第17回IVS技術開発センター会議 議事録(2000.10.16) 日時:平成12年9月26日(火) 午後1時30分〜午後5時 場所:通信総合研究所鹿島宇宙通信センター 小会議室    (TV会議中継:通信総合研究所本所 4号館3F TV会議室) 出席者: 外部専門委員  川口則幸 国立天文台       日置幸介 国立天文台       福崎順洋 建設省国土地理院測地部測地第二課  岩田隆浩 宇宙開発事業団SELENEプロジェクトチーム  岩村相哲(代理) NTT情報流通プラットフォーム研究所  仙石 新 海上保安庁水路部航法測地課 (欠席)  小林秀行 国立天文台       渋谷和雄 国立極地研究所南極圏モニタリング研究センター 通信総合研究所関係者  森川容雄、熊谷博、高橋富士信、今江理人、栗原則幸、吉野泰造、  近藤哲朗、細川瑞彦、雨谷純、木内等、花土ゆう子、金子明弘、  市川隆一、中島潤一、川合栄治、関戸衛、鈴山智也、大久保寛、  小山泰弘 1.開会の挨拶 (IVS技術開発センター長 森川) 第17回IVS技術開発センター会議の開催にあたって、森川技術開発センター 長から以下のような挨拶があった。 『本日は、お忙しい中お集まりいただき、ありがとうございます。 通信総合研究所は来年度より独立行政法人となることになっており、現在その準 備が行われているところです。独立行政法人化に際しては、単に研究所の名称を 変えるだけではなく、組織の構成や運営の仕方も変革しようとしています。そこ で、これまで研究所で行われてきた研究を、今後どのように発展させていくかが 現在活発に議論されているところです。独立行政法人では、5ヶ年の中期計画を 設定して研究を行っていくことになっておりますが、VLBIは中期計画の中で は宇宙における時空標準基盤技術の研究という研究課題の中で実施するように位 置付けています。この研究課題では、通信総合研究所がこれまで培ってきた時間・ 周波数標準の技術と空間計測の技術を、宇宙空間にまで広げようとしています。 今日の会議におきましても、そのような側面から今後の5ヵ年を見据えた議論を 行っていただいて、是非今後の計画の参考にさせていただきたいと思います。』 2.IVS評議員会報告 (近藤) 9月17日にフランスのパリで第4回の評議員会が開催され、日本からは近藤と 松坂氏(国土地理院)の2名が評議員として参加した。会議では、まずはじめに IVSの組織が8月に開催されたIAU総会で正式に承認されたことが紹介され た。また、VLBI標準インタフェース(VSI)のハードウェア仕様がワーキ ンググループの中で合意されたという報告があり、この仕様がIVS評議員会で 正式に承認された。VSIの仕様制定には、Alan Whitney 氏が調整役として活 躍したが、『VSIを決めるまでの会議、打ち合わせの過程で学ぶものが大き かった。このような国際的な仕様制定には、E-mailだけのやり取りでは不十分で あり、直接会っての打ち合わせや国際電話会議が大きな役割を果たした。』と感 想が述べられた。 評議員会と、そのあとに行われたシンポジウムでは、通信総研のIP−VLBI についての報告を行い、非常に大きな注目を集めた。日本の技術力の高さを実感 したと同時に、VLBI技術開発に関して日本に寄せられている期待の大きさを 感じた。また、KSPの館山局の地殻変動について報告したところ、評議員会の 参加者から非常に興味を示された。KSPの今後の観測継続が不確定であるとい う話に対しては、IVS評議員会議長の Wolfgang Schlueter 氏から、世界のV LBIコミュニティーを代表して、KSPの観測をぜひ継続するように通信総研 の所長あてに書簡を送りたいとの申し出があり、その後の調整の結果、書簡を送 っていただくことになった。また、通信総研が年2回発行しているIVS技術開 発センターニュース(英文)が、最新の情報を得るのに非常に役立っていると評議 員会で評価され、IVSとしてもこのような活動を見習って、ニュースレターを 定期的に発行することになった。 近藤のIVS評議員の任期は2001年2月までとなっている。我々としては、 次期の評議員として小山氏を推薦したいと考えているので、協力をお願いしたい。 また、第二回IVS総会はCRLと国土地理院の主催で2002年2月に日本で 開催することになっていたが、今回の評議員会で日程や会場の案について日本側 から提案し、承認された。現在のところ、IVS総会はつくば国際会議場で開催 し、その後独立したワークショップをVLBI懇談会シンポジウムといっしょに して鹿島宇宙通信センター近辺で開催することを検討している。 Q:川口 VSIに関して、IVSは今後どのように普及させていこうとしてい      るのか? A:近藤 具体的には評議員会では話し合われなかったが、関係機関の長宛てに      手紙を出すなど検討されているようである。 C:川口 実際に装置を作っている機関で、互換性を実現していくのが、もっと      も確実でり、その意味で通信総研の装置と国立天文台のVERA用の      システムの間での互換性の実証が非常に重要であろう。 C:近藤 Alan Whitney 氏も、今後のヘイスタック観測所の開発する装置にVS      Iを適用すると報告していた。ハードウェアの標準化の次の課題とな      るソフトウェアの標準化に関しても、CRLがリードしてVSI全体      を世界に宣伝していきたい。 3.技術開発センター活動報告 KSPによる最近の館山局と三浦局の位置変動:観測結果(小山) 鹿嶋−館山基線と鹿嶋−三浦基線の基線長変化が、VLBIとGPSそれぞれの データを使って紹介した。この地殻変動は、三宅島と神津島近辺で6月下旬から 発生しはじめた群発地震の原因と考えられている地下の岩脈の貫入による影響と してよく説明できる。これまでの観測データを見ると、基線長変化率は6月から 7月にかけて大きく変化したあと、8月まで一定値をとりその後やや小さくなっ て現在に至っているようにみられる。そこで、鹿嶋−館山基線の基線長データを 使って、変化率が2度変化したとする折線近似モデルで、残差の極小点から折れ 曲がりがいつ発生したかを見積もった。その結果、最初の折れ曲がりは三宅島で 火山性地震が始まった6月26日あたりに極小点をもつことと、8月18日あた りに2回目の折れ曲がりがあったと求められた。 Q:川口 岩脈貫入は深さは何kmで起きているのか? A:小山 モデルにより若干異なるが、このモデルでは、地下 3km から 15km の      幅 12km という岩脈を仮定して変位分布を図示している。 Q:川口 岩脈の位置はフィリピン海プレートと北米プレートの境界よりも上か? A:市川 プレート境界はもっと深いところにある。 C:日置 伊豆半島の南東部にフィリピン海プレートの新たな沈み込みが起きて      いる可能性がある。ダイクの走行はこの沈み込みの方向と一致してお      り、周辺の応力場から期待される最大圧縮軸に平行している。 Q:仙石 今回の変位の大きさはトータルで何センチか? A:市川 積算で5cmくらいである。 C:川口 この後どのように変動の様子が変化するか、またGPSとVLBIで      違いがあるか、など興味深い結果である。引き続き館山局は、観測を      続けていただきたいと思っている。 KSPによる最近の館山局と三浦局の位置変動:今回の地殻変動現象への対応(吉野) KSP館山局の地殻変動が観測された後の対応について、これまでの経過と今後 の予定について報告した。VLBIによる観測結果から地殻変動を明確に認識し たのは7月中旬以降で、その後すぐに観測頻度を通常の2日に1回から毎日へと 切り替えて現在に至っている。また、地殻変動現象の検出について、関係する国 内外の機関にメールなどで連絡し、大きな反響を得ている。国際測地学協会(I AG)の副議長の Gerhard Beutler 氏からも、観測の継続を推奨する手紙を書 くと連絡があった。従来、三浦局と館山局は平成12年をもって終了する予定で 作業を進めてきたが、館山局については1年間の観測延長の可能性を検討してい る。 Q:川口 今回のKSPの館山局地殻変動の検出は、リアルタイムVLBIによ      る速報性、精度向上に通信総合研究所が技術開発センターとして行っ      てきた技術開発の成果である。継続だけでなく、国土地理院のアンテ      ナのリアルタイムVLBI観測網への接続や、観測終了が予定されて      いる三浦局の観測についても延長させるなど、発展の方向を探ること      はできないのか? A:近藤 技術開発の成果であることは十分宣伝していきたい。 C:川口 日本のVLBI観測網に広げていけるようがんばっていただきたい。      VLBIの速報性の点からも画期的なことである。 C:近藤 速報性もさることながら、実時間であったからこそ連日観測が可能と      なったという点も大きい。 Q:仙石 どのくらいの時間で結果が出るのか? A:吉野 24時間の観測をひとつのセッションとして、観測の後約30分の解      析を行って結果を得ている。 C:川口 カルマンフィルターの手法によって、リアルタイムに推定結果を改良      しながら解を得ることもできるのではないか。そのような技術開発も      大切と思う。 GPS信号を使った高精度電離層遅延補正(関戸) KSPの鹿嶋ー小金井のVLBI局の測地VLBI観測から得られる電離層補正 量と、GPS受信機を使った電離層計測、及びベルン大学の電離層マップを比較 し、GPSを使った電離層観測により2周波のVLBI観測とほぼ同程度の電離 層遅延補正ができることを示した。 C:日置 GIMとTECのエラーに相関がなければ、両方のデータを使うこと      により精度を更に改善できるだろう。 Q:高橋 電離層分布の3次元モデルのデータはないのか?  A:関戸 今のところ、IGSの解析センターでは2次元分布のデータしか提供      されていない。 C:近藤 磁気擾乱指数との相関を調べてみるとよいのではないか。また、長基      線のデータだとどうなるか実験されたい。 Q:川口 GPSとVLBIの電離層観測量が高い相関があるのはわかったが、      両者のオフセット差があるのは何か? A:関戸 VLBIのSバンドとX−バンドの受信機及びIF系の差が入ってい      るのではないかと思っている。 ギガビットVLBIシステムによる測地(小山) ギガビットVLBIシステムの利点、現状の問題点、500MHzのCW信号の 位相を使ってサンプリングジッタを補正した結果などについて報告した。ソフト ウェア、システムの改善により徐々に測地システムとして測位精度が向上してお り、今後も引き続いて精度向上を図る予定である。 今後のVLBI機器整備(中島) VSIの仕様を満たす装置を実現するため、既存のギガビットVLBIシステム のVSI化とVSIに対応する相関処理システムの開発計画について報告を行っ た。   Q:川口 GBR−1080はどのようなデータレコーダか? A:中島 GBR−1000はこれまでアナログとデジタルが合わさったHDT      Vのレコーダだったが、アナログ部分を取り去り、純粋なデジタルレ      コーダとして開発されたのがGBR−1080である。コンピュータ      の記録媒体化としても使えるように設計されている。 Q:川口 DFC2100に代わる新しいサンプラをデジタルフィルターを使っ      て実現してはどうか? A:中島 IP−VLBIを念頭においている面もあるので現在考えていない。 S2−K4ダビング装置のVSI化とVSIサンプラの開発(関戸) VSIインタフェースを切り口として、S2のVSIデータ出力装置、K4のV SIデータ入力装置、およびVSI出力を持つサンプラを製作することを計画し ている。これらの組み合わせにより、S2−K4のデータコピーおよびこれまで のDFC2100に代わるK4データ収集系を実現することができる。 C:川口 S2−K4のコピーは、PCからの制御がなくてもケーブルの接続だ      けで行えるようにしていただきたい。 A:関戸 簡単にコピーできるようにしたいと考えている。 IP−VLBI開発状況(近藤) 測地VLBIでの多チャンネルVLBI観測を目的としたIPによる、リアルタ イムVLBI観測処理システムについて報告した。これまでに、4MHzでサン プリングしたデータをオフラインで処理することで、鹿島34m局−26m局基 線でフリンジの検出に成功した。現在、IPでデータ伝送するところのソフトウ ェアとリアルタイムに相関処理を行うソフトウェアの開発を進めている。今後、 10月には40kHzでサンプリングした信号をIP化して伝送する試験を行い、 その後実時間PC相関処理テストを行う計画である。 Q:高橋 PCIバスのドライバーは4MHz程度のクロックだと製作がかなり      難しいのか? A:近藤 4MHzまではそれほど問題なく開発できているようである。 C:川口 インターネットVLBIが可能になれば、SETIの解析のように何      万台ものPCを使って並列処理を行うことができるのではないか? VLBI/IP伝送システムについて(岩村) IPによる超高速データ伝送を目標として、数100MHz〜数Gbpsクラス を目指して開発を行っている。本装置では、ID1のインタフェースを入出力と して、複数PCによる並列IP伝送を行う。それぞれのPCでは、IEEE13 94のストリームに変換してからネットワークを介して伝送し、受信先で一つの ストリームに戻す。一つのパケットの大きさは可変だが、1Mbyte程度を考 えている。ID1のデータレートとしては、16・32・64・128・256 Mbpsの各データレートに対応する計画である。プロトコルはUDP/IPを 使用し、エラー制御はフォワードエラーコレクション等を検討中である。当面、 スループット64Mbpsを実現したいと考えている。現在データの並列・直列 変換装置の基盤製作中で、10月末から試験などを行いたい。 Q:高橋 IEEE1394がボトルネックにならないか? A:岩村 PCで他のジョブを走らせないという条件であれば100Mbpsは      十分処理できる。 Q:川口 エラー訂正はどのように考えているか? C:木内 リードソロモン符号だとエラーコレクションに150%程度のオーバ      ーヘッドがあるが、PCの台数を増やすことで対応できるのではない      か。 Q:高橋 データをチャンネルごとに分けると、分散処理もできるのではないか? A:岩村 チャンネルごとに分けるためには、データ内部を見ないといけないな      どの問題があり、データ伝送装置としての汎用性がなくなるので行わ      ない。 南鳥島GPS観測システムの整備 (市川) 南鳥島でGPS観測を行う利点として、地上気象観測が恒常的に行われている、 TRMMなどの衛星気象観測データを得やすいなどの点がある。南鳥島で、継続 してGPS観測データを取得し、遠隔地からデータを収集するため、衛星電話と 太陽電池を利用した遠隔GPSデータ取得システムを整備中である。 4.専門委員からの報告、提言など 日置幸介(国立天文台)   東北地方にある国土地理院の連続GPS観測網の基線長観測データには、年周変 化成分が顕著に表れている基線が多い。基線長変動は、東北日本の脊梁山脈と垂 直な方向に大きく、平行な方向には変動が少ない。また脊梁山脈を境に年周変化 の位相が逆であることもわかった。このような現象は、脊梁山脈に何らかのトル クが働いていることを示唆するが、季節風のトルクだけでは説明できない量であ る。確かな結論はまだ出ていないが、興味深い現象である。VLBIのデータで も、鹿島−カウアイ基線の基線長には年周変動がありそうだが、フェアバンクス −カウアイ基線には大きな変化が見えない。 Q:近藤 KSPの鹿嶋−小金井基線の季節変動を鹿嶋局周辺の水田の効果とし      て捉えようとしているが、関東地方でもこのような年周変化は起こっ      ているのか? A:日置 今回報告した現象は、西南日本や台湾でも確認されている。関東は平      野だから小さいのかもしれないが、よくわからない。 Q:市川 北海道でも同様な年周変化は観測されているのか? A:日置 観測されている。 C:市川 10年くらい前のJGRの論文で、風のトルクが地震の原因になって      いるという提案をしていた論文があった。 A:日置 大変興味深いので紹介してほしい。 福崎順洋(国土地理院)   国土地理院では、3年前からKSPの相関処理システムを使って処理を行ってい る。ところが、データ記録レートを64Mbpsから128Mbpsに変更した ところ、相関処理時のレコーダ調走同期に失敗することが多くなり、相関処理に 非常に時間がかかるようになった。また、原因を調べた結果、ソフトウェアのバ グがいくつか発見されたが、根本的な解決には至っていない。この問題の原因究 明のため、情報提供などの協力を是非お願いしたい。リアルタイムVLBIシス テムにも非常に興味があり、将来導入を考えている。この点についても、引き続 き情報提供など協力お願いしたい。 C:川口 国立天文台の三鷹相関局では、調走同期の問題は皆無である。 A:福崎 国土地理院ではDFC2200を用いているが、この装置が原因で同      期失敗がおきているようである。 川口則幸(国立天文台) 8GHzサンプラ、VERA用1Gbpsレコーダ、1Gbpsで動作するデジ タルフィルタといった観測装置の開発を現在行っている。また、FX相関器での 1Gbps相関処理を現在準備している。さらに、VSOP−2の検討のため、 衛星に搭載する超高速サンプラLSIの耐放射線試験を計画している。KDD山 口第四アンテナを天文台が譲り受け、電波望遠鏡として整備する計画も進行中で ある。開口効率は、8GHz帯で63%(57−70%)、22GHzで21% (10−45%)と見積もられている。これらの計画について、今後とも協力を お願いしたい。 Q:中島 デジタルフィルタの大きさと費用はどれくらいか? A:川口 16チャンネルをフル実装すると、実時間相関器程度の大きさになる。      LSIの開発費は大きいが、チップあたりの生産コストは安い。タッ      プ数が現在のアナログフィルター程度でよければ、DFC2100く      らいの大きさになるだろう。 5.閉会の挨拶(IVS技術開発センター副センター長 熊谷) 会議の閉会にあたり、熊谷副センター長より挨拶があった。