第10回IERS技術開発センター会議・議事録   (作成日:97/03/19、改訂:97/03/29) 場所:通信総合研究所鹿島宇宙通信センターTV会議室     (小金井本所TV会議室との間でTV会議) 日時:平成9年3月14日 金曜日 午後1時〜午後5時 出席者: 外部専門委員  河野宣之教授    国立天文台  飛田幹男課長補佐  建設省国土地理院測地部測地2課 (斉藤委員 代理) 藤田雅之主任研究官 海上保安庁水路部企画課海洋研究室  (金沢委員 代理) (欠席)   川口則幸助教授   国立天文台   日置幸介助教授   国立天文台   渋谷和雄教授    国立極地研究所南極圏環境モニタリング研究センター   平林 久教授    宇宙科学研究所  岡田義光センター長 科学技術庁防災科学技術研究所   加藤照之助教授   東京大学地震研究所 外部オブザーバ   寺井孝二(海上保安庁水路部)   久保岡俊宏(海上保安庁水路部・特別研究員) 内部 内田国昭、吉野泰造、濱真一、木内 等、金子明弘、国森裕生、雨谷 純、花土ゆう子 (以上標準計測部) 高橋冨士信、高橋幸雄、市川隆一、小山泰弘、関戸衛、中島潤一、川合栄治、近藤哲朗 (以上鹿島宇宙通信センター) 小金井本所からTV会議での参加者 三木千紘、瀬端好一、大坪俊通、野尻英行(以上標準計測部) 合計25名 議事: (司会進行:小山泰弘 主任研究官)    1. あいさつ IERS技術開発センター長の内田国昭標準計測部長が会議開催のあいさつを行った。 その中で前回の会議以降の特記事項としてCRLの外部評価が実施されたことが紹介され た。 2.専門委員による各機関の活動報告 参加委員一人一人に各機関の現状を報告して頂いた。 ● 飛田専門委員代理(国土地理院) 国土地理院が取り組んでいるアジア太平洋地域の測地プロジェクトに関して以下のよう な報告があった。 アジア太平洋地域GIS基盤常設委員会第2回会議が1996年10月にシドニーで開催され た。そこで利用可能な宇宙測地技術の固定局を使用して、精密な地域測地観測を1997年10 月に実施することが提案された。目的はアジア太平洋地域での高精度測地基準網を構築す ることである。特に近くの参加局間の座標取り付け測量がなされるべきである。このプロ ジェクトへの参加局としてVLBIが6局、SLRが16-20局、DORISが20局、PRAREが6局、GPS が50局以上が見込まれている。VLBIターミナルとしてはMark-IIIaが用いられる。VLBIへ の参加6局はFairbanks,Hobart,GSI-Kashima,Kokee,ShanghaiそしてUrumqiである。観測 スケジュールはNASA SKEDを使用して中国が作成する。相関処理はNASA/GSFCが行う。基線 解析およびデータ配布は中国が行う。 この報告に対して、VLBIの調整が一番大変であろう、SLRとしてはどれかの衛星をキャ ンペーン期間中に集中的に観測することになろう、到達目標をはっきりさせては(どれだ けの精度を出すか)等のコメントがあった。 ●河野専門委員(国立天文台) 国立天文台の現状および将来計画の紹介が以下のようにあった。 国立天文台は後1年で発足10年を迎える。これを機会に2期計画がスタートし、かな りの組織改革が計画されている。第3者による外部評価が始まっており、VLBIおよびVSOP の第1段階(国内有識者による評価)評価はすでに終えた。 VSOPは打ち上げに成功し、メインディッシュの展開にも成功した。試験観測実施に向け 作業中である。VERA計画は平成10年度向けの概算要求をすることになった。各局2アン テナの計画から各局1アンテナ(高速スイッチング方式)に変更する。また、目的として ダークマター(暗黒物質)が我々の銀河に充ちているかどうかを調べることを大きな柱に 加えた。RISEはISAS(宇宙研)とNASDA(宇宙開発事業団)の共同計画であり、2003年に HII-Aを使って打ち上げを目指す。CRL,GSIにも検討グループに入っていただいているが、 今後も協力をお願いしたい。南極VLBIは極地研を中心に装置の整備が進められた。国立天 文台の寺家(じけ)氏が39次隊で南極に行く予定である。CRLの経験を活かして協力し ていただきたい。 Q:南極VLBIのバックエンドは? A:K4の全局配備はあきらめた。昭和基地はK4だが豪州はS2。相関処理に関しては三鷹 VSOP室に近々S2->K4のダビング機能が実現する。 Q:南極VLBIの時期は? A:来年1月、2月に最初の観測。39、40、41次隊で実施する。24時間実験2 回を1セッションとし、年4セッションを予定している。 Q:標準時の問題はどうなっている? A:今年度(平成8年度)から三鷹の保時室を廃止し水沢に移した。水沢が保時してい る。将来どうなるかは未定。 ●藤田専門委員代理(海上保安庁水路部) 海上保安庁水路部の測地観測に関して以下のような報告があった。 可搬式SLRは1次基準点測定(海洋測地成果)を昨年度で終了し、今年度から2巡目 に入り、9〜12月に父島で測定を行った。来年度は7〜11月に石垣島で測定予定であ る。固定式SLRは下里において1982年から定常観測を実施している。測距精度は3〜4 cmであるが1cmを目指したい。具体的には4月から受光系のアップグレード等を計画 している。  GPSは関東中心に定常観測(24時間/日)を実施しており、前会議報告以来変化は ない。  灯台部が開発しているD−GPSは本格サービス開始に向けて準備中である。平成11 年度までに全国で30点位の基準局整備を目指しており、水路部では、これら灯台部D− GPSの基準局を測量点として使えないかと考えている。 Q:SLRは測距精度よりもバイアスが問題。バイアスのチェックが重要。 A:CRLから是非ともアドバイスをいただきたい。下里のバイアスは長年指摘されている ことであり、原因の究明をはかっているところである。 Q:離島観測の場合、測距データの通信手段は? A:現在の所、オフライン処理である。 Q:GPSとのコロケーションは考えているか? A:下里には常設している。離島には持っていく。GSIのネットワークとの接続は今後 考えていく。 3. TWAA96報告(高橋幸雄)  1996年12月10日〜13日に鹿島で開催されたTWAA96(Technical Workshop for APT and APSG 1996)について、別紙資料に基づいて、参加人数(123名)、討議された内容、次 回会議の候補地としてハワイ(1997年12月)が挙がっている、等の報告がなされた。 4.技術開発報告 4.1.首都圏広域地殻変動観測システムの現状(小山泰弘)  別紙資料を元に首都圏広域地殻変動観測システム(KSP)のVLBIについて、現状 が以下のように報告された。 昨年(1996年)9月から4局観測を実施している。観測成功率(基線解析が行えたものを 成功とみなす)は100%近くになっている。現在の観測時間帯は00:00-05:00JSTである が、観測終了後1日半で解析結果の公表が達成できている。トラブル対策ももっとも不便 な局である館山局でもトラブル発生から3日以内に対処ができた。基線長のフォーマルエ ラーは2mmを達成している。これは鹿島局の受信機室(アンテナ内)内のエアコン停止の 効果である。 Q:エアコンを止めたら精度が向上したというのが理解できない。 A:エアコンを作動させると受信機室内の温度は振幅が3℃位であるが周期が20分程度 の変動をする。エアコンを停止すると温度の振幅は大きくなるが周期は1日となるため、 温度の時間変動(勾配)は逆にゆるやかになる。受信機室内の急激な温度変動は鹿島で使 用している位相校正信号発生装置(暫定版を使っており外部温度変化に敏感)の位相変動 をもたらしていた。そのため、短周期の変動が観測値に重畳して、結果として精度の悪化 となったが、変動が長周期の場合はクロックとして推定されるために精度の悪化とはなら ない。こうした理由により精度が向上したものと思われる。 C:高い観測の成功率に驚いている。GSIとしてはCRlを先輩として今後も見習って いきたい。 4. 2 SLRシステムの現状(国森裕生)   KSPプロジェクトで整備を行っているSLRシステムについて別紙資料を元に、現状、 取得データ、バイアス解析、課題等の報告があった。 Q:WRMS6cmの軌道を使ったというのはどういう意味か? A:変な局は除き、バイアスは推定して局位置はITRF座標系で与えられる局位置に固定し て作成した軌道を使ったという意味である。なお資料の6cmは3cmの間違いである。 4. 3 マルチメディアバーチャルラボでのVLBIの取り組み(浜 真一) 資料に基づき、マルチメディアバーチャルラボのイメージが報告された。要点は、「マ ルチメディアバーチャルラボは電気通信技術審議会答申で早期構築を提言されたものの、 合意された明確なイメージはなく各人各様に考えている状況である」、「VLBIとしては大 量データの共有が魅力であり、分散処理、仮想的大型アンテナへの展望が開ける」。 Q:マルチメディアバーチャルラボの雰囲気がよくつかめない。人がいなくて離れたとこ ろの実験室を共有できたり、実験室に行かなくても机上から実験ができる、ということな なのか? A:各人考えていることが異なる。ある人はTV会議の延長程度にしか考えていない。 VLBI,電離層等ではデータ転送手段としてとらえている。 C:具体的に何に役立つかわからないが、確実にこういう方向に流れているんだろうとい う漠然とした感じはある。GSIではリモセンデータの流通に使えないかと思っている。 WWWでは大きなデータは誰もダウンロードしない。情報公開という意味で大いに役立つ。 Q:本音は通信回線だけ確保できれば良いということか? A:・・・。VLBIは通信回線がほしいだけだろうと色々なところで言われるのは事実だ。 5. 討論「CRLでのギガビットレコーダの開発意義」 問題提起に変えて「国際的なギガビット等次世代VLBI技術開発の動向とコンパティビリ ティ」「CRLでのギガビットレコーダの開発現況」「K4の発展としての高密レコーダ の開発」「次世代VLBIシステムイメージ」という話題でそれぞれの報告者に報告して いただき、その後全体討論を予定していたが、それぞれの話題毎の議論も全体討論的な内 容であった。各話題毎の報告内容と議論は以下の通りである。 ●国際的なギガビット等次世代VLBI技術開発の動向とコンパティビリティ(高橋幸雄) 資料に基づき世界のVLBIターミナルの互換性の現状についての紹介と各ターミナルでの 決定精度の評価が示された。 C:相関器は国内においてはマンパワーが限られているので無駄なものは必要ない。GS Iは何故もっと多基線の相関器を入れなかったのか? C:GSIとてマンパワーの確保は難しい。GSIのメインの仕事は新しい座標値の構築 であり、それにマンパワーがとられてしまう。 ● CRLでのギガビットレコーダの開発現況(中島潤一) 別紙資料のGBR-1000の開発報告に加えて、VLBI技術開発のポリシーに関して以下のよう な提言がなされた。真のボトムアップを目指した「国内次世代VLBIチーム」を作ろう。日 本でのミリ波、広帯域のVLBI技術とサイエンスの確立しようではないか。CRLではミリ 波受信機を開発し、34mアンテナにのせて観測を行う。つまりVLBI技術を作り使うとこ ろに立ち戻ろう。開発技術や計画はTDCニュースで広く発信しよう。レコーダに関して はオープンリールとヘリカルスキャン方式では全然次元の違うものだと認識し、ミニマム コンパチだけを考えよう。 Q:Mark-IVのテープが買えなくて困っている。こうしたものをGSIの32mシステム で使わなくてはいけないというのは心配である。GBRのテープは安定供給されるのか。 1本単位でも購入できるのか。 A:放送局で使っている。テープの供給に関して全く問題ない。1本でも購入できる。 C:中島さんの話に勇気づけられた。電波天文はCRLの中では建前として表に出してや るのは難しいことは認識しておかなければならないが、これをやれるようにするのは上の 人の仕事。今後ミリ波、偏波観測の基本的技術開発は是非ともCRLでがんばってやって もらいたい。 C:GBRについてはヘイスタック観測所のホイットニーが大変興味を持っていた。 C:レコーダ展開について、買ってどんどん配ればいいかというと、そうではなくなって きている。 A:VLBAの置き換え、あるいはMark-IVの置き換えでレコーダが普及していけばいいなあ とは思う。 C:いいものを早く提供した方が勝ち。GBRとMark-IVの違いはGBRは測地にも使える点。 C:AIPSに測地モードがあっても誰も中身を知らない。だから動かない可能性が強い。 C:測地ができないレコーダはGSIとしては採用が難しい。 ● K4の発展としての高密レコーダの開発(木内 等) 別紙資料あり。報告の要点は以下のとおりである。技開センターでは何をなすべきか? VLBIの高精度化にハード・ソフトで貢献すべきではないか。しかしながら、CRL内の開 発体制は満足できる状況にはない。今までの開発は米国のシステムに追いついてきただけ で決して越えてはいない。VLBIシステムの高精度化の目標を銀河系内のダークマターの検 出におき、データレート2048Mbpsの多ch(64Mbps×32chまたは128Mbps×16ch)測地用 VLBIシステムを提案する。帯域幅64MHz以上の広帯域ビデオ変換器はすでに技術的見通し がついている。レコーダも技術的には見通しがついているものと考えている。 Q:GBRとこのレコーダの関係はどうなるのか?どこが違うのか?開発費はいらないの か?いるとするとどこからとってくるのか? A:目的で分けるとGBRは天文応用、この2Gレコーダは測地応用。2Gレコーダシス テムはS社との共同研究を考えている。 C:目標を持つのは若者。それを実現するために金を取ってくるのは年寄りの仕事。 C:開発(含むプラン)の情報を海外にもオープンにするのはいいこと。K4が普及しな かったのは、すでにMark-IIIがあったから。 C:K4が普及しなかったのは相関処理センターがなかったから。 C:K4が普及しなかった点は反省し、レコーダは開発しよう。 Q:このレコーダの値段は? A:相当高くなる。 C:CRLにおいてヘリカルスキャン方式のレコーダの開発は進めるべき。 C:レコーダが2つあるのはユーザとしてはありがたくない。 ● 次世代VLBIシステムイメージ(近藤哲朗) 資料に沿って、技術開発と科学の関係が示された。その中で技術開発は科学にフィード バックされ、さらに新たな科学の芽を創出すること、さらに技術開発と科学を含むループ 構造には高性能化指向と普及型指向のループがあることが示された。これをふまえて今後 のデータ記録システムとして技術開発センターとしては2つ高精度化の道(GBRとK4 発展型)と同時に、低価額の普及型も目指すべきではとの提言があった。 6.閉会のあいさつ IERS技術開発副センター長の高橋冨士信関東支所長より閉会の挨拶を行った。その 中で技術開発センターとして提言された3つの開発(GBR、K4発展型、普及型)につ いて、技術開発センターニュースで国際的に問いかけて反応を見てみてはどうだろうか、 との提案があった。 会議終了後、専門委員およびオブザーバの方々にはKSP鹿嶋局のSLR施設を見学して いただいた。 議事録作成:近藤哲朗