報道発表「世界最高速の実時間VLBI実験に成功」Q&A

GALAXY実験グループ

(全般に関して)

Q. この実験の目的、意義、特徴をわかりやすく説明してください。
A. 以下のとおりです。

Q. 時空標準基盤技術の確立により、どのようなことが可能になりますか。
A. これまでは、宇宙空間においては時間と位置を高精度に決定することが困難でし たが、時空標準基盤技術の確立により、宇宙空間の飛翔体に対して、時間および 位置情報を提供するシステムが開発可能となります。

Q. 宇宙飛翔体とは何ですか。
A. 人工衛星の事です。

Q. 世界で同様の研究はありますか。
A. アメリカの国立電波天文台では、アナログ伝送方式で実験観測を行っています。 伝送方式が異なるため直接比較できませんが、我々の実験のほうがはるかに広帯 域(200MHzに対して512MHz)であり、我々はデジタル方式のため観測システ ムの構築が極めてフレキシブルです。アメリカの実験では基線長は100km以下で あり、我々のほうが基線長が長くて高分解能観測が可能、といった先進性があり ます。イギリス、ヨーロッパの電波天文研究グループでも我々と同様な計画を検 討していますが、まだ実現していません。

Q. 共同研究における4者の役割を教えてください。
A. 以下のとおりです。

Q. NTTが本研究に参加している意義は何ですか。
A. 先端科学の研究者と共同で、ギガビットクラスの実アプリケーションを開発する こと、また、このような超高性能ネットワークを経済的に構築する技術を開発するこ とを目的としています。また、先端科学への社会的貢献の意味合いもあります。

Q. 今後の予定・計画を教えてください。
A. 今年度中に1ギガビット毎秒の実験を重ねて、本格的な観測を試みる予定です。 同時に、2ギガビット毎秒、4ギガビット毎秒の実験装置も開発中で、これは2002 年度に実験を行う予定です。これで感度がさらに2倍高くなります。

(実験内容に関して)

Q. 複数の大型アンテナによってバーチャル電波望遠鏡が構築できる仕組 みを教えてください。
A. 二つのアンテナを用いてある一つの天体からの信号を受信する時、互いの信号の 波が丁度重なるような時間差を精密に測定することによって、その天体がどちらの方 向にあるかを知ることができます。この原理を利用して実現されるのが、バーチャル 電波望遠鏡です。

Q. 極微弱天体の観測にはどのような意味がありますか。
A. 天文学にとっては、暗い天体が観測できることはそれだけ研究の対象が広がりま す。その結果未知の天体の発見や新現象の発見といった、新しい研究分野の展開 が可能となります。

Q. この望遠鏡の観測能力を具体的に説明してください。(高感度とはど のくらいか、わかりやすく)
A. ここでいう感度とは、「様々な雑音信号の中に埋もれた微弱な天体電波を検出す る能力」のことです。今回のシステムの検出感度は、3mJy(ミリ・ジャンスキー)程 度です(1Jy=10-26 W/m2/Hz)。8GHz(今回の実験観測周波数)の観測で3mJyの 検出感度は、ほぼ世界最高といっていいでしょう。わかりやすく言えば、火星の距離 に置いた100W電球が光のかわりに電波を放射するとしたら、これを検出できるく らいの感度です。典型的なVLBI観測の感度は30mJy程度ですから、およそ10倍 の感度があります。将来はデータレートをさらに向上させ、1mJy程度の検出感度を 目指します。
(更に補足)

  • 角度分解能:今回の実験観測では35mas(ミリ秒角)程度です。すばる望遠 鏡、ハッブル宇宙望遠鏡よりやや高い角度分解能です。これはVLBI観測 としては低いほうです。
  • 輝度温度検出感度:4万K(ケルビン)程度です。典型的なVLBI観測で は輝度温度検出感度は1億K程度であり、温度の低い天体は観測できません でした。今回の実験で、圧倒的に低い温度の天体まで観測できる能力があり ます。

    Q. 本実験で観測した天体は何ですか。
    A. 3C273B,、3C279、NRAO530、Sgr A*(サジタリウス・エー・スター)の4天体 です。3C273B、3C279、NRAO530は、クエーサー(旧名:準星)と呼ばれる天 体で、極遠方(数十億光年)の銀河の中心部が電波で明るく光って見える天体で す。その正体は巨大ブラックホールで、ガスを吸い込みながら(赤道面から)、同 時にガスを噴出している(極方向へ)と考えられています。この噴出するガスが 強い電波を放射します。これら3天体は、強い電波を放射するため、観測システ ムの試験用観測などで頻繁に観測されます。SgrA*は、我々の銀河系の中心に位 置する、特異な天体です。正体はよくわかっていませんが、やはり巨大なブラッ クホールだと考えられています。

    Q. 電波望遠鏡と光学望遠鏡の違いについて教えてください。
    A. 光学望遠鏡は、鏡などを用いて、天体が放射する可視光線(肉眼で見える光)を 集光することによって天体の物理現象を観測する装置です。電波望遠鏡は鏡の部 分をおわん型のパラボラ面に置き換え、電波を集光する構造にしたものです。し たがって、観測する電磁波が光または電波であることを除くと、電波望遠鏡も光 学望遠鏡も同じ目的の装置です。

    Q. アンテナとはどういうものですか。(アンテナと電波望遠鏡の違い は?)
    A. 本研究におけるアンテナは、衛星放送受信アンテナと同種のパラボラアンテナと 呼ばれるものですが、直径が数十メートルもあることが大きな違いです。このよ うなアンテナを電波天体観測に使う場合に、これが電波望遠鏡であるといえます。 但し、電波天文観測専用のアンテナは、天体観測に適した設計がなされるのが普 通です。臼田64mアンテナは、本来は深宇宙(=地球周回軌道でない)探査機と の通信用アンテナです。

    Q. 実験はインターネットを使用しているのですか。
    A. インターネットではなくNTT研究所が構築した「超高速実験ネットワーク」を用 いています。現在、IP(インターネットプロトコル)を用いたデータ伝送方式も開発 中であり、今年度中にIPによる実時間VLBI実験にも挑戦する予定です。

    Q. ネットワーク構成はどのようなものですか。
    A. 各研究拠点(CRL鹿島、CRL館山、CRL小金井、臼田宇宙研、野辺山天文台、 NTT武蔵野研究開発センタ)を専用の光ファイバで接続し、2.4Gbpsでの通信が 可能となっております。

    Q. 本実験のネットワークを現在話題になっている「ブロードバンド」と 比較したらどの程度の性能ですか。
    A. 一般に普及しつつあるADSLの約1000倍の帯域をもつネットワークです。


    2001年7月6日