第15回IVS技術開発センター会議・議事録

(最終版作成日:1999年9月17日)

場所:通信総合研究所本所 4号館2階中会議室
日時:平成11年9月8日 水曜日 午後1時〜午後5時

出席者:

外部専門委員
川口則幸 国立天文台
日置幸介   国立天文台
石原 操  建設省国土地理院測地部測地第二課
渋谷和雄 国立極地研究所南極圏モニタリング研究センター
岩田隆浩 宇宙開発事業団SELENEプロジェクトチーム
魚瀬尚郎 NTT情報流通プラットフォーム研究所

(欠席)
小林秀行 国立天文台
仙石 新 海上保安庁水路部航法測地課

内部

岡本謙一、吉野泰造、今江理人、栗原則幸、国森裕生、勝尾双葉、雨谷 純、木内 等、瀬端好一、金子明弘、花土ゆう子、五十嵐通保、今村國康、小竹 昇、高橋冨士信 (以上本所)

熊谷 博、小山泰弘、中島潤一、市川隆一、川合栄治、関戸 衛、鈴山智也、近藤哲朗 (以上鹿島宇宙通信センター)

オブザーバー
大久保寛、大崎裕生、唐 莉莉 (研究支援者)

合計31名

議事: 

1.あいさつ

IVS技術開発センター長の岡本謙一標準計測部長が会議開催のあいさつを行った。

2.専門委員紹介

今期(1999年7月1日〜2001年6月30日)専門委員8名の内、会議に出席していただいた6名の委員に、自己紹介をしていただいた。特に魚瀬委員からは「リアルタイムVLBIと超高速ネットワーク技術」と題された資料が提出され、資料に沿って、NTTの超高速情報通信ネットワーク実験についての説明がなされた。

3.国際VLBI事業(IVS)報告− 第2回評議委員会報告(近藤哲朗)

まず、今年3月1日に発足した国際VLBI事業(IVS)についてその目的、概要の説明がなされた。その後、7月の英国バーミンガムでのIUGG開催時に開催された第2回IVS評議委員会概要について、年報が8月中に出版されること、第1回General Meetingが2000年2月にドイツで開催されること、その会議のプログラム委員に通総研の小山氏が推薦されたこと、通総研がIVSのWebページの公式ミラーサイトとなっていること、VLBI標準インターフェース(VSI)制定作業において、日本のグループが大いに貢献していること、IGSとの協力テーマとしてGPS送信アンテナの位相中心をVLBIで測定するために作業班が設立されたこと、などが報告された。

Q:IGSとの協力関係に関して、その後の情報はあるか?
A:その後の情報はない

4.技術開発センター活動報告

4.1 VLBIインターフェース標準化作業

● 経緯(近藤哲朗)

IVS技術開発コーディネータのAlan Whitneyの提唱で今年1月からスタートしたVLBI標準インターフェース(VSI)制定作業の経緯について、1ヶ月に1回程度の頻度で国内VSI検討会が開かれていることなどが報告された。

●概念(小山泰弘)

VSIに関して、その目的とするところ、および構成、さらに観測、メディア変換、相関処理時の接続例について説明がなされた。

● ケーブルとコネクター(中島潤一)

VSIで検討中のケーブルとコネクターについて実際のサンプルと共に報告がなされた。

この後、VSIに関しての議論に入ったが、専門委員から「電気信号レベルに関して従来の装置はECLを採用しており、日本でのVSI検討もECLを想定していたが、最近LVDS(Low Voltage Differential Signaling)の採用が検討され始めている。LVDSは実装上の面積も小さくて済み、低消費電力でもある。VSIがLVDSの採用となった場合、バックワードコンパチの問題もあり、日本の技術開発センターとしてどう考えるか、この会議で議論すべきではないか」との提案があった。この提案を受け、議論を始めたが、他の専門委員に対して十分議論の材料を与えたとは言えず、議論は進まなかったため、9月27日開催予定のVSI国内検討会で議論をすることとし、その結果を専門委員に測り、最終的な日本の態度を決定することとした。

4.2 首都圏広域地殻変動観測システム報告

●KSP−VLBIシステム現況報告(小山泰弘)

KSP−VLBIシステムの現況について以下のような報告がなされた。5月から三浦局とのATM回線運用が停止されたことに伴って、定常観測の運用形態を変更した。また、6月から、SINEXファイル形式での解析結果の公開を開始した。現在、三浦局を含み基線で観測データが多数使用できない問題があり、解決を急いでいる。今後、日置専門委員のご協力をいただきながら、大気遅延の勾配推定を解析に取り込む計画である。

Q:現在の測位解の推定誤差はどれくらいか?
A:各実験の解析による内部正規誤差は水平方向で2mm程度、鉛直方向で7〜8mm程度である。再現性はこの2倍程度である。
Q:大気遅延の勾配推定を導入すると、精度はどの程度改善されるのか?
A:各実験の内部正規誤差は改善されないが、再現性が改善され、内部正規誤差の値に近くなると期待している。
C:GPSの場合、冬季の位置推定結果の再現性はほとんど各観測日の内部誤差と同じ程度にまで改善されている。
C:再現性が内部誤差と同程度にまでなると、次のステップとして観測システムの技術開発によって精度を改善する余地が生じることになる。
C:VERA計画の目標達成には、各アンテナの位置を1mmの精度で決めることが必要という試算結果があるので、現在どの程度の測位誤差が達成できているかについて質問した。
C:鉛直方向の測位精度で1mmを達成することはまだまだ無理だと思う。
Q:連日観測を行うという当初の計画からすると、特に三浦局では6日に1回の観測という頻度にまで減っている。地震の前兆現象としての地殻変動を検出するという本来の目的の上でも問題ないという判断なのか?
A:1日5時間の観測を毎日行うという観測頻度を24時間観測を隔日で行うように変更したのは、測位精度を向上することが目的で、実際その効果が現れている。三浦局の現在の観測頻度は、リアルタイム実験ができなくなった現状では精一杯の頻度である。

● KSP−SLRシステム現況報告(国森裕生)

経緯、データ生産性・品質、システムR&Dと今後の課題についての報告がなされた。世界的にみて低位にあるデータ生産性の向上のための努力、特にショートアーク解のための多局同時パス取得のための努力(リンク向上、保守スケジュール最適化等)が続けられている。

Q:SLR、VLBI、GPSの座標比較で鉛直方向の差がVLBIとSLRの差よりGPSとの差の方が大きい傾向にあるのは?
A:GPSの解析モデルの中の大気マッピング関数が古いなどモデルの問題が大きいと認識している。

● KSP−GPSシステム現況報告(市川隆一)

 VLBI・GPSとの相互比較を目的として1997年7月から観測開始したKSP/GPSの現況について以下のように報告がなされた。相互比較の具体的中身は、測位解の評価・異なる宇宙測地技術間のコロケーション・大気モデルの評価と高精度化・電離層変動による影響の評価(現状では未着手)などである。GPS解析結果に基づくKSP各局の変位ベクトルは大きさ方向共にVLBIから得られる値とほぼ一致する。ただし、GPS測位解のうち上下成分については、マルチパス対策のためのアンテナ直下への電波吸収体据え付けや精度の低いマッピング関数の使用などの影響で3cm程度のバイアスが見込まれる。 1998年5月より、大気勾配の時空変動の理解、及びGPS・VLBIで使用される大気モデルの評価を目的として鹿嶋局周辺で水蒸気ラジオメータ観測を開始した。1998年5-6月に筑波気象研構内にて校正観測を実施し、この結果に基づいて生データに校正を施し大気勾配を鹿嶋と筑波で比較した。その結果、2地点間の距離が54kmと比較的短距離であるにもかかわらず、双方で大きく異なる大気勾配パターンが認められた。これは数10km〜100km程度のメソスケール現象の影響と考えられ、個々の観測点に特化した大気遅延除去を行う必要性を示唆する。今後さらに解析を進めるため、GPS解析ソフトの改造や1km程度の高分解能数値予報データによる評価を行う予定である。

Q:従来大気勾配は東西成分が南北成分より卓越すると言われているが、WVRによる勾配変化のプロットを見ると鹿嶋局の南北成分が激しく変動している。実際に鹿嶋局で南北勾配が大きいと理解して良いか?
A:実際の鹿嶋局での南北勾配が大きいと考えている。鹿嶋局の南側に広がる水田地帯や河川や湖水地域などが主たる水蒸気供給源となって南北方向の大気勾配を大きくしていることがシミュレーションから示唆されている。
Q:校正観測で見られるプロットのばらつきはWVRの機器の特性によるものか、あるいは実際の大気の変動に起因するものか?
A:ゾンデ観測の結果から考えて恐らく実際の大気変動を反映していると考えている。もう少し詳細なチェックは必要。
C:異なる機体番号のWVRの観測データ間で相関を取ると、機器の問題か実際の大気の変動かを切り分けできるのではないだろうか?
A:コメントを頂いたようなプロットを作るのは簡単なので試みてみる。

(市川補足): WVRがほぼ1分ごとの天頂遅延量を出力するのに対し、ラジオゾンデの方は約1時間かけて地上から高度約30kmまで昇っていく間に得られる鉛直プロファイルから天頂遅延量を算出する。したがって、厳密には同じ時刻の大気を見た値ではなく、最大1時間程度の時間的なずれが値の間で生じる。これがばらつきの一つの原因となりうる。

4.3 R&D実験報告

● サブミリ波干渉計のローカル伝送について(雨谷 純)

サブミリ波のローカル伝送に関し、1)従来の方法(低い周波数の基準信号を伝送)、と2)直接サブミリ波を発生させる方法、の2つの方法が紹介された。1)については、基礎的な実験結果を、2)に関しては、CRL関西支所で行われていたディテクタに関する研究の内容について報告がなされた。

Q:2)に関して、ディテクタよりレーザの安定度が問題ではないか?
A:安定度を確認した例を知らない。ぜひ、実際に安定度の測定をやってみたい。

● 近接するSLR観測局による衛星反射光同時受信実験(雨谷 純)

KSP鹿島局と、可搬局の間での衛星反射光同時受信実験についての報告がなされた。実験結果については、両局間の基線は20mと短く、到来反射波は、十分に平面波とみなせるので、VLBIと同じシンプルな線形観測方程式で基線ベクトルの推定を行った結果が示された。さらに実験の状況と、基線解析結果が示された。

Q:「地上測量と宇宙測位結果の比較に貢献する」という意味がわからない。
A:ジオイド傾斜や、真北決定等が、地上測量と宇宙測位を結びつける際に問題になるが、高精度の地上測量を行える距離を、高精度に宇宙測位することにより、両者の関係を、高精度に結びつけようという趣旨。2台のSLRを近接させて観測するのは、あまり現実的ではないが、GPSなら、アイデアとしては生きるかもしれない。
Q:平面波とみなせるということなら、月でも可であろう。月の場合、ビーム照射範囲はどれくらいか?
A:たぶん数km (後日回答:40万km、10マイクロラジアンとして約4km)
Q:同時受信というが、ほんとうに同一ミラーからの反射をとらえたといえるのか?
A:衛星の反射波は、ひとつのミラーからの反射を個々に見ているのではなく、複数のミラーからの反射の合成であるブロードな波形を観測しているので、同一の反射波を観測していると考えられる。
Q:SLRではレンジバイアスが問題と聞くが、この解析方法では影響はないのか?
A:レンジバイアスは、クロックオフセットして推定される。

● KSPシステムを用いた電波源サーベイ結果報告(金子明弘)

KSPシステムを用いた電波源サーベイ観測に関して、1981個の電波源を観測したこと、そのうち、1129個について相関が検出されたこと、さらにS/Xバンドで全基線で相関が検出されたものは189個であったことが報告された。興味深い結果としてHII領域でも相関が検出された電波源があり、今後、検証を行いたいとの報告があった。

C:HII領域のソースに関して近傍に電波源が無いとのことだが、赤外線でのカタログも見た方がいい。
C:経年変化も見ると面白いのでは。
Q:観測方法は?
A:KSPは1日おきの24時間だったので、その空いている時間をR&D観測としている。

● 大型アンテナ光ファイバー結合実験(GALAXY)報告(木内 等)

大型アンテナを2.4G光ファイバーで結合したGALAXY実験について報告がなされた。リアルタイムシステムの紹介(Network, acquisition, Correlator等)と簡単な伝送方式の紹介があり、実際に受信した結果等について簡単に報告がなされた。

Q:検出感度は?
A:計算値ですが、600秒積分で、SNR=20を検出限界とすると、5mJが感度となります(後日回答)。

● 高次モードサンプラーによるVLBI実験(鈴山智也)

高次モードサンプラーによるVLBI実験に関して以下のように報告がなされた。高次モードサンプリング32MHz4ch方式を用いたVLBI観測を、鹿島34mアンテナと水沢10mアンテナとの間で行い、4つのチャンネル全てでフリンジを検出することに成功した(国立天文台三鷹FX相関器で処理)。また、フリンジ回転周波数が各チャンネルで異なることを利用し、高次モードサンプリングで合成された信号をチャンネル分離できることも確認した。

Q:FX相関器で処理した場合、フリンジ回転周波数センターから離れたフィルタの端の部分で、ロスが発生するのではないか?特に1488MHzというような4チャンネル目では影響が大きいのでは?
A:確かに影響はあると考えられるが、データを見る限り顕著な影響はでていない。
C:相関振幅のロスには関係すると思うが、フリンジストッピングには影響しないと考えられる。

● ギガビットVLBIシステムの現状報告(関戸 衛)

ギガビットVLBIシステムの現状に関してハードウェア、及びソフトウェアの整備状況と、試験観測結果及び来年はじめに予定されていることが報告された。またギガビットシステムを使った初の測地実験(GIFT実験)に向けた開発スケジュールも示された。

4.4 対外協力

● VERA計画への協力

★VERA2ビーム受信機位相差校正法基礎実験計画(瀬端好一)

VERAシステムの位相校正法基礎実験計画に関して以下のステップで進められるとの報告がなされた。(1)2ビーム受信機装置個別試験(工場試験)、(2) 第1次暗室実験、(3)第2次暗室実験、(4)水沢フィールド総合試験。特に、第2次暗室実験、水沢フィールド総合試験ではVERAシステムの心臓部である「広帯域雑音による相互相関位相校正によるホーンオンディッシュ法」の確認の意味で重要であることが報告された。

Q:水沢フィールド実験で使う回転台ではAZ、ELエンコーダの読みとり値が重要であるがそれはどうなっているか?
A:今回の実験用回転台ではエンコーダなどの装置はついていないので、手動の回転台の回転時の上下方向の変動観測を行い、「変動観測値から位相校正の可能性を擬似モデルで確認する。」というのが今回の水沢実験の主目的である。

★デジタルデータ伝送・データレコーダ部(木内 等)

VERA計画で開発を行っているデジタルデータ伝送系及びデータレコーダ系について以下のように報告がなされた。デジタルデータ伝送系は、高速サンプラ(1Gsps)から入力される信号を光並列伝送系で伝送を行う。能力的には、1コネクタあたり、14Gbpsの伝送が可能である。さらに1G/2Gレコーダの現状、タイムコード挿入法についても報告がなされた。また、リアルタイム伝送系についてもCRL装置での結果も含めて報告がなされた。VERA計画は、VSIインターフェースの初めての実証の場として重要であるとの報告もあった。

Q:低レートでの伝送と言うことで、観測形態は?また、レコーダと組み合わせた方法はないのか?
A:リアルタイム伝送系は、STM-1とISDN(INS1500)の両者のインターフェースを持っている。何れの場合も、伝送レートが観測量以下が想定され、この場合、内蔵のメモリを用いたFIFOでバースト的な観測を行う。CRLで既に開発済みの装置では、256Mbps観測、80Mbps伝送レート時24.4秒の観測時間がとれる。これは、強い星での相関検出には十分な時間であり、VERAでの運用時に威力を発揮するものと考える。リアルタイム伝送系で実験が巧く行っていることを確認できれば、テープベースでの実験を安心して行える。以上より、現在のSTM-16系のリアルタイムシステムとは異なり、フリンジ検出が主目的となる。また、レコーダと本装置を組み合わせれば、連続したデータを送ることも可能である。

● GIFT実験計画(岐阜大への3mアンテナ移設)(近藤哲朗)

通総研と岐阜大は共同で直径3mの超小型VLBI局を岐阜大に移設してVLBI実験を行うことを計画している。その計画について、アンテナ移設作業は9月にはじまり、11月には岐阜大に設置されること、来年1月にはギガビットレコーダを用いたVLBI実験を計画していることなどの報告があった。

Q:地球姿勢決定の精度は?
A:GIFT実験ではアンテナ口径が小さいので精度は出ない。この発展として、究極では1時間で10マイクロ秒のUT1測定を技術開発目標に掲げている。

●議題にあったすべての活動報告の後、高橋冨士信氏から通総研で開発しているGIS用の多次元データ用データベースPostgreSQLの紹介があった。

5.閉会のあいさつ

IVS技術開発副センター長の熊谷博関東支所長が閉会の挨拶を行った。

会議終了後、懇親会を行い、さらに意見交換を行った。

議事録作成:近藤哲朗