを 行った。 2.IERS再編の経過報告(吉野泰造) IERS発足(1987年)から現在に至るまでの経緯や今年のIERSワーク ショップでの話題(IERSサービスの見直し、天球座標系の維持をどこまでや るのか、地殻変動監視までやるのか等)が紹介された。さらに今年、IERSに おいてVLBI組織の再編があり、Call for VLBI Proposalに対して15カ国か ら14の応募があった。CRLも技術開発センター継続の意思表明をしていたが 、1996年9月にIERS評議会議長から正式に受諾の書簡を受けた。また米 国のNEOS(National Earth Orientation Service)をVLBI総括センターに 指名し、チョポ・マ博士をVLBI総括センターの代表者とした、等の報告があ った。 3.専門委員による各機関の活動報告 参加委員一人一人に各機関の現状を報告して頂いた。 ●河野専門委員(国立天文台) 国立天文台の中の3大プロジェクトであるVSOP,VERA,RISEの現状 の紹介があった。 VERAはH9も大蔵へ要求ができなかった。新たな体制で望むことになり、V SOP、VERA、RISEからそれぞれ代表者を出すことになった。RFP( Request for Proposal)や大学との具体的協力関係の明確化が必要である。VS OPは9月打ち上げ予定が1997年1〜2月期に延期となった。三鷹のFX相 関器が始動、24時間運用、10局同時処理が可能になった。相関値については すでに実績のある相関器NAOCOとの比較を行っているところである。RIS Eは月周回と月着陸機による相対VLBIの他にレーザ高度計とリレー衛星が加 わることになった。現在の水沢での体制はVERAに16名、RISEに10名 、VSOPに2名、プロジェクト以外3名となっている。国立天文台は現在7年 目であるが10年目以降2期計画としてVSOPと地球回転系を含めて宇宙計測 部を発足させたいとの希望がある。水沢、三鷹、野辺山の間で人事の流動化を進 める方向である。 ●藤田専門委員代理(海上保安庁水路部) 海上保安庁水路部で運用している固定式および可搬式のSLRと、GPSに関し て以下のような報告があった。 固定式SLRは下里で10年以上定常観測を実施している。衛星が増えてきたの で観測スケジュールが密となってきている。ADEOSのRISのトラッキング を10月より開始する予定である。可搬式SLRは1988年の父島から開始し た1次基準点測定(海洋測地成果)を1996年1〜3月に銚子で14点目を測 定し1巡した。今年度から2巡目がはじまり、父島、石垣島、南鳥島、稚内の順 で測定を行う予定である。SLRシステムのグレードアップを行いたいが予算的 事情により難しい。 GPSは相模湾、下里、岡山など7点で定常観測(24時間/日)を実施してい る。 灯台部が開発しているD−GPS(精度1.5〜2m)は今年度試験運用を行い 、来年度から本格運用を行う。水路部では、これら灯台部D−GPSの基準局を 利用して測地観測を行う計画である。 ●飛田専門委員代理(国土地理院) GPS,VLBI,SARについて以下のように報告があった。 GPS点をITRF座標系で求めるIGSパイロットプロジェクトを開始した。 つくばにVLBI用の32mアンテナを作ることになった。運用開始は1998 年3月を予定している。SARの解析で必要な衛星位置精度は2〜3mmである 。この精度を達成するKSPのSLRにおおいに期待する。 また日本の測地VLBIアンテナをSARの較正に使いたいとの提案があった。 ●渋谷専門委員(極地研究所) 南極VLBIに関して以下の通り報告があった。 来年出発する39次隊で昭和基地に向けて機材を搬出する。GSIの5mアンテ ナを借用し、できるものから単品の機材テストを開始している。1998年2月 から観測を開始したい。相手局はオーストラリア、南アフリカ。オーストラリア はレコーダはS2を使用することになりK4提供は無理になった。相関処理の具 体的なことはまだ固まっていない。 その他、(1)DORISおよび超伝導重力計は順調に稼働している、(2)G PSはトラブルのあったハードディスクのデータがリカバーでき、今の越冬とあ わせて2年分の連続データが収集できた、但し、南極からのデータ転送は予算と 手順の問題で10日おきに1日データを送っている、(3)1995年のGPS キャンペーン観測はドイツが解析し、SCARで報告がなされた。(4)ERS ー2の軌道決定装置は今年の38次隊で持っていく、(5)ERSについては1 号、2号のタンデムミッションと称し、今年の6月までに70パスのペアをとり 、昭和基地でとれる南極大陸の1/3をカバーした、等の報告があった。 ●岡田専門委員(防災科研) 出席予定だったが急用のため欠席の旨の連絡が当日あり、報告予定の資料が送ら れてきましたので添付します。 4.アジアにおける宇宙測地 ●第1回APSGワークショップ報告(吉野泰造) APSG(Asia Pacific Space Geodynamics)に関して以下のような報告があった 。1994年9月のESCAP会議の際に開催された専門家会議で上海天文台の Ye前台長が西太平洋地域での宇宙測地の発展と地域の重要性からAPSGを提 案し、会議の勧告の1つとなり、APSGが動き出した。今年5月に上海でAP SGワークショップが開催された。アジア太平洋の広域性を生かした宇宙測地観 測には、アジアでの高度な観測用インフラ向上を伴う必要がある。また、インド における観測についての現状と見通しにつき質疑があった。 ●APT(Asia Pacific Telescope)(高橋幸雄) APTについて以下のような報告があった。APTは、天文だけでなく測地も含 んだアジア地域でのVLBIネットワーク作りが目的である。そこでレコーダの 互換性が問題となる。体制に関して、APSGとは違ってAPTの体制作りはま だである。APTとAPSGジョイントでのワークショップTWAA96を鹿島 宇宙通信センターで12月に開催する。 5.技術開発報告 5.1.首都圏広域地殻変動観測システム ●VLBIの現状(栗原則幸) 首都圏広域地殻変動観測システム(KSP)のVLBIについて、現状が以下の ように報告された。1993年から施設整備が開始された。95年1月には鹿島 −小金井基線で連日観測が開始された。95年12月は鹿島、小金井、三浦3局 による連日観測が開始された。96年9月からは鹿島、小金井、三浦、館山4局 による連日観測を開始した。各局の観測はテープ交換時のガードマン立ち入り時 を除いて無人で行っている。これに対して無人運用でのトラブルはないかとの質 問があったが、「ない」との回答があった。さらに、連日観測での観測時間帯の 質問があり、特別な事情がない限り観測時間帯は固定し、現在は深夜から早朝に かけての5時間観測を行っているとの回答があった。 ●リアルタイムVLBIハード(木内 等) リアルタイムVLBIの現状についてハードウェアの側面からの報告があった。 主な点は以下の通り。すでに試験運用に成功しフリンジテストにも活躍している 。現在は安定運用のためのソフトウェアの整備が進められている。リアルタイム VLBIの利点として、即時性の他にレコーダー(メカニカルな装置)を使わな い事による信頼性の向上があげられる。また、相関器から見た場合のデータの統 一をはかったために、相関器はリアルタイムVLBI,テープベースVLBI供 に同じ仕様の物が使える。 ●リアルタイムVLBIソフト(関戸 衛) リアルタイムVLBI用の相関処理ソフトウェアR−KATSについて、準無人 運用ができる相関処理ソフトウェアを目指して開発中である、現在実運用を目指 して最終デバグを行っているとの報告があった。相関処理時の地球回転パラメー タはどうしているのかの質問があり、IERSの予測値を使っている旨の回答が あった。 ●SLRの現状 会議終了後の見学会の時に現場で現状の報告があった。 5.2 次世代VLBI ●測地専用多ch高速相関処理装置開発計画(木内 等) 測地専用の高精度化を目指した64Mbps,32ch相関処理装置の開発計画 案が示された。この相関処理装置の位置づけとしては既存の技術の延長としてと らえる、カスタムICは使用しない、ビデオコンバータの振幅特性(フラットネ ス)からビデオ帯域32MHz(サンプリング64Mbps)あたりが限界であ る、との見解が示された。これに対して専門委員から技術開発の位置づけが不明 確である、特に開発費を獲得するためにはストーリーが必要であり、そのために は目標を明確にする必要がある、また何故測地にこだわるのか、との意見があっ た。これに関しての議論の主要なものは以下の通り。 ・測地へのこだわりに関しては、天文台とのバッティングの回避。 ・ここでいう測地とは群遅延を精密に測定するという意味であり、天文応用での 位相を主にした相関器とはその意味で異なる ・技術開発主体で進み、後にサイエンスがついてくることがあってもいいのでは また、専門委員から、国際実験の場合は互換性が必要となるので互換性にも考慮 した開発を進めて欲しい、極地などの遠隔地では衛星などによるデータ転送も含 めたインフラとして技術開発をお願いしたい、などの要望が出た。 ●ギガビットレコーダの開発現況(中島潤一) 現在開発中の高速サンプリング装置、高密度レコーダー装置が紹介された。その 中で、限られたアンテナ直径の元での広帯域観測による高感度化の重要性が指摘 された。さらに、TV用の装置をベースにしたため、TV画面で記録信号の様子 がモニターでき、オペレータフレンドリーなシステムチェックに応用できる点な どが紹介された。専門委員からK4装置も値段が下がらない。この装置の普及に は値段がネックとなるのではないかとの意見が出された。これに対しての議論の 要点は以下の通り。 ・VLBAレコーダは周辺装置も含めるとほぼ同程度の値段となる ・普及するかどうかの1つの鍵は今後の値段次第である その他に高感度化は重要な要素であり、技術開発の方向としては間違っていない とのコメントがあった。 5.3 その他 ●GPS+VLBI 気象学(市川隆一) GPS観測を大気中の水蒸気量を測定するための気象測器として利用しようとい うGPS気象学、さらにKSP−VLBI観測を使ってのGPS観測の評価およ びVLBIデータ解析高精度化へのフィードバックについて報告があった。また 、中性大気に大きく異方性があるような場合のVLBI観測とGPS観測の比較 から、解析時の水蒸気量の方位角依存性の考慮の重要性が指摘された。専門委員 から、GPS気象学で何故高精度な測位が期待できるのかとの質問に対して、気 象モデルが良くなった、GPS観測点が密になったの2点が大きな要因であると の回答があった。 なお、報告者から会議後以下のコメントが寄せられた。 湿潤遅延量の補正には時空分解能の高い水蒸気情報が不可欠であるにも関わらず ,従来はそれを1日2回・空間分布で約300km間隔のラジオゾンデ観測か同一地 点を数日おきに周回するマイクロ波放射計搭載衛星の観測に頼るしかなかった. 高密度GPS観測網はかつてない時空分解能(水平20km,時間で約10分)での水蒸気 観測を実現できる可能性があり,その観測はメソスケール現象の解明を促進させ ,さらにはより高精度の数値予報モデルが構築されると期待できる.精度の向上 した数値予報モデルを湿潤遅延量の補正に応用することにより,今度は測位精度 の向上を期待することができる. ●小惑星レーダー観測(小山泰弘) 地球に近づく小惑星(近地球小惑星)の国際共同レーダー観測について、その原 理と昨年の観測結果が紹介された。昨年の観測は米国Goldstoneの70mアンテ ナから電波を発射し、反射波をGoldstone,ウクライナのEvpatriaおよび鹿島 (Kashima)の各アンテナで受信したが、そのとき観測した小惑星に3局の局名を 入れたGolevkaという名前がつけられた。物質毎の電波の反射係数のデー タはあるのかという質問があり、月のデータで実際にアポロで持ち帰ったサンプ ルとの比較データがあるとのコメントがあった。また、何故電波を使うのか、光 では駄目なのかの質問に対して、大きさや形状の計測ではレーダーのほうが光学 観測よりはるかに分解能が高いという回答があった。 ●VLBI技術開発への期待(細川瑞彦) VLBIのあり方、意義、発展への期待を、対象としては宇宙電波と人工電波源 、目的としては天文、測地、航法、物理、開発方向としては精度、感度、即時性 に分類してまとめる試みが報告された。対象では宇宙電波がこれまでは最大の対 象であったが、月、惑星へ探査機が続々打ち上げられる今後は人工電波源にも注 目する価値があるのではないかということ、目的では特に天文においては、10 μ秒角の測定ができれば銀河の立体地図など、天文学の重要課題とともに、CR Lを中心とする理論グループが検討、予測してる星の質量測定、基準座標系のゆ らぎ等の実証も可能になること、などが挙がった。方向については、現状では技 開センターとしてのCRLは即時性の点でリードしつつ、広帯域化による感度向 上に向きを定めつつあると思われるが、他の方向の可能性検討も対象、目的と関 連させながらときには振り返ってほしいこと、特に高精度化は理論の検証のため の要望がある、などの期待が述べられた。 ●KaRAS(低周波自然電波観測装置)(近藤哲朗) 鹿島宇宙通信センターで立ちあげつつある低周波自然電波観測装置(KaRAS: Kashima Radio Spectrograph)(20-70MHz)の現況が紹介された。要点は以下の通 り。特に、低周波数帯での観測は混信のため困難になりつつあるが、ダイナミッ クスペクトル上で簡単なアルゴリズムを適用することにより、ある程度の混信が 除去できることが示された。今後、平磯宇宙環境センターのアンテナとの間(基 線長約40km)で干渉計を構築していく計画である。この報告に対して専門委 員から、目的が曖昧でありよくわからないとの意見があり、目的は電波放射メカ ニズムの解明であるが、その目的に使用できるデータを取るシステムの構築が当 面の目標となるとの回答があった。また、こうした観測を1天体を長時間モニタ ーできる極地で行うことの可能性や意義についてもコメントがあった。 6.閉会のあいさつ IERS技術開発センター長の内田国昭標準計測部長より閉会の挨拶を行った。 ★KSP施設見学会 会議終了後、KSP小金井局のSLR施設およびVLBI施設の見学会を実施し た。 議事録作成:近藤哲朗