第93回KARCコロキウム開催報告
垂直な壁を平気で登るヤモリの指にはどのような仕掛けがあるのでしょうか? 海岸の岩で見つかるフジツボはどのようにして、岩に接着しているのでしょうか? Messersmith博士は、このような生き物が持っている優れた能力である接着メカニズムについて、その研究成果を紹介してくださいました。 特に、海産の貝であるムール貝(ムラサキイガイ)が岩に貼りつく際に使っている接着分子について、その分子組成や接着の分子機構を紹介されました。 海水という、水分と塩類が多数存在する環境で強力な接着効果を作り出すことは、技術的にも大きな挑戦課題として存在します。 しかし、ムラサキイガイは容易にこれをやってのけるのです。 接着の源になっている化学物質はDOPAというアミノ酸誘導体です。 Messesmith博士は、このDOPAによる結合の物理化学的特性や力学特性の評価を詳細に進め、さらにこのDOPAを既存の高分子(PEG)に結合させた人工化合物を合成、これを外科手術における組織の縫合に代わる技術として応用されました。 博士は、さらにヤモリの持つ吸着機構とDOPAとを組み合わせることで、接着物質の結合力を増強する技術開発を進めています。 生命の持つ優れた能力を解明しその機構を人工的に応用するバイオミメティクスの研究の哲学は、バイオICT研究にも通じるものがあり、本講演は聴講者の興味を大いに惹きつけるものでした。基礎科学的側面と応用技術的側面の両面にわたって活発な議論が行われ、有効な研究交流ができました。
参加人数24名(内部24名、外部0名)