第12回IERS技術開発センター会議・議事録 (最終改訂日:98/03/25) 場所:通信総合研究所鹿島宇宙通信センター小会議室 日時:平成10年3月10日 火曜日 午後1時〜午後5時30分 出席者: 外部専門委員 川口則幸助教授   国立天文台      花田英夫助手 国立天文台水沢  飛田幹男課長補佐  建設省国土地理院測地部測地第二課  藤田雅之研究官   海上保安庁水路部企画課海洋研究室  島田誠一主任研究官 科学技術庁防災科学技術研究所    里 嘉千茂助教授 東京学芸大学教育学部地学科  武村雅之主管研究員 鹿島建設株式会社小堀研究室     (欠席) 笹尾哲夫教授 国立天文台水沢 大久保修平教授 東京大学地震研究所 内部 岡本謙一、今江理人、細川瑞彦、花土ゆう子、高橋幸雄、三木千紘、木内 等、金子明弘、 国森裕生、雨谷 純、野尻英行、大坪俊通、古屋正人、勝尾双葉 (以上本所) 高橋冨士信、栗原則幸、小山泰弘、中島潤一、市川隆一、後藤忠広、鈴山智也、近藤哲朗 (以上鹿島宇宙通信センター) (内TV会議で小金井からの出席者:国森、野尻、大坪、古屋、勝尾、今江、細川、三木、 花土) 合計29名 議事:     1.あいさつ IERS技術開発副センター長の高橋冨士信関東支所長が会議開催のあいさつを行った。 2.専門委員の自己紹介と各機関の活動報告 参加委員に自己紹介と各機関の現状を報告して頂いた。 ●島田専門委員(科学技術庁防災科学技術研究所) GPSデータ解析において大気の水平方向勾配の影響について、その評価結果の紹介があ った。その結果によると上下方向には改善が認められなかったが、水平位置成分は改善が 認められたとのことである。その他、GPSから求めた水蒸気の時空間分布についての報 告があった。 ●藤田専門委員(海上保安庁水路部) 海上保安庁水路部のSLRとGPS観測の現況について以下のように報告があった。 SLRの下里での観測はCFDに切り替えて測定精度をあげる調整の最終段階になってい る。測定精度は3〜4cm−>1cmを目指している。可搬式SLRでは一昨年(199 6年)実施した父島での観測と1988年に実施した観測結果から約6cm/年の移動速 度(対ユーラシアプレート)が得られた。これは今までのVLBI等の観測と調和する。 昨年夏は石垣島で観測を行ったがシステムの老朽化が激しく、辛うじてデータ取得に成功 した。来年度は当初計画では南鳥島の予定であったが、稚内に変更した。 GPSは相模湾周辺での定常観測を行っているほか、九州の男女群島に太陽電池と衛星通 信システムを利用した自動システムを設置すべく準備中。 灯台部が進めているD−GPS網の全国展開は10年度までに約30点を整備する予定で 進んでいる。今年度11局を整備し、来年度14局を整備する。 ●川口専門委員(国立天文台) 国立天文台からの報告としてVERA計画の現状とVSOPについて以下のように報告が あった。 VERA計画の現状:見えないものを見る望遠鏡を日本列島に建設するVERA計画が強 調された。見えないものを見るということは重力にひかれて動く、メーザ天体の位置を精 密に測定する。クェーサは10μ秒角の分解能での観測が必要。そのためには最小限4局 必要であり、できれば6局以上必要である。VERAのネットワークはイメージング能力 ではVLBAに勝てないが、東西成分を得るためにウルムチ局との協力が重要な局となる。 また、ミリ波では観測データ量を大幅に増やすことでVLBAを上回る感度を得ることが できる、等が報告された。さらに光結合型アンテナのアイデアが紹介された。ATM光回 線網を使って日本国内の複数のアンテナを一筆書きで結合することによって、合成型アン テナを構築しようというアイデアで、このアイデアでは10Gbpsの回線で5局なら、 8Gbpsまでの観測が可能となることが示された。 VSOPに関して、「はるか」は、元気に活躍しており、ほぼ毎日のように観測がなされ ているとの報告があった。さらに、VERAの高い周波数での高分解能観測との対応が期 待されるとの報告がなされた。 さらに、技術開発センターに対して34mアンテナは非常に重要であるので今後も維して ほしい、安定なギガビットレコーダの提供や光結合型VLBIに向けての技術開発が重要 である旨の期待が寄せられた。 ●里専門委員(東京学芸大学教育学部地学科) 「沈み込みプレート境界面での摩擦なし粘弾性すべりのモデル計算」について紹介があっ た。研究は、1994年三陸はるか沖地震後の地殻変動のGPSによる観測結果が動機とな っており、地殻やマントルのレオロジーモデルの検討の結果、Maxwell Modelよりも Three-element Solid Modelの方がパラメータの設定の仕方でより良く観測結果を説明で きることなどが紹介された。この報告に対して、地震予知に関する議論があり、余効変動 も考慮しないといけないのではないか等の議論があった。 ●武村専門委員(鹿島建設株式会社小堀研究室) 地震学会の広報誌「なゐふる」の紹介があった。その後、関東地震の前後の記録の掘り起 こし作業の結果が報告された。その中で、地震の予知研究を行うには、地震の前兆現象だ けでなく、大きな地震が起こった場合の余効現象も調べておくことの必要性が指摘された。 さらに、過去の大地震を詳細に調べることは地震予知にとっても重要であるとの紹介があ った。 ● 飛田専門委員(国土地理院) 国土地理院の鹿島26mアンテナに測地VLBIの標準観測制御ソフトウェアであるフィ ールドシステムが導入され、フィールドシステムによるフリンジテストが3月3日に実施 され、結果は良好であった旨、報告された。 また、つくばに建設中の32mアンテナが完成し、3月20日にフリンジテストを予定し ている。このアンテナは3゜/秒の高速駆動、ならびにアンテナ基準点の年変化5mm以 内のスペックを有しており、今後、このスペックが達成されているかのモニターを行う予 定である旨の報告があった。 ●花田専門委員(国立天文台水沢) RISE計画の進捗状況について資料をもとに報告がなされた。月探査周回衛星計画 (SELENE計画)が政府予算案に盛り込まれることになり、来年度から正式にスタートする ことになったこと。1月にRISE計画に関連したワークショップを水沢で開催したこと。 来年度からPM設計に入ること、等の報告があった。 3.技術開発報告 3.1.今までに培ってきたCRLのVLBI技術一挙公開! 「自動運用技術」(小山泰弘) 通信総合研究所で今までに開発された自動運用ソフトウェアであるKAOS、MAOS、 NKAOSそしてKSP用に開発された要石が紹介された。さらに将来のVLBI観測ス ケジュールファイルはVEXフォーマットで統一される方向にあり、これからの国際実験 に参加するにはVEXフォーマットに対応した観測制御ソフトが必要となること、米国の VLBIグループの開発したField SystemがK4やGBRの制御もできるようになって きており、あらゆる種類のバックエンドに対応できるようになりつつあることが報告され た。 「アンテナ・フロントエンド部技術」(栗原則幸) CRLで培ってきたアンテナ・フロントエンド部の技術開発に関して以下のように報告さ れた。CRLは日本のVLBIの原点である26mアンテナの受信系の開発から始まり、 通信総研だけでなく国土地理院のVLBI局の開発や極地研の南極VLBI局の開発に協 力してきた。このようにCRLの技術開発成果は国内の測地VLBI観測局に生かされて おり、現在、30m級以下の測地VLBI専用観測局は10局を数えるにいたっている。 こうした実績から、数m〜30m級のアンテナの設計がCRL独自で可能であること、さ らに、高品質・高信頼性の受信系設計が可能であること(ただし、S/Xバンド)、アン テナ受信系の総合評価が可能であることが紹介された。 「バックエンド・レコーダ技術」(木内 等) CRLで開発したK3型バックエンド・レコーダからK4型やKSPバックエンド(レコ ーダ)部が報告された。特にK4型以降ではオートテープチェンジャーにより、長時間の 無人自動観測が可能になったことなどが報告された。専門委員からオートチェンジャーに より非常に観測が楽になった。もっとに世界にアピールしてほしいとのコメントがあった。 「リアルタイムVLBI技術」(木内 等) CRLとNTTで共同開発し、KSPで定常運用に使用されているリアルタイムVLBI 技術について、その実現にはATM技術、実時間相関処理技術が重要な技術である等の紹 介があった。 「バンド幅合成処理技術」(近藤哲朗) 相関処理データから精密に遅延を決定する「バンド幅合成処理」ソフトウェアの紹介があ った。開発初期では約6分の観測データ(相関データ)の処理時間が1時間以上かかった が、現在では1分以下になっていることが紹介された。専門委員からバンド幅合成の実時 間処理ソフトウェアの開発を是非行ってほしいとの要望が出された。 「データ解析技術」(高橋幸雄) CRLで開発された測地VLBI解析ソフトウェアについて、歴史的なレビューが報告さ れた。年とともにソフトウェアの進化および、モデルの改良、新しい物理モデルの導入が あり、現在(KSP用解析ソフトウェア)は第3世代と位置づけられる。こうした、ソフ トウェアの進化、および物理モデルの変遷が紹介された。将来への発展として、天文と測 地を融合、広帯域VLBIデータ解析、相対・差動VLBI解析、位相合成解析等の機能 を持つソフトウェアの構想が述べられた。専門委員からは国立天文台のVERAプロジェ クトからもCRLの技術に期待しているとのコメントがあった。 3.2.首都圏広域地殻変動観測システム現況報告 「VLBI」(瀬端好一) 首都圏広域地殻変動観測システムのVLBI観測の現況が紹介された。KSPシステムが 稼働して以来、観測方法の見直しや、システムの改善により、観測精度の向上が見られた こと、システムマニュアルをWWWで見られるようにして、誰でもオペレーションができ るシステム作りを目指していること、小金井局の視野改善のため、枝払いを実施したこと 等が報告された。 「SLR」(国森裕生) KSP/SLRシステムの現況に関して資料に基づき、以下のような報告がなされた。第 2回鹿嶋小金井キャンペーン観測を実施したこと、三浦、館山局にトレーラを移設し、全 4局でのデータ取得を行ったこと、2月16日から定常観測に移行したこと、等が報告さ れた。 3.3. R&D実験報告 「KSP網を用いた電波源のサーベイ観測」(金子明弘) KSPは現在隔日の24時間観測を実施しているが、空き時間を利用してのR&D実験が ある程度可能となっている。その空き時間を利用しての、KSP網VLBIでの電波源サ ーベイ観測結果が報告された。目的はVLBIで観測可能なコンパクト電波源の情報を得、 電波源の分解の程度に関する情報を得ることである。パークスカタログから120の候補 天体のサーベイの行い、57天体において、相関が検出された。この中にはVLBIでは 観測されていない電波源も含まれている。 3.4.その他 「34mアンテナの現況報告」(川合栄治) 鹿島34mアンテナの現況について、建設から10年が経ち、老朽化が目立つが、安定運 用のための対策を施していること、レールの腐食防止のためのレールカバーに開口部を設 けたり、ホイールカバーを透明にして保守・点検を容易にしたこと等が報告された。これ に対して、専門委員の一人からVSOPへの支援に対するお礼と、今後も34mアンテナ を維持運用して欲しいとの熱い期待が寄せられた。別の専門家から大型アンテナの寿命に 対する一般的考え方に関して質問があり、国土地理院で建設した32mアンテナの場合は 一応30年を区切りと考え ているとの考えが示された。 「次世代VLBI装置現況」(中島潤一) 開発中の43GHz受信機、ギガビットレコーダと併せてグローバルスターの干渉問題の 報告がなされた。43GHz受信機については雑音温度が一番いいところで50Kである。 ギガビットレコーダに関してはVLBI初観測を目指していること、低高度衛星を利用し た通信システムであるグローバルスターに関しては、1.6GHzでの干渉問題に関して、 各種調査、調整作業を行っていることが紹介された。この干渉問題に関しては、地上局だ けでなく宇宙空間のVSOP局にも深刻な問題となるとのコメントが専門委員から寄せら れた。 「鹿島でのNAOCO立ち上げの現況」(鈴山智也) 鹿島34mアンテナでスペクトル観測を行うために、国立天文台で開発した簡易型相関器 NAOCO (国土地理院所有物)の立ち上げを行っている。その現況について各種ソフトの移 植が進んでいることの他、実験対象や、問題点についての報告があった。 4.各委員からの技術開発センターへの要望 各報告中に適宜コメントされており時間の都合で割愛した。 5.閉会のあいさつ IERS技術開発センター長の岡本謙一標準計測部長より閉会の挨拶を行った。 会議終了後、懇親会を行い、さらに意見交換を行った。 議事録作成:近藤哲朗