場所:通信総合研究所鹿島宇宙通信センター小会議室
日時:平成11年3月1日 月曜日 午後1時〜午後5時
出席者:
外部専門委員
笹尾哲夫教授 | 国立天文台 |
川口則幸教授 | 国立天文台 |
花田英夫助手 | 国立天文台 |
大木章一課長補佐 | 建設省国土地理院測地部測地第二課 |
島田誠一主任研究官 | 科学技術庁防災科学技術研究所 |
里 嘉千茂助教授 | 東京学芸大学教育学部地学科 |
武村雅之主管研究員 | 鹿島建設株式会社小堀研究室 |
(欠席)
藤田雅之研究官 | 海上保安庁水路部企画課海洋研究室 |
大久保修平教授 | 東京大学地震研究所 |
(オブザーバー出席)
松坂 茂 | 建設省国土地理院 |
内部
岡本謙一、吉野泰造、雨谷 純、勝尾双葉、瀬端好一、古屋正人、今江理人、高橋幸雄、木内
等、金子明弘
(以上本所)
栗原則幸、小山泰弘、中島潤一、市川隆一、川合栄治、関戸 衛、近藤哲朗 (以上鹿島宇宙通信センター)
(内TV会議で本所からの出席者:今江、勝尾、木内、金子)
合計25名
議事:
1.あいさつ
IVS技術開発センター長の岡本謙一標準計測部長が会議開催のあいさつを行った。
2.国際VLBI事業(IVS)報告
2.1 設立準備委員会報告(小山泰弘)
IVS設立までの経緯および設立準備委員会で話し合われたことなどが紹介された。
2.2 第1回評議委員会報告およびCRL−IVS技術開発センターの方針(近藤哲朗)
3月1日付けでIVSが発足したこと、IVSの発足に伴い、通総研のIERS VLBI技術開発セン ターがIVS技術開発センターと名称を変更したことの説明の後、IVSについて、その目的、概 要の説明がなされた。さらに、通総研の技術開発センターの今後の方針として、広報活動の 推進、VLBI標準インターフェースへの貢献、実時間VLBI技術の標準化と展開が示された。
これに関連して、栗原応用研室長からより通総研でのVLBIの現状と供に、VLBIアンテナを国内 のギガビットネットワークを介して接続する具体的技術開発構想が紹介された。
2.専門委員による各機関の活動報告
参加委員に各機関の現状を報告して頂いた。
●島田専門委員(科学技術庁防災科学技術研究所)
GPS気象学の立場から、「伊豆半島周辺においてGPS観測で得られた寒冷前線通過時の水蒸 気不均一分布と観測点座標値推定解の系統誤差」と題する研究が紹介された。1997年3月7 日は、伊東沖群発地震の最中であるが、国土地理院(1997)を見ると、前日と当日との間の変位 と当日と翌日との変位が群発地震発生域近傍に限らず広い範囲で変位ベクトルの大きさがほぼ 等しく、方向が反対になっている。これは、3月7日のデータに大きな系統誤差が含まれているこ とを示している。この日は寒冷前線が伊豆半島を通過し、通過前のGPS観測データから、観測 点の大気水平勾配を求めると、伊豆半島北東部の東海岸沿いの観測点は西方向が乾燥してお り、東海岸沖合7kmにある初島観測点では東方向が乾燥している。これは、東海岸のすぐ西を 南北に走る山脈と、寒冷前線による強い西風のために、寒冷前線を伴う冷たく乾いた空気が山 脈上に押し上げられて、それが降りてくるのが東海岸から5-10km沖合になるため、東海岸のす ぐ西の海上に湿った気団が取り残されているためと考えられる。詳細は、6月に開催される地球 惑星科学関連学会合同大会で報告が予定されている。
● 花田専門委員(国立天文台)
資料に沿ってRISE(Research In Selenology) 計画の現状とSELENE-2に向けた将来計画が紹 介された。RISEに関しては衛星と月面電波源開発状況およびレーザ高度計(LALT)の開発計 画が紹介された。レーザ高度計は月の重心からの絶対高度を、分解能5m、測定間隔約800m、 軌道間隔1km〜10kmで、ほぼ全月面にわたっての測定を目指している。さらにSELENE−2 に向けた月面位置天文用望遠鏡(ILOM)計画の紹介も行われた。ILOMは口径約20〜30cm の望遠鏡を月面極域に設置し、月面から星を観測することにより、月の回転変動を高精度に測 定しようという計画である。
● 川口専門委員(国立天文台)
国立天文台におけるVLBI活動について以下のように報告がなされた。スペースVLBIに関して、 衛星側でトラブルがたまに発生するが、現在までの所、何とか復旧できている。気象衛星の信号 を受信することにより衛星搭載アンテナのパターン測定に成功したこと、さらに相関処理技術に より、非常に弱いサイドローブレベルまで検出できたこと、また臼田局の位相電送データから大 気の揺らぎに関しての新たな発見が得られつつあることが紹介された。VERAプロジェクトに関 しては補正予算により、観測装置の実開発がスタートしたことが紹介された。さらに、IVS技術開 発センター活動への関わりとしてレコーダの種類を選ばない標準入出力インターフェースの実現 に向けて協力を行いたい旨の表明があった。その他、KSP観測網とOLIVE観測網を実時間で 結合することに成功し、天文学的に興味深い観測成果が得られつつあることや、JNET網の現 状紹介や将来に対しての課題が資料に沿って紹介された。
●里専門委員(東京学芸大学)
測地学会誌に掲載された論文(里、GPS基線長変化率から推定したプレート運動と観測局の変 動、J.Geod.Soc.Japan,Vol44,pp.143-167, 1998)について簡単に紹介がなされた。この論文は34 観測局の558基線のグローバルなGPS基線長変化率データ(約2年間)を用いて、プレート運 動パラメータを求めた結果である。解析にはプレート内部変形を考慮しないモデルと考慮するモ デルの2種類を考え、また、太平洋プレートを固定している。これらの解析結果とNUVEL-1Aプ レート運動モデルを比較した結果、北米、ユーラシア、アフリカのプレート運動はモデルとは有意 に異なっていた。また、プレート境界から十分離れている場所でも大きなプレート運動を示唆する 結果も得られた。
●武村専門委員(鹿島建設株式会社小堀研究室)
地震断層と地震被害の関連に関する最新の研究成果が紹介された(武村、日本列島における 地殻内地震のスケーリング則、地震、51、pp.211-228、1998)。地殻内で発生する地震のマグニ チュードと被害状況の関係を詳細に調べた結果、マグニチュード6.5以下とマグニチュード6.8 以上で被害状況との関係に明らかな差が見られ、マグニチュード6.8以上になると、急激に被 害が増えることがわかった。また、マグニチュード6.6と6.7の地震は発生そのものが非常に少 なかった。これらの理由として、内陸の地震は決まった地殻の厚さの部分でしか起こらないと仮 定すると、現象の説明が可能であることが紹介された。
●笹尾専門委員(国立天文台)
VERA計画についてそのサイエンス面からの背景が紹介された。VERAは天体までの距離を直 接測定することを目指しており、これが実現すれば、天文学にとって大きなブレークスルーとなる。 またVERAの現状と今後に関して以下のように説明および技術開発センターに対しての期待が 寄せられた。今回、VERA計画に使える実機の購入と実験を行うための予算がついたが、VER A計画実現にむけて国立天文台内外の力を結集するとともに、VERA計画成功に向けて進んで いきたい。今後、観測局候補地の環境調査、位相補償用アンテナの最適設計等を行っていくが、 技術開発面において、IVS技術開発センターには密接に協力をお願いしたい。
● 大木専門委員(国土地理院)
国土地理院のVLBI活動について、3月2日から国内実験を行うこと、国内各VLBI局でのGPS とのコロケーションを検討中であることが紹介された。コロケーションに関してはウェッツェル局の 取り付け測量網および、ピラーの詳細について報告がなされた。さらに、つくば−ウェッツェル間 でUT1測定を目指したVLBI観測を行う計画が示された。K4を使って観測を行い、相関処理は つくばで行う。また、APSG観測に参加し、アジア太平洋地域の高精度地域測地網構築に貢献し ていること、2月に南極昭和基地との共同観測を実施し4月に解析予定であること、国内各VLBI 観測局をIERS観測点として登録の準備を進めていること、 IERS点への登録とコロケーション により宇宙測地技術の統合に貢献しようと考えていること、統合化された宇宙測地技術により、 地球及び地域に高精度の測地基準系を構築することを目指していることなどが紹介された。
4.GEMSTONE(ワークショップ)開催報告(吉野泰造)
1月に通信総合研究所で開催された「複数宇宙測地技術による広域地殻変動観測に関する国 際ワークショップ(GEMSTONE)」について、そのテーマ、規模、決議文の報告がなされた。GE MSTONEでは異なる宇宙測地技術間のコロケーションを中心テーマとしたが、APT/APSGの セッションも設けられた。参加者総数は12ヶ国103名であった。このワークショップではコロケー ションの重要性が認識され決議文に反映されているが、実時間VLBIに対しても、その有用性が 認識され、IVS TDCのもと国際的なパイロット実験開始の準備を推奨することが決議文の中で うたわれている。
5.技術開発報告
5.1 首都圏広域地殻変動観測システム報告
●KSP観測網におけるマイクロ波放射計観測(市川隆一)
大気のメソスケール擾乱による測位誤差の評価を目的とした水蒸気ラジオメータ(WVR)観測結 果が報告された。報告ではKSP−VLBI観測における大気勾配ベクトルの推定の現状、WVR 観測とラジオゾンデ観測の比較結果、WVR観測から求めた大気勾配ベクトルなどが示された。 それらの結果からWVR観測データは測地誤差を評価する上で有効な手段となることが示され た。
5.2 R&D実験報告
● KSPシステムを用いた電波源サーベイ結果報告(金子明弘)
KSPシステムを用いて行っている電波源のサーベイ観測の結果が報告された観測は3Cカタロ グ、1Jyカタログ、グリーンバンクカタログ中の電波源に対して行っており、現在までに1300個 の観測は終了している。しかしながら、500個については自動観測を行うプログラムの不具合に より、観測自体に失敗している。これらの電波源については再観測を実施したい。HII領域の電 波源であるB1920+1524はSバンドにおいてKSP全基線で検出できた。B2336+5953についても 小金井−三浦以外の基線で検出できており、非常に興味深い。今後、古いデータを見直すととも に、論文化作業を進めたい。
● ギガビットVLBI観測結果報告(中島潤一)
7月に実施したギガビットレコーダを使ったVLBI試験観測についてフリンジが検出されたことが 報告された。2回目のギアがビットVLBI観測計画についても簡単に紹介がなされた。
●大型アンテナ光ファイバー結合実験報告(高橋幸雄)
臼田64mアンテナとKSPアンテナおよび鹿島34mアンテナをOLIVEおよびKSPのリアルタイ ム回線を介して接続する実験に成功したことが報告された。初観測は昨年11月12日に実施さ れた。このときは臼田64mとKSP局の結合であったが、12月には鹿島34mアンテナとの結合 観測にも成功した。2月以降、1週間に1回程度の頻度で観測を実施している。最後に、インター ネットを介した3次元立体画像化システムの紹介があった。
●KSP結合観測報告(小山泰弘)
KSP−VLBI網をITRFに直接接続するために計画された実験の概要が説明された。実験はK4 システムを用いて行われる。第1回目の実験は1月に鹿島、KSP、フェアバンクス間で実施され た。フェアバンクスで使用するK4システムはこの実験のために事前に搬入された。2回目の実 験は3月に行う。参加局は鹿島、KSP、フェアバンクス、ウェッツェル、ウルムチである。なお、フ ェアバンクスとウェッツェルではFS9でK4システムの制御を行う。相関処理は4月以降に行う予 定である。
5.3 その他
●VLBI標準インターフェース(VSI)について(中島潤一)
IVS技術開発コーディネータであるA.Whitneyが提唱しているVLBI標準インターフェースの概念 が紹介された。その中で、日本からの貢献が期待されている信号コネクター部分について、具体 的な調査を行っていることとの報告があった。
技術報告の最後に岡本技術開発センター長が、通信総研の技術開発センターが外部から大い に期待されていることの認識を新たにし、技術開発センターとして、大気ゆらぎの研究、ギガビッ トクラスのレコーダの入出力インターフェースの標準化、リアルタイムVLBI技術において、大い に貢献できると信じている、との感想を述べた。
6.閉会のあいさつ
吉野第六研究チームリーダが閉会の挨拶を行った。
会議終了後、懇親会を行い、さらに意見交換を行った。
議事録作成:近藤哲朗