小山泰弘(1)、栗原則幸(1)、今江理人(2)、吉野泰造(2)、高橋幸雄(1)、
高羽浩(1)、岩田隆浩(1)、近藤哲朗(1)、木内等(1)、花土ゆう子(1)、関戸衛(1)、
中島潤一(1)、後藤忠広(1)、雨谷純(2)、国森裕生(2)、大坪俊通(2)、
三木千紘(2)、細川瑞彦(2)、金子明弘(2)、高橋冨士信(2)、日置幸介(3)
1 通信総合研究所 鹿島宇宙通信センター
2 通信総合研究所 標準計測部
3 国立天文台 地球回転研究系
観測・データ収集や観測局の状況監視などを行うソフトウェアは『要石』と呼ばれる。 『要石』は図1のように[観測制御]・[自動監視]・[集中制御]の3部から構成する。 観測制御と自動監視は各観測局ごとに置かれ、集中制御は中央局と位置づけられる小金 井観測局に置かれ、おのおの表1のような機能を分担する。
観測スケジュールは測地VLBI実験で通常用いられるMk-3 Schedule File Formatに 従って作成する。集中制御部は、毎日の観測準備シーケンスを実行するとき、必要 な観測スケジュールが準備されているかどうかをチェックし、もしあればそ れを各局の観測制御部に転送する。観測スケジュールがない場合には前日の観測 スケジュールを1恒星日だけシフトしたスケジュールを新たに作成する。このよう にして、一度観測スケジュールを準備すれば、自動的に同じ観測シーケンスの実験 が毎日繰り返されることになる。
集中制御 | 観測スケジュールの管理・観測制御に対するコマンド・ 自動監視部で取得するログの管理・アラーム情報の集約 |
観測制御 | 観測スケジュールを解釈してアンテナおよび観測機器を制御・ 観測機器のアラーム検知と集中制御部への通知 |
自動監視 | 校正データ(気象+ケーブル遅延+時刻オフセット)の取得・ 受信系に関するデータ(雑音温度+受信帯域スペクトル)の取得・ 各種ステータスの監視・アラームの集中制御部への通知 |
各観測局と中央局(小金井)とは専用回線(64kbps)のネットワークで接続される。 万一どこかの回線が使用不能になったとしてもネットワーク経路が確保できるよう、 鹿島局と館山局の間にはバックアップ用のパケット回線が設けられる。また、観測 制御計算機には一般電話回線とモデムを経由してログインできるようにし、最低限 のコマンドはネットワークが完全に使用できなくなった状態でも伝送できるよう 工夫されている。中央局の集中制御部はこの計算機ネットワークを使って、各局の 観測制御部や自動監視部との間でコマンドやステータスをやりとりする。自動監視部 や観測制御部で検出された観測機器などのアラームは集中制御部で集中的に管理される。 アラームが軽微な場合には観測はそのまま続行されるが、機器の故障の場合にはその 度合いに応じてスタッフを観測局に派遣して復旧にあたる。また風速が規定の値を 超えた場合など、緊急を要する場合にはアラームが集中制御部に通知されるのと 同時にアンテナ追尾は一旦停止し、風速が弱まるまでその観測局でのみ観測を中断 する機能も備わっている。
ここでも、オペレータはDMS-24に1日分の観測テープをセットして『KATS』の 自動処理ルーチンを起動するだけという究極の自動化を目指す。データのバック アップやディスクスペースの管理、解析結果が異常な値を示したときの詳細な データの検討などどうしても熟練者の作業を要する項目は残らざるを得ないが、 通常の運用時においてはほとんどの日でオペレータの作業をほとんど必要としない で解析結果が得られることを目標にソフトウェアの開発を進めている。
『KATS』の自動処理ルーチンが起動されると、まず各観測局で収集したログ ファイルにアクセスして相関処理に必要な各種のパラメタを設定する。各観測局 では、UTCとインプットインターフェースの時刻の差をGPSで常時観測しており、 この観測値をそのまま相関処理のクロックオフセットとしてセットする。 相関処理に必要なパラメタがセットされたあとは1観測ごとに順次相関処理が行われ、 すぐにフリンジのモニタプログラムとバンド幅合成プログラムが起動される。 バンド幅合成の結果作成されるKOMBファイルには、従来のK-3フォーマットと 整合性を保ちながら16チャンネルのデータに適応するよう拡張された フォーマットを採用した。1日分の観測データの処理が終わった後、 Mk-3データベースが作成された時点で処理は『KATS』から『武みか槌』 の基線解析処理に移る。まずCALC8.1によってアプリオリ情報からモデル計算 を行い、解析に必要な偏微分係数を計算する。その後、VLBESTによって クロックオフセットとレートのみを推定してアンビギュイティーの除去を行い、 さらに残差の標準偏差に対してある規定値以上の比の残差のあるデータを 不良データと判定してその後の解析から排除する処理を行う。最後に 大気天頂遅延やクロックオフセット、観測局位置などを推定するように設定して 再度VLBESTを実行して最終結果をファイルに保存する。解析結果はすぐさま 過去の基線長推定結果や観測局位置推定結果と合わされて最小2乗推定によって 変化率と残差を計算する。最終的には、これらの解析結果をレポートの形に 編集し、e-mailによって気象庁などの関係機関に毎日報告することを計画している。 レポートの中には、基線長や観測局位置の推定結果が過去60日間に渡って記載 されるほか、観測局位置や基線長の最近の傾向が過去のデータをフィットして 得られた変化ラインから標準偏差の規定値以上の比で残差をもつ場合には、局位置 の変動に変化があるとしてその旨も報告書に記載する。また、このレポート自身 や基線長変化と観測局位置の変化の様子を示す図などはWWW (World Wide Web)に よってインターネット上から自由にアクセスできる形で一般の研究者にも公開する。 WWWのホームページはデータ解析用計算機のサーバによって提供する。データ 解析用計算機はKSPのネットワークとCRLの所内ネットワークの両方に接続される。 CRLの所内ネットワークはインターネットに接続されているのでインターネット に接続されている地点からは自由にこのWWWにアクセスできるが、同時にこの 解析用計算機はいわゆるFire Wallとして機能して外部からはKSPのネットワークに アクセスすることを防止してSecurityを確保する役割も果たしている。
VLBIの解析結果は利用できるアプリオリ情報の精度に左右される。特に、 観測局位置のxyz三次元成分は地球回転に関する5つのパラメタ (極位置=δx+δy・章動のオフセット=δε+δφ・UTC-UT1)の精度に 直接左右される。これらのパラメタは不規則に変化するものであるので、 KSPのように1から2日前のデータを解析しようとするときには、まだ予測値 しか利用することができず、十分な精度が得られない。鹿島−小金井間を例に 取ると、基線長は約110kmでほぼ東西基線であるので、極位置の1.9mas、 UT1-UTCの0.13msecの誤差が局位置の測位結果で1mmの誤差を生じさせる。 予測値のみを利用して解析結果を得た場合、極位置で約7mas、UT1-UTCで 約1.8msec(1994年8月のIERS Bulletin AとIERS Bulletin Bを比較した結果) の予測誤差を生じていたので、1cm程度の誤差を引き起こす原因となる。 したがって、解析結果は新しい地球回転パラメタが利用できるようになるたび に更新することが重要になる。