Peper Ferdinand ナノテクノロジー研究の進展によって、1分子ほどの大きさのコンピュータ素子が生み出される可能性が高まってきています。ナノテクノロジーの素子作製法として、多くの研究者が現在注目しているのは、部品が生物のように自己組織化する性質を利用して作成する方法です。 この方法で作製されるコンピュータは、現在利用されている集積回賂とは異なってくると考えられます。その結果、従来のコンピュータ・デザインをそのまま使うことは得策ではなく、新しい方式を持ち込んだ方が優れた特性が得られると考えられています。私たちは、ナノテクノロジーが実現する回路の性能を最大限に引き出せる新しいコンピュータ・デザインの研究を行っています。 私たちが開発したデザインは、セルオートマンと呼ばれる離散力学系に基づくものであり、「セル」と呼ばれる単純な素子の配列で構成されています。個々のセルは4ビットの情報量を持つ正方形構造で、簡単な遷移規則で表現される相互作用によって他のセルと相互作用し、自身の状態を変化させることができます。セルの初期配列を適切に設定し、セルの状態変化によって所望の論理演算を実行することができます。 このアーキテクチャが既存の提案に対して優位な点は、全ての信号をクロックによって同期化する必要がない点です。現在のコンピュータは、クロックで全素子を連動させていますが、動作速度の増大によって一定のクロック・サイクルの間に全ての動作を制御することが困難となり、より多くのエネルギーも必要となります。非同期セルオートマンを使った計算方法は、非同期回賂のシミュレーションに基づいており、セルおよびセル間の相互作用をより単純にすることが出来ます。さらに、本提案ではセルは計算時にのみ活発にスイッチングを行うだけでよいため、所要電力量および発熱量が少なくなります。加えて、現在のコンピュータの10億倍もの速度で高並列アプリケーションを処理する事が可能となり、このアーキテクチャは最終的には人のコミュニケーションおよび知的能力を補う人工知能アプリケーションを実行する高性能、低電力のウェアラブル・コンピュータなど、とてつもない計算能力を必要とする応用にも十分な性能を発揮すると考えられます。 今後、大きな課題となるのはセルの構造を単純に保ちつつ、いかにしてノイズに頑強なコンピュータを構築するかということです。現在は、セル内の誤り訂正技術(フォールト・トレランス)は開発途上にありますが、将来的には、ノイズが強い(または欠陥セルの数が多過ぎる)場合には、コンピュータ自身が回路を再構成し、欠陥の周囲に回路を再配置する等の拡張も考えています。私たちのグループはセルの製造をより容易にするため、セルの単純化に取り組むと同時に、従来技術を使った本アーキテクチャを試験するための試作コンピュータの製作も目指しており、最終的には、縦横各20ナノメートルのセルを使用して計算を行う再構成可能なフォールト・トレラント型コンピュータの製作を目標としています。 |