スミナガシ イメージ

五感メディア研究室 [SEM]

プロジェクト | スミナガシ

絵の具の視覚的な色の情報を触覚で体験してみよう


流れる絵画の知覚−スミナガシ | 資料 | 概要 | スミナガシの目指すもの | 発表文献 | メンバー

流れる絵画の知覚−スミナガシ

デジタル革命は芸術の分野にも大きな変化をもたらそうとしている.最先端の技術を好み用いるアーティストたちにとっては,現代においてコンピュータを彼らの道具として選択することは自然な傾向であるとも言える.しかし現在のコンピュータ技術による表現の形は,視覚と聴覚に訴えかけるものだけであることが多く,その結果として,創造に必要とされる作家の身体性という重要な要素を作品に取り込むことが難しかった.
「スミナガシ」とは,逐次変化する絵画の流れをデジタルアーティストが身体的に知覚しつつ創造し,鑑賞者が実際に体感できる新しいデジタルツールである.既存のデジタルツールでは表現することが困難であった触覚を,物理的な情報を提示可能なシステム,「Proactive Desk」を用いて表現することにより,新しいデジタルアートのスタイルを模索する.

資料

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概要

日本の伝統的な動きを持つ絵画である墨流しを題材としたこの作品は,デジタル絵画との視覚だけではなく触覚をも通じた対話環境を提供する.通常の描画用ソフトウェアがマウスやタブレットを使いディスプレイを見ながら絵を描くのに対し,「スミナガシ」ではコンピュータにて生成される絵を頭上のプロジェクタより机の上に投影し,利用者は筆型のデバイスを手に持ち,筆を使うかのように直接机上をなぞる.机上は一種のデジタルなキャンバスと定義されており,筆が動いた軌跡には色が置かれたとみなされ,それに応じてコンピュータグラフィックスも変化する.また通常の描画用ソフトウェアと異なり,キャンバスには色の層(カラーレイヤ)に加えて仮想的な流れを持つ層(ストリーミングレイヤ)が定義されており,描いたものが随時変化し続ける動きのある絵画となっている.ストリーミングレイヤの各場所における流れは利用者の行動により変化し,流れはカラーレイヤの色に反映される.利用者が新しい色をキャンバスに置いた時,付近のストリーミングレイヤの仮想的な流れによってその色は流される.そして,元のキャンバスの色と混ぜ合わさり,刻一刻と変化しつつ新しい絵が生み出される.
このような視覚的なデジタル絵画の体験に加え,さらに「スミナガシ」では触覚的な体験を利用者に与える.ここでは,「Proactive Desk」と名づけた我々の提案する新しい力覚提示システムをデジタルキャンバスとして用いている.本システムでは,コンピュータにより計算される描画動作の結果としての力が,利用者が持つ筆型のデバイスに物理的な平面方向に移動させられる力として伝わる.これにより,例えばストリーミングレイヤにより定義されている仮想的な流れを,描画時に利用者へ流れる力として伝えることが可能となる.さらに,キャンバスの上に置かれる色や筆の大きさには仮想的な重さの属性が与えられている.例えば, 利用者が新しい色をキャンバスに置いた際,キャンバスに存在する色の境界を越える際や暗い色を通り抜けるたびに触感としてその変化を感じられるようにする.すなわち,利用者はデジタルな筆や仮想的なキャンバスの触感を通じて,絵画の視覚的な色の粘性を身体的に体験できる.これにより,本研究では絵画における触感の存在がいかに創造的な作業にとって重要であったか,絵を描くものに対して再認識を促すことを目指すものである.

スミナガシの目指すもの

芸術における身体の重要性は,芸術に関わるすべての人,特に作家は強く認識するところであった.自らが関わる素材と道具とを体で会話し深く感じるところから人を魅了する芸術は誕生する.いわゆるデジタルアーティストはそういった体感を,現実世界に存在しない道具を用いて,あたかも実在し,触っているかのように自らの想像力により無理やり補完することで得てきた.すなわちこれはごく限られた生命体としてのリソースのみを用い,全てのリソースを用いてきた従来の芸術分野と同等の仕事をしなければならない状態に置かれていたと言える.これがデジタルアートやメディアアートに他の芸術分野と比較して,多角的な創造性に限界があるように感じられ,まるで人間の存在が必要無いように感じられる原因のひとつでもある.しかしながらこれをもってこの分野に将来性が無いと言う事は早計であり,単にそのための道具が未熟なだけである.
我々は,芸術作業における身体性,視覚と脳の生理的な関係をもっと研究し,合理的な知覚の拡張を進めるべきである.この「スミナガシ」のアプリケーションはデジタルアートの世界に身体性を取り込むためのひとつの試みであり,視覚と触覚の調和により生まれる新しい芸術の可能性を例示するものである.画家が絵の具の粘性や,キャンバスと絵の具の接着具合を微妙な触覚によって正確に把握し,必要な効果を構築していくのと同じ次元でのデジタルならではの身体性の拡張こそが本研究の最終的な目的である.

発表文献

  1. Sumi-Nagashi
    Shunsuke YOSHIDA, Mitsuhiro KAKITA, Haruo NOMA, Nobuji TETSUTANI, Jun KURUMISAWA
    ACM SIGGRAPH 2003 Emerging Technologies, 2003.7.27 [PDF]
  2. Sumi-Nagashi: Adding Corporeality and Tactile Sensation to Digital Painting
    Shunsuke YOSHIDA, Haruo NOMA, Nobuji TETSUTANI, Jun KURUMISAWA
    IEEE Computer Graphics and Applications, Vol.24, No.1, Emerging Technologies CD-ROM, 2004.1-2
  3. Sumi-Nagashi: Creation of New Style Media Art with Haptic Digital Colors
    Shunsuke YOSHIDA, Jun KURUMISAWA, Haruo NOMA, Nobuji TETSUTANI, Kenichi HOSAKA
    ACM Multimedia 2004, pp.636-643, 2004.10. [PDF]
  4. 力覚ディスプレイを用いた絵画の流れの知覚
    A Perception of Streams in the Picturesque Installation by using Proactive Desk

    吉田俊介,野間春生,楜沢順,鉄谷信二
    平成15年電気学会電子・情報・システム部門大会 TC9-5, pp.237-240, 2003.8
  5. Proactive Deskの実装と応用−流れる絵画「Sumi-Nagashi」の体験−
    Implementation and Application of the Proactive Desk - An Experience of a Streaming Picture of Sumi-Nagashi -

    吉田俊介,柿田充弘,野間春生,楜沢順,鉄谷信二
    日本バーチャルリアリティ学会第8回大会論文集, pp.3-6, 2003.9

メンバー

  • 吉田俊介
  • 楜沢順
  • 野間春生
  • 鉄谷信二
  • 保坂憲一