第13回技術開発センター会議(1998年9月16日開催)の様子

第13回IERS技術開発センター会議・議事録

(最終版作成日:1998年9月22日)

場所:通信総合研究所本所 4号館2階中会議室
日時:平成10年9月16日 水曜日 午後1時〜午後5時30分

出席者:

外部専門委員
大木章一課長補佐  建設省国土地理院測地部測地第二課
島田誠一主任研究官 科学技術庁防災科学技術研究所
大久保修平教授 東京大学地震研究所
武村雅之主管研究員 鹿島建設株式会社小堀研究室

(欠席)
川口則幸助教授   国立天文台
笹尾哲夫教授 国立天文台水沢
花田英夫助手 国立天文台水沢
藤田雅之研究官   海上保安庁水路部企画課海洋研究室
里 嘉千茂助教授 東京学芸大学教育学部地学科

内部

岡本謙一、吉野泰造、高橋幸雄、木内 等、金子明弘、雨谷 純、大坪俊通、古屋正人、勝尾双葉 (以上本所)

藤田正晴、栗原則幸、小山泰弘、中島潤一、市川隆一、川合栄治、関戸 衛、鈴山智也、近藤哲朗 (以上鹿島宇宙通信センター)

(内TV会議で鹿島からの出席者:小山)

合計22名

国土地理院の専門委員が飛田さんから大木さんに交代した。 また、国立天文台水沢の専門委員の代理として出席予定であった日置さんは 台風5号の影響による新幹線の運転中止で出席できなくなった。さらに、 出席予定であった海上保安庁水路部の専門委員藤田さんは急病のため欠席となった。 なお会議欠席の国立天文台水沢の笹尾委員からは「VERA計画の最近の状況」と題した 資料が別途提出された。

議事: 

1.あいさつ

IERS技術開発センター長の岡本謙一標準計測部長が会議開催のあいさつを行 った。

2.専門委員による各機関の活動報告

参加委員に各機関の現状を報告して頂いた。

●島田専門委員(科学技術庁防災科学技術研究所)

日本におけるIERS地球固定座標系ITRF(IERS Terrestrial Reference Frame)94とITRF96の比較結果について紹介があった。ITRF96座標 系の導入により、日本周辺での決定精度および一貫性の向上が見られたこと、お よびそれに対しての考察が示された。

●武村専門委員(鹿島建設株式会社小堀研究室)

地震発生の結果としての地震の揺れを研究している立場から、前回の会議に引き 続いて、関東地震時の記録を掘り起こして、ゆれの研究を行っている話が紹介さ れた。地震の揺れの予測は波動が伝わる媒質の状態がよくわからないために非常 に難しい。この点が電波とは大きく異なる点である。関東地震時の地震計の記録 は多くは振り切れているものの、そうでないものもある。そうした記録を解析す ることにより、関東地震は2つの大きな破壊からなっていることがわかってきた 。また、関東地震では大きな余震が数多く発生していたことがわかった。今後、 こうしたデータを積み重ね揺れの予測に発展させたい。

●大久保専門委員(東京大学地震研究所)

新技術(重力、SAR)観測による伊豆半島群発地震の研究が紹介された。群発 地震は特殊な地震であるが、こうした特殊な地震の原因解明も行うことができな いようでは、一般の地震の原因究明もおぼつかないであろうとの考えの基に研究 を行っている。群発地震の解明を通して、地震の原因論にせまることを目指して いる。絶対重力、相対重力観測からは、群発地震に伴い、顕著な重力変化が見ら れること、この変化は深いところからの熱水の上昇と考えられることが示された 。さらにSAR観測に見られる水平方向の変動はGPS観測とも矛盾しないこと が紹介された。

● 大木専門委員(国土地理院)

つくばに32mアンテナが完成し国土地理院のVLBI国内観測網(5局の固定 VLBI局)が完成したことが紹介された。この観測網で行われた観測でつくば −鹿島基線が2mmの精度で決定できたこと、一番小さなアンテナである新十津川 局との間でも4mmの精度で決定できたことが紹介された。その他、年4回行って きた国内VLBI観測の結果、姶良−父島間の基線長の減少は、GPSの測定と も調和すること、鹿島26mアンテナの国際実験への参加は9月で終わり、今後 はつくば32mアンテナがCOREと呼ばれる国際実験に参加すること、来年度 からは国際実験参加の頻度を週に1回に高めたいことが紹介された。また、新た に始まる国際的VLBI組織IVSに観測局および相関局として参加することが 紹介された。さらにIGS網とVLBI網の取り付け観測を行うために、32m アンテナの先にGPSアンテナを設置してあり、約5mmの精度で取り付け観測が 行えそうな感触を得ていることも紹介された。これにより、ITRFの高精度化 に寄与することをねらっている。国土地理院では、ITRFに準拠した新しい日 本測地座標系への移行作業を進めている。測地成果2000と呼ばれ、西暦20 00年の施行を目指している。これまでの経緯度原点に替わり、鹿島VLBI観 測局のAZ-EL交点が再構築作業のスタート点となる。鹿島から取り付けられた国 内VLBI観測点を固定点として、GPS網を規正する。これを基準として、三 角点、水準点、地形図などすべての測量成果が変更される。

3.技術開発報告

3.1 首都圏広域地殻変動観測システム報告

●GEMSTONE(ワークショップ)開催案内(吉野泰造)

来年(1999年)1月に通信総合研究所で開催する「複数宇宙測地技術による 広域地殻変動観測に関する国際ワークショップ(GEMSTONE)」について の紹介とともに、その背景としてCSTG(International Coordination of Space Techniques for Geodesy and Geodynamics)における宇宙測地総合観測の 流れについての説明があった。

●VLBIシステムとしての信頼性評価(瀬端好一:代読近藤)

KSP−VLBIシステムをその信頼性の観点から評価した結果についての以下 のように報告がなされた。KSPではシステムの不具合が発生した場合に、オペ レータもしくは気がついた人が、WWWのブラウザからブレテンボードに書き込 みを行うことにより、システム不具合の履歴を残している。この書き込みにはシ ステム開発初期のものは含まれておらず、また、必ずしもすべての不具合が記録 として残されているわけではないが、システム信頼性評価の手始めとして、この 書き込みをもとに、不具合発生状況についてまとめてみた。その結果、鹿嶋局は 天災(台風、雷)による故障が多いこと、計算機の故障ではハードディスクの故 障が多いことが目立っている。時系列としての故障の発生の仕方に特徴的なパタ ーンはなさそうである。

●SLR現状報告(勝尾双葉)

KSP−SLRシステムの現状について、データリリースを開始したことが報告 された。また、各局での宇宙測地技術間の座標の結合観測(collocation)の初 期結果についてもずれが数cm以内で一致している旨の報告がなされた。さらにS LRでの望遠鏡原点位置のキャリブレーションに関して、外部の基準柱(ピラー )に取り付けたコーナーキューブからのリターンを測定して原点位置を求めてい る等の報告がなされた。

Q:ピラーの大きさと材質は何か?

A:ピラー(長柱)は観測塔周囲に高さ2.5mのものが3本(小金井局では内1本 は高く10mに)設置されている.また,観測塔内には,鉛直方向を推定するため に高さの低い水準柱が2本ある.ピラーの材質はインバールで,線膨張率が小さ い.ステンレス製の筒がピラーを覆っており,日よけの役目を果たしている.ま た基礎パイルを岩盤まで打ち込んでいる.

C:国土地理院ではピラーの温度変化が問題になっている.

● KSP観測データによる地球回転パラメタの推定(小山泰弘)

KSP4局のVLBI観測データから地球回転パラメータを推定する方法とその 結果が報告された。その結果、極運動に関してはX成分が10mas、Y成分が6 masの平均誤差で求まっている。UT1−UTCに関しては0.59msecの平均誤差 で求まっている。特にUT1−UTCに関してはIERS Bulletin Aの数日後の予 測値程度の誤差で求まっており、KSPでのリアルタイムVLBI観測データは IERSの速報値程度の精度で、UT1−UTCを与えることが可能であること が示された。

Q:極運動の2つのパラメタとUT1−UTCとは平等なパラメタか?もしそう なら、UT1−UTCのほうが予測値を改善できる可能性がある理由は説明でき るのか?

A:極運動の2つのパラメタとUT1−UTCは、地球の天球における姿勢を決 める3つの独立なパラメタなので、同じように考えてよい。どうしてUT1−U TCのほうが予測値を改善できる可能性があるのかは今後詳しく検討したい。

C:極運動を推定する場合、δx・δyを推定するよりも、北極から見て、日本 の方向とそれに直行する方向で推定すると面白い結果が得られるかもしれない。

A:日本の方向への極点の変異は、KSPネットワーク全体を平行移動させるよ うに影響するので、一番感度の悪い方向になるように思われる。日本の方向に直 行する成分のみ推定するといい結果が得られるように思うので、是非検討してみ たい。

Q:UT1−UTCの残差を見ると、系統的な変動があるように見えるが?

A:海洋潮汐による短周期変動を取り除いて比較すべきところが、まだ正しく処 理できていない。もしかするとその影響の可能性がある。

●KSP基線長変動と気象データの相関解析(近藤哲朗)

KSP基線長変動と気象データ間の相関解析の結果、興味深い結果が得られたこ とが報告された。昨年の9月末から24時間観測を実施することによりKSP観 測精度は飛躍的に向上した。その後の基線長データを眺めていると、3月以降、 データのばらつきが大きくなっている。この原因を探るために、各局で収集して いる気象データとの相関を調べた。その結果、鹿島に関連する基線長の変動だけ が、気温と良い正の相関がみられた。その解釈として、鹿嶋局だけの見かけの位 置変動と推測し、鹿島が一方が海に面しており、夏場の高温時に陸側から海側に 向かって南西の風が吹いている事実等から、高温時に陸側で水蒸気分圧が高くな っていると考えると説明が可能であるとの仮説が示された。

Q:夏場の気象の解釈で高温の時に陸側で湿度が高いというのは間違っているの ではないか。それよりも、海風、陸風という1日の中の風のパターンで考えるべ きではないか。

A:実際の気象データ(風向)を見ると、鹿島に置いては、夏場に陸風、海風と いったパターンはそんなに顕著には見られない。それよりも、高温の時は南西の 風が卓越している。これははるか南方の高温多湿な空気が関東平野を越えて流れ てくるためと考えるとつじつまがあう。しかしながら、さらに他の解釈の可能性 についても検討してみるとともに、定量的な評価も行いたい。

C:仮説を検定するための典型的な気象条件の時があるかどうか、チェックして みれば良いのではないか。特に海霧の発生等は、そうしたデータがどこかにある はずだから調べてみると良い。

3.2 R&D実験報告

● KSPシステムを用いた3C電波源サーベイ(金子明弘)

KSPシステムを用いて行っている電波源のサーベイ観測の結果が報告された。 パークスカタログから抽出した167個の電波源についてはすでに観測は終了し ており、104個の電波源について相関が検出された。うち、15個については すべての基線、SバンドXバンドともに相関が検出された。トピックスとして、 拡がった領域であるHII領域の電波源から相関が検出されており、今後、詳細に 観測したい。

● ギガビットVLBI試験観測結果報告(小山泰弘)

7月に実施したギガビットレコーダを使ったVLBI試験観測について報告がな された。観測はKSP鹿嶋局と小金井局を用いて行われた。レコーダに記録され た1秒間のデータを計算機に転送して相関処理を計算機上で行っている。データ 転送に問題があり、現在の所フリンジ検出には至っていない。

●大型アンテナ結合実験について(高橋幸雄)

高速データ回線を使って、大型アンテナ同士を結合して高感度な巨大仮想アンテ ナを構築する計画に関して、目的と、合成のシミュレーション結果およびKSP のリアルタイム回線を使っておこなう、実証実験計画について報告された。KS Pを使っての実証実験はKSPネットの1局を臼田アンテナに置き換えた接続を 行って、実際の観測を行うものである。回線のつなぎ換えは当面、NTTでの人 力に頼る必要があるが、この部分を自動化する装置を整備し、1週間に1回程度 の観測を行いたい。

Q:回線の自動切り替え装置とは遠隔操作できるものか?

A:スケジュールによる運用という意味での自動切り替え器を想定している。

C:国土地理院では国内VLBI観測網を5カ年計画でオンライン化したいと考 えている。

3.3 その他

●34mアンテナの現況報告(川合栄治)

34mアンテナの現況に関して、副反射鏡の鏡面の塗り替えを行ったこと、AZ を360゜回転したときに生じていたエンコーダの読みのずれについては原因が 判明し解決したこと、全体的に老朽化が進んでいるためにそのための対策を行っ ていること等が報告された。

Q:副反射鏡の塗り替えは何年目?

A:10年目だが初めてである。

C:アンテナの総合性能を評価するにはSEFD(System Equivalent Flux Density)をはかるのが実質的には一番良い。

●LEO衛星端末の電波望遠鏡への影響調査(中島潤一)

LEO(Low Earth Orbit)衛星端末の電波望遠鏡への影響を評価するために、 34mアンテナ周辺(数km〜10km)で実際に電波を出し、アンテナで受信した結 果について報告がなされた。その結果、2km以内では受信機が飽和してしまうこ と、15km程度まで離れるとVLBI観測には試用できるレベルに干渉信号は弱く なるが、シングルディッシュ観測を行うには、まだ問題が残るレベルであること がわかった。こうした結果を踏まえてLEO端末と電波望遠鏡の周波数共用方法 が検討されている。

●韓国国立天文台(TRAO)を訪問して(関戸 衛)

日韓22GHzリアルタイムVLBIプロジェクトに関して韓国の現状を調査す るために、韓国国立天文台(TRAO)を訪問した。その結果が以下のように報 告された。リアルタイム回線に関しては、韓国テレコムと天文台の間に光ファイ バーがすでに敷設されていた。ただ、韓国の経済状況悪化に伴い、韓国側のVL BIプロジェクトは凍結されている。韓国側としてはVLBI技術を是非とも導 入したい意向であるが、今後の進め方につては、現状についてテクニカルレポー トを共同で作成し、見通しをはっきりさせた上で、決断する。

Q:22GHzのVLBIネットワークを今後、東アジア(韓国、中国)へ展開 して行くつもりか?

A:上海、ウルムチの観測局でも韓国でも共通の観測周波数帯として22GHzを選 んでいる。今後、関係諸国と実験を行っていきたい

5.閉会のあいさつ

IERS技術開発副センター長の藤田正晴関東支所長より閉会の挨拶を行った。
会議終了後、懇親会を行い、さらに意見交換を行った。

議事録作成:近藤哲朗