電波干渉系のRF信号を光搬送波にのせて直接主局に伝送すれば、データレコーダ・周波数 標準を必要としない電波干渉計を補成することができる。この方式では、解析局の基準信号で 両局のRF信号を処理するため、基線解析の際の時計パラメータの推定が不要となる他、RF位 相を直接比較することにより高い遅延決定精度が得られるので、観測局位置決定精度を従来に 比ベ格段に向上させることができる。(2)また、伝送遅延をリアルタイムに技正することにより、共 通口一カルの干渉計として積分時間を長くとれるので、大気伝搬特性の研究や宇宙の果てに近 い微弱電波源の観測でも威力を発拠できる。本輪文では、RF光伝送干渉計の、ノイズ評価の結 果および、基礎実験によるコヒーレンス、遅延安定性の評価、遅延校正方法の検証桔果に関し 述べる。
伝送路の遅延の補償は、解析局から送られるRF帯の校正信号を用いて行う。校正信号はRF
帯のフィルターを通過した後、光変調器により1.55μmの光信号に変換される。光に変換された
校正信号は光分配器により分配され各観測局に送られる。観測局では、送られてきた光信号か
ら、光復調器により校正信号が再生され、低雑音増幅器入カ端から、受信系に注入される。校正
信号は、アンテナで受信された信号と共通の経路を通って、解析局に送り返される。これにより、
観測局・解析局間の光ファイバーの遅延差の変化を検出することが可能となる。また、電気回路
部分の遅延差を別途校正することにより、伝送路の遅延差の絶対値を決定することが可能とな
る。
△tsysと△tcal.sysに関しては、時刻オフセットを推定する場合は、変化分のみ必要となるので、
十分小さく無視できると考えられるが、時刻オフセットを推定しない場合は、各局に配置するシス
テムを,前に解析センターに持ち寄って校正する必要がある。△taに関しても同様に、時刻オフ
セットを推定する際は問題にならないが、推定しない場合は何らかの方法で予め求めておく必要
がある。
通常行われているようにバンド内位相の傾きから遅延を決定する場合(バンド幅合成法)と異 なり、RF位相から直接遅延を 求めようとする場合(位相遅延測定)は、両局に独立に付加される位相の影響が間題となる。本 方式では各遅延差の差をとる形になっているため、付加位相の影響は相殺されτgには影響を 及ぼさない。
実際に(3)式を計算する際は、各遅延時間差を求めてから計算するのではなく、各遅延差を反 映した位相差のスペクトルを測定し、その各周波数の位相差毎に上式の計算を行いτgを反映 した位相差のスペクトルを求め、その後にバンド幅合成によってτgを求める方が、位相遅延測 定に必要なアンビギユイティの同定をする際に都合が良い。 なお、今回採用した双方向伝送方式による伝送路遅延の補償では、光ファイバー部分のみの 遅延変化しか補償されない。光ファイバー両端の電気・光回路部分で最も遅延変動が大きいと 考えられるのは光復調器で、4515Aの場合3.5ps/℃となっているが、温度補償により1ps 以下の変動に抑えることができると考えられる。
オーテル社の3541A光変調器と4515A光復調器を使用した場合、信号の帯域幅を1GHz、 光伝送系入カ端での総信号電力を0dBm、光伝送系のS/N許容値を10dB(1割のノイズの 増加を許す。すなわち相関振幅は約1割低下)とすると、図に示すように伝送路の減衰量は約2 0dBまで許されることがわかる。光ファイバーケープルのロスを0.3dB/kmとすると使用可能 な光ファイバーの最大長は約65kmとなる。
a.コヒーレンス
ノイズダイオードを用いて2つの受信系に共通のノイズを供給し、KSP相関器を用いて相関振
幅を測定した。光伝送系をすぺて普通の同軸ケーブルで置き換えたシステムで得た相関振幅と
の比較を表1に示す。今回使用した基礎実険の構成では、観測される遅延がほぽ0、遅延変化
率も0となるため、目的外の信号の相関が大きく正確な振幅の測定ができないが、1ビットサンプ
リングによる非線形効果(5)がでない範囲でなるべく強い相関を用いて側定を行った。結果に大き
な違いは見られない。カタログ値(図3)から、光伝送系で発生する雑音による相関振幅の低下
は小さいことが見積もられるが、結果はそれを裏付ける(なお、今回のシステムでは入カ光信号
のレペル調整のため5dBの光アッテネータを挿入している)。また、光伝送系で発生する位相ゆ
らぎによるコヒーレンスの低下も、相関振幅を低下させる程には大きくないことがわかる(△φくく
1rad)。
周波数 [MHz] | 相関振幅[%] | |
---|---|---|
光ファイバー | 同軸ケーブル | |
8100 | 5.657 | 5.138 |
8180 | 6.344 | 4.534 |
8340 | 6.544 | 6.537 |
8500 | 5.579 | 6.008 |
b.遅延の変化
両局システムに注入した同一のcomb信号の位相差をK4入カインターフェースのPCALモニタ
ーで測定した。図5に観測された位相差の長期変動を示す。(a)は両局システムとも光ファイバ
ーを用いた桔果で、(b)は片方のシステムの信号伝送に同軸ケーブルを用いた結果である。両
局システムとも同一の温度環境下(実験を行った部屋の温度の変化はP-Pで1度程度)で行っ
た結果であるが、(a)、(b)どちらも12時間にわたり、群遅延(各周波数間の位相差変化)にもR
F位相差にも、大きな変動は見られない。RF位相差の変化はどの周期成分も高々振幅1度程度
で、これは約0.3psecに相当する。
この結果から、解析局に置くシステムは、p-p1度程度で温度制御を行われた部屋に置けば、 問題ないと考えられる。観測局のシステムについては、実際には各局で独立な温度環境下に置 かれるため、今後、恒温槽を用いた実験を行って温度係数を評価する必要がある。
C.遅延校正の検証
3.で述べた遅延校正の方法の検証を行った。先に述べたように、ノイズの相関をとる方法で
は正確な遅延測定が期待できないため、同一のcombパルスを両方の受信系に供給し、(3)式
の△tobsを測定した。校正信号による校正は、実際には目的信号の遅延測定と同時に行うが、
今回の実験では目的信号、校正信号ともcombパルスを用いることになるため、同時に行うこと
ができない。そのため目的信号の遅延測定(△tobs)と校正信号による遅延被正(△tcal.obs
の測定)は別に行った。また、△tsysと△tcal.sysは、両局のケープルを入れ替えて測定し、入
れ替える前の測定値との和をとり2で割ることにより求めた。各測定は、K4入カインターフェース
のPCAL信号検出器を用いて行った。lF周波数250MHzから500MHzまで10MHzおきに変
化させ、各チヤネルの位相を交互に1秒おきに10回測定し、平均を取った後、差をとった。
結果を表2に示す。光ファイバーは10m 1本、5m 2本、3m 1本を用意し、表に示す4つの
組み合わせで測定を行った。2つの受信系に共通の信号を入カしているのでτgは0になるはず
であるが、いずれの場合も100psec以下のτgが得られ、2.で述べたケープル遅延の補正が
うまく行えることが実証された。
τgはバンド幅合成法と、位相遅延測定の2種類を試みた。表に示すように位相遅延測定で求 める方が、バンド幅合成法で求めるのと比ペニ桁以上決定精度が向上しているのが分かる。
位相遅延測定から求めた光ファイバー系のτgは、ケーブル長差に比例して増加する傾向が 見られる(図6)。同じ方法を、光伝送系のかわりに同軸ケーブルを使ったシステムで測定した結 果も表2に示した。装置の都合で同軸ケーブルのシステムは双方向光の遅延補正ではなく単方 向の遅延補正であるため、単純には比較できないが、同軸ケーブルのシステムではケーブル長 差とRF位相からもとめたτgの間に有為な相関は見られない。光ファイバー系のτgがケープル 長差に比例して増加する原因としては、CNの値のあやまりが考えられる。今回用いた光ファイ バーの屈折率はメーカからの情報で、N(1.31μm)が1.44692、N(1.55μm)が1.44402で、これ から得られるCNは1.997996となるが、今回の結果から逆算すると1.9983程度となる。
なお、位相遅延測定で遅延を決定する際には、パンド幅合成法の結果から、位相のアンビギユ イティを見積もるが、このアンビギュイティはRFの半周期、約60psecである。これは双方向遅 延補正をおこなうため、校正系の遅延をCN(≒2)で割るためである。今回の場合、表からわか るように光伝送系ではアンビギユイティを同定するにたるバンド幅合成法の遅延決定精度が得ら れているが、実際には4つの測定のうち2つでアンビギユイテイの同定に失敗している(表中の、 *をつけた観測)。同軸ケーブルでの測定は双方向補正をおこなっていないので、アンビギユイ ティは倍の約120psecである。
τg[psec] | |||
---|---|---|---|
ケーブル種別 | ケーブル長差 | (バンド内位相) | (RF位相) |
光ファイバー | 7m | -23.1±21.6 | -10.77±0.19 |
光ファイバー | 5m | -78.0±25.1 | -7.16±0.23 * |
光ファイバー | 2m | -25.8±17.2 | -3.79±0.15 |
光ファイバー | 0m | -50.5±25.8 | -0.40±0.23 * |
同軸ケーブル | 6m | 1.2±48.7 | -0.61±0.44 |
同軸ケーブル | 0.3m | -33.7±45.6 | -0.20±0.41 |
同軸ケーブル | 0m | 20.1±25.7 | -0.01±0.23 |
基礎的な実験を行い、a)光伝送系を用いたことによる相関振幅の低下は認められないこと、 b)長時間の遅延変動は、2つの受信系を同じ温度環境下(P−P1度程度)に置く限りにおいて は、十分な安定度(0.3psec以下)を持っていること、c)今回提案した遅延校正方法が正常に 機能し、パンド幅合成法のみならず、位相遅延測定もうまく行えることがわかった。
しかしながら、今回行った遅延校正の方法は2波長の光搬送波を用いるため、屈折率比が問 題となる。何らかの方法で使用する光ファイバーの2波長の屈折率比を測定するか、同一の波 長を用いた双方向伝送を行う必要がある。
また、実際の長基線干渉系では、目的信号が電離層等、波長分散のある媒質を通過してくる ため、位相遅延と群遅延が一致しなくなってくるので、位相遅延測定は難しくなることが予想され る。
今後、このシステムを実際にアンテナに組み込んで、遅延決定、局位置決定を行い、本システ ムの有効性を確認する実験を行いたい。
2) Heki,K.,;"Three Approaches to Improve the Estimation Accuracies of the Vertical VLBI Station Positions",J. Geod. Soc. Japan, Vol. 36, 3, 1990.
3) Kiuchi, H. et.al.; "K‐3 and K‐4 VLBI Data Acquisition Terminals", J. Comm. Res. Lab., Vol. 38, 3, 1991.
4) 木内 等他、「相関処理装置」、通総研季報、Vol.42,1,1996
5) Vleck,V. et.al. ;"The Spectrum of Clipped Noise", Proc. lEEE, Vol. 54, 1, 1966.