シンポジウム報告

近藤のメールおよび、大矢さんのメールによる報告を掲載します。


近藤報告(1999.3.24メールより抜粋)

月面低周波観測MLの皆様

通総研鹿島の近藤です。

昨日、セレーネ2のシンポジウムで発表を行ってきました。 シンポジウム出席者は100名程度で盛況でした。 ほぼ、発表の概要の通りの発表は行えたと思いますが、 観測対象に関しては、すべてを網羅した形になって いましたので、やや総花的な印象を、自分自身も感じました。 それに比して、我々の観測システムの検討が貧弱であった ように感じました。 シンポジウムはもう少し、夢を語り合うような雰囲気かと 思ったのですが、そうではなく、より具体的な感じがしました。 すでに工学的に良く検討が施されているものもありました。

私の発表に対するコメントや質疑応答は以下の通り でした。

国立天文台河野さん
観測対象がぼけているのでシステムの要求(実現性)と、 観測対象の対比を明確にしておくのが良いとのコメント。

茨城大坪井さん
銀河のスペクトルに関しては、タスマニアである 程度の低い所までの観測があるので、そうしたものも 参考にすると良いとのコメント。

海部さん(だったと思う)
低周波の電波天文は、我々も興味があってずいぶんと昔から 言っている話である。実際に月面に人が行けば、簡単にアレー アンテナを構築できる、というコメント。その話の中で低い周波数では イオンの吸収効果が見えて来るというのがありましたが、 その部分は私自身の勉強不足でよく分かりませんでした。

電通大柳沢さん
系外の電波源としてどういうものが観測されると想定しているのかという 質問があり、これも不勉強で私には分かりませんでしたので わかりませんと答えました。また、おなじく柳沢さんから、 低周波になると惑星間空間シンチレーションが問題に なるのではないかとの質問があり、これには その通りだと思いますと答えました。ただし、シンチレーション も研究対象となるので、研究者にとっては、それもシグナルと なると答えておきました。さらに、恒星間シンチレーション等も 観測対象になりうると答えました。

以上が、覚えている範囲の質疑コメントでした。


大矢さん報告(1999.3.26メールより抜粋)

東北大、大矢です。以下、長文です。

遅くなりましたが、シンポの報告をします。

まず、近藤さんがいらしゃらなかった、二日めのNASDAからの システムの話を御報告します。 私は、午前中の講演だけ聞いてましたが、まとめると次の様になります。

(1)次期月探査システム検討(金子 豊 他 NASDA)
  ・システム構成は、着陸装置、ペネトレーター、ペネトレーター用リレー衛星(周回母星衛星はなし。ペネトレーターの数は後述)
  ・現在開発中のイオンエンジンを搭載予定 このため、打ち上げから月100km上空周回軌道までに、約540日程度かかる。
  ・夜間(14日間)の運用は保温のみに電力を集中。観測は中止
  ・ランダーからのデーター転送は1Mbpsを想定(ペネトレーターの転送レートも示してましたが、記録出来ませんでした。ただ、ランダーよりも低い値であり、これに対して水谷先生から、「もう少し太い線(高い転送レート)にしたいのだが」とのコメントがありました。)
  ・イオンエンジン搭載の衛星(従来より軽い)を考えたとき、2t級のH2、改良型の3t級のロケットを使った場合、ランダーの総重量は、356kg(2t級)、 もしくは500kg(3t級)となる。ただしペネトレーターの数を7本として計算した場合。

(2)高精度着陸技術の検討状況 (川勝 康弘 他 NASDA)
   ・特に記述するべきことはないですが、着陸位置は10mオーダーで分かるそうです。(SELENE1号機による写真撮影が大前提)

(3)月面滞在技術の課題について(疋田 澄夫 他 NASDA)
・滞在ミッションを1年はやりたい(ペネトレーターは内部電池のため短命)
・夜は保温状態のみ。燃料電池を開発中だが、それがうまく開発されても、保温が精一杯
・SELENE1でもランダーがあるのですが、そのシステムを聞いたところ、期間2ヶ月、完全断熱容器、そして電波源として用いてるだけなので、内部電池だけで動いてるそうです。
・温度環境について
       ○予想される温度環境
          ・赤道-------- -170℃ 〜 130℃
          ・極域-------- -190℃ 〜 -120℃
            (近藤さん、1日めの天文台の予想値とことなってます(な ぜ?))
       ○機器対応温度
          ・動作時--- -20℃ 〜 50℃
          ・非動作時--  -30℃ 〜 60℃

以上のことから、低緯度のほうが、着陸地点としてはのぞましい (天文台と違う見解)
昼は放熱、夜は保温の繰り返し。

以上、とくに我々に深く関連する項目に対して、列記しました。 分かりにくいところがかなりあるかと思いますが、そのときはお聞きしてください。

私の感想としては、「やはりもう夢物語をかたってる時ではない」、 と感じました。 SELENE2の観測目標として、「月の科学」そして「月からの科学」の二つに わかれていると思います。 「月の科学」は、アメリカなどの観測例もあり、またいままで暖めてきたアイデアなど があり、まだ、問題点もありますが、より現実的なシステムを考えているところが 多かったです。なによりも、観測目的、予想される重量、問題点などがはっきり していたように思われます。

 それにたいして、「月からの科学」は、素人のわたしからみても実現には 四半世紀かかるのでは?というのがほとんどであったと思います。(発表者 本人も、次期月衛星にのせるとは本気で考えてない感じもしました) まー今までに、世界的に前例がなく、また発表者も衛星開発に携わった ことがない人がほとんどのようなのでしかたがないような気もしますが。  実際、打ち上げ予定まで、約6年です。Planet-Bの起案から打ち上げまで 10数年かかってることをかんがえれば( しかもほとんど既存の観測技術であるにも かかわらず)、よりあたらしい機器開発が予測されるSELENE2にはあまりにも 時間がないのではないかと思います。

 ただ、講演した「月からの科学」のなかでは、我々の観測は一番、 現実的であったと思います。つまり、「月の科学」そして「月からの科学」の 二つを目的にしている以上、我々の努力しだいで、搭載される可能性も 十分あるのではないかと思います。

 講演を聞いた感じとしては、ランダー1機(ローバ含む)、ペネトレーター3〜7本、 リレー衛星1機、のシステムになるかと思います。衛星の主目的が「月の科学」 である以上、ペネトレーターの数をへらしたり、ローバをなくしてランダーを 複数にするというのは、難しいかとおもいます。よって我々はこのシステムで なにをしたいのか、なにを克服すればよいのか、を明確にするべきでしょう。

 とくに、必ず聞かれる質問として、「なぜ、月に置かなくてはいけないのか、 衛星じゃだめなのか」があると思います。干渉計ならともかく、単体の DS(f-t)をとる だけのシステムの場合、周回衛星との差別化をどのように主張するのか 問題となると思います。

以上、問題点を列記しました。しかしこれではあまりにも無責任なので(笑) 、アイデアをしぼろうとしてますが、このシステムであれば、 ランダーとリレー衛星との間で干渉ができないでしょうか。ランダーは、 火薬、もしくはスプリングを用いたワイヤーANTのクロス・ダイポール展開、 リレーは、同じくワイヤーANTをスピンなどを用いてのダイポール展開 展開(干渉だけならダイポールでいいでしょう)。
 これなら、既存の技術だけで、十分可能であり、干渉だけでなく、 DS、偏波もランダー側で解析可能でしょう。(考えてみれば、リレー衛星を クロス・ダイポールにして、ランダーをダイポールにしてもいいですね)
 問題点としては、
    ・衛星-ランダー間での干渉が可能か(リレー衛星の正確な位置を求められる か)
    ・ランダーの転送レートで、どのようにデータを転送するか
    ・リレー衛星の転送レートは?(ペネトレーターとのかかわりで)
    ・ANT展開によってローバに影響は??

こんなところでしょうか?
さらにANT展開による熱問題も将来の問題としてでてくるでしょう。
以上、貧弱ですが、私のアイデアでした。

 所属研究室の関係で、衛星開発の難しさを認識しているつもりでしたが、 今回のシンポで、改めてその難しさを認識した次第です。


1999年3月30日版