第11回IERS技術開発センター会議・議事録   (作成日:97/09/22) (最終改訂日:97/09/30) 場所:通信総合研究所本所4号館2階中会議室 日時:平成9年9月18日 木曜日 午後1時〜午後5時30分 出席者: 外部専門委員 川口則幸助教授   国立天文台      花田英夫助手 国立天文台水沢  飛田幹男課長補佐  建設省国土地理院測地部測地第二課  藤田雅之研究官   海上保安庁水路部企画課海洋研究室  島田誠一主任研究官 科学技術庁防災科学技術研究所    里 嘉千茂助教授 東京学芸大学教育学部地学科  武村雅之主管研究員 鹿島建設株式会社小堀研究室     (欠席) 笹尾哲夫教授 国立天文台水沢 大久保修平教授 東京大学地震研究所 内部 岡本謙一、今江理人、細川瑞彦、花土ゆう子、高橋幸雄、三木千紘、木内 等、 金子明弘、濱真一、吉野泰造、国森裕生、雨谷 純、野尻英行、大坪俊通、古屋正人 (以上本所) 高橋冨士信、栗原則幸、小山泰弘、関戸衛、中島潤一、市川隆一、後藤忠広、近藤哲朗 (以上鹿島宇宙通信センター) 合計30名 議事:     1. あいさつ IERS技術開発副センター長の高橋冨士信関東支所長が会議開催のあいさつ を行った。その中でIERS技術開発センターの経緯について簡単な紹介があっ た。 2.CRL内体制の紹介(吉野泰造) IERS(国際地球回転事業)におけるVLBI組織再編の経過および世界の体 制の現状とCRLの技術開発センターの位置づけが説明された。また、CRL内 の体制について、チーム制の導入があったことなどが紹介された。 3.専門委員の自己紹介と各機関の活動報告 参加委員に自己紹介と各機関の現状を報告して頂いた。 ●川口専門委員(国立天文台) 国立天文台野辺山の現況およびVSOPが国際的協力のもとに成功していること の紹介があった。VLBIに関しては現在、世界に混在する様々な磁気記録シス テム間の媒体変換に力を注いでおり、3つの媒体間の変換が可能になったことな どの紹介とともに、CRL技術開発センターに対して、世界のスタンダードが打 ち出せるセンターとなって欲しいとの要望が出された。 ●花田専門委員(国立天文台水沢) 2003年打ち上げ予定のSELENE(月探査周回衛星計画)中のRISE( 測地学的手法による月・惑星の計測研究)について今年度から実質的に開発のフ ェーズに入るとの紹介があった。ただ、財政構造改革の影響でSELENE計画 も大幅な計画変更があり、リレー衛星との相対VLBI実験は打ち上げのさらに 1年後となるとの報告があった。 ● 飛田専門委員(国土地理院) 国土地理院、通信総合研究所、海上保安庁水路部が共同で進めている、GPS− VLBI−SLR間および日本測地原点への座標系の結合を目的とした、プロジ ェクト97(日本宇宙測地観測局座標結合同時観測)の報告があった。その他、 3局3基線処理可能なK−4型相関処理システムが国土地理院で稼働を開始した こと、このシステムはCRLが開発したものであり、国土地理院としては非常に 感謝していること、今後のCRLの技術開発にも大いに期待してい等が述べられ た。 昨年、9月のTDC会議で提案されたKSPアンテナをSARに写し込む実験に ついては、今回はネガティブな結果に終わったが、失敗の原因について考察を深 め、今後も実験を行いたいので協力をお願いしたいとの要望があった。これに対 してCRLにはSARの専門家もいるので、連絡を密に保ちながら今後も協力を 進めていくことになった。 ●藤田専門委員(海上保安庁水路部) 海上保安庁水路部のSLRとGPS観測の現況について以下のように紹介された 。昨年実施した父島でのSLR観測結果から求められた父島の動きは今までに知 られている結果と矛盾しなかった。現在石垣島で観測中である。水路部は無人島 (男女群島女島)でのGPS連続観測を来年度から予定している。灯台部が進め ているD−GPS網の全国展開は当初平成11年度までに全国で20数点を整備 する予定だったが、前倒しで平成10年度までににすべてを整備することになっ た。 ●島田専門委員(科学技術庁防災科学技術研究所) 自己紹介の後、GPS観測における大気遅延の影響を取り込んだ解析ソフトウェ アの最近の動向についての以下のように紹介があった。それらは従来のマッピン グ関数による天頂方向の大気遅延の推定だけではなく、水平方向の勾配も推定す るものである。水蒸気の影響に関しては数値予報データを用いて解析時の初期値 を与える取り組みも行われ始めている。 ●里専門委員(東京学芸大学教育学部地学科) 国立天文台水沢から学芸大に移ってきてから固体測地の話しに関わる機会が少な くなったので、この機会に勉強させて欲しいとの自己紹介のあと、最近の自身の 研究に関して、宇宙測地技術を使って、プレートの運動や変形を求めている、プ レート運動に関しては、地質学的プレート運動モデルと比較してVLBIデータ によるものはよく合うが、GPSデータによるものは有意に差があるように見え る、以前求めたSLRデータによるものも似た傾向があったが、これらについて はさらに検討していく必要がある旨の報告があった。 ●武村専門委員(鹿島建設株式会社小堀研究室) 自分は地震学でも強震動の分野が専門であり、他の専門委員とは少し分野を異に した立場から技術開発センターに対して貢献したいとの前置きの後、古い地震を 見直してみると、「兵庫県南部地震」は特別な大地震ではなく、過去に何度も経 験してきた地震の1つであることが分かる。被害分布を見る時は、震源の影響も さる事ながら地盤の影響による被害の差が重要である。そうした地震の振動の様 子は墓石の倒れ方からも推測できる。また,非常に地震規模が大きな「関東大地 震」クラスの地震では被害の広がり方が格段に大きくなり、今回の教訓が全て活 かされないこともあることを認識すべきだとの指摘がなされた。 4.技術開発報告 首都圏広域地殻変動観測システム 「連続試験観測結果速報」(近藤哲朗) 首都圏広域地殻変動観測システム(KSP)のVLBI連続試験観測について、 以下のような報告があった。7月28日から8月1日までの5日間連続試験観測 を実施した。目的は長時間観測による精度向上の評価、大気の影響の評価、長時 間観測がシステムに与える影響の評価である。基線長の再現性という観点から評 価した結果、6時間/日観測よりも24時間/日観測の方が再現性の向上が見ら れた。そこで、KSP/VLBIの観測形態を毎日6時間/日から隔日の24時 間/日観測へ移行する。 Q:1日あたりの観測数を大幅に増やせた要因は? A:実時間相関処理のため、従来テープ同期に要した時間を必要としなくなった ため1つの電波星あたりの観測時間を短くできるため。 「実時間相関処理ソフトウェアRKATS報告」(関戸 衛) KSP/VLBIの実時間相関処理ソフトウェア(RKATS)の概要と特徴が 報告された。特に、自動フリンジサーチ機能やダイナミッククロック補正機能に より、連日の完全無人運用を達成している点が強調された。 Q:クロック補正はオフセットの補正より、むしろレート補正の方が重要ではな いか?また、水素メーザを使っているのであれば、頻繁なクロック補正機能は不 要ではないか? A:両方の機能を有している。現実的にはオフセット補正のみで実用になってい る。クロックは時々、リセットを行うことがあるが、そうした場合にも無人運用 できるようにクロック補正機能を持たせた。 「集中観測解析(気象学の立場から)」(市川隆一) 連続試験観測期間中に並行して行われたVLBIとGPS観測の比較結果につい てそれぞれ求められた測位解の時間変化に類似したパターンが見られること、G PSの結果で最低仰角を低くするほど東西成分のバラツキが大きくなること、こ の原因として水蒸気分布の不均質が関係しているらしいことが示された。また館 山局で見られた系統的な振る舞いはGPSアンテナのレドームがその原因の可能 性があることが指摘された。 「SLRシステムの現状」(国森裕生) KSP/SLRの現状について現在鹿島局に4台のトレーラーを集めて地上ター ゲットを使っての4局のシステムキャリブレーションを行っており、2mm(r ms)程度の精度が得られているとの報告があった。 「KSPと国土地理院GPS網の座標系の結合」(小山泰弘) KSP網をITRF(国際地球基準座標系)に接続するために、鹿島34mアン テナとの間で実施したVLBI観測の結果について報告があった。その結果、K SP網のITRFでぼ座標値が鉛直方向で3cm以内、水平方向で1cm以内で 求まってきている。その結果とGPS測量点のITRF座標値(GPS−VLB I間は地上測量で結合)は、水平成分で2cm,鉛直成分で5cm以内で一致し た。今後、1cm以内で一致させるために、食い違いの原因について検討を進め る。 その他 「中国ウルムチVLBI局の現状」(栗原則幸) 中国ウルムチ局の現状に関して、VLBIハードウェアの整備状況、特にCRL が行ったPCAL装置の整備状況や7月に実施した実験の結果や今後の展望が紹 介された。 Q:GPSや他の基準点とのコロケーションの状況は? A:ウルムチ局にはVLBIしかない。 Q:市内から天文台への便は毎日あるのか? A:毎日はない。実験のときだけである。   「マルチメディアバーチャルラボの現状」(高橋幸雄) 高速ネットワーク網を使ってのマルチメディアバーチャルラボ(MVL)計画の 現状について、VLBI観測への応用の観点から紹介された。要点は超大容量デ ータ伝送と分散型の実時間データ処理技術の研究開発であり、VLBIの相関処 理を複数局で分散型で実施する場合の具体的構成案が示された。 「次世代VLBIシステム−−1」(木内 等) 次世代VLBIシステムとして検討中のデータ収集部と相関処理部についてアイ デア段階ではあるがとの断りのもとに以下のように紹介された。データ収集部は 16チャンネルで1chあたり128Mbpsまたは256Mbps、ビデオ変 換器は32MHz以上64MHz程度のビデオ帯域幅を考えており、この帯域の ビデオ変換器は技術的には製作可能である。入出力インターフェースはすべて光 インターフェースで統一する。相関処理部は並列処理の導入で1Gbps/ch の処理速度を考える。開発は専用LSIを作るのではなく、バグ出しの容易なF PGAを使う。測地、天文両方への応用が可能なものを開発する。現在、世界に 出回っている複数種類のデータレコーダのフォーマットの違いはすべて相関処理 部で吸収する。 C:バンド幅合成の技術は20年以上も前の技術であり、広帯域(RF)をその ままサンプリングするとか、発想の転換がそろそろ必要なのでは。 「次世代VLBIシステム−−2」(中島潤一) 次世代ギガビットVLBI機器開発に関して、野辺山に持ち込んでテストを行っ たサンプラー部のテスト結果について、相関器(GICO)で自己相関検出に成 功した旨の報告があった。 「GPS利用VLBI用周波数標準の検討」(近藤哲朗) 汎用のGPS時間/周波数基準レシーバを2台用いて、その周波数安定度を評価 した結果が報告された。その結果、フリンジサーチと呼ばれる相関処理データの 1次処理プロセスにおいて高次(3次)までのサーチを行うことにより、8GH z帯においても100秒程度の積分が可能であることが示された。 Q:コヒーレンスを保つ源は? A:同じUTC時系にロックしているため。全く同じGPS衛星に対してロック していれば、さらにコヒーレンスは高くなるものと思われる。 「ミリ秒パルサー観測システムの開発」(花土ゆう子) 鹿島34mアンテナのミリ秒パルサー観測システムの紹介と、最近の観測結果に ついて報告された。その結果、TEMPOと呼ばれるパルサーのパルス位相予測 ソフトのバージョンアップによって、再現性が向上したが、新たな長期ドリフト が見られるようになった。 C:TEMPOをブラックボックスのままにしておいては研究に限界がくるので は。また、SN比の改善のためパルスのところだけバーストサンプリングしては どうか? 「長波標準電波施設の整備」(今江理人) CRLの時空系科学の一環として進めている長波標準電波施設の整備に関して経 緯、位置づけ、平成11年4月から送信開始を予定している等の紹介があった。 Q:GPS時代に何故長波標準電波施設なのか? A:CRLは日本の周波数標準/標準時を供給する義務がある。GPSは米国の ものであり、日本の国家標準を長波で送るものである。また長波は建物の中でも 受信できるという利点がある。 Q:JJYは何故短波だったのか? A:短波は弱いパワーで広範囲をカバーできたためではないか。長波は施設の整 備に短波局以上に初期投資が必要であったためと思われる。 「衛星測位システム基盤技術の研究開発」(今江理人) 衛星測位システム基盤技術の研究開発に関して以下のように報告がなされた。G PSに代わる日本での衛星測位システムの構築に関して、ここ1、2年議論が進 められつつある。CRLで取り組む衛星測位システム基盤技術の研究開発として 、衛星搭載用原子時計の研究開発、衛星搭載原子時計群の時系管理、高精度実時 間軌道決定技術の開発、があげられる。2002年打ち上げ予定のETS−8に 原子時計の搭載を計画している。 Q:測位システムとしてセシウム時計ではなく水素メーザを衛星に搭載しなくて はいけないのか? A:時系のキープが楽になるという点もあるが、先をにらんだ基盤技術の開発と いう点に意義がある。 5.閉会のあいさつ IERS技術開発センター長の岡本謙一標準計測部長より閉会の挨拶を行った。 会議終了後、新専門委員の方々にはKSP小金井局のVLBI/SLR施設を見学して いただいた。 議事録作成:近藤哲朗