NICT-CsF1原子泉型周波数標準器の開発研究
情報通信研究機構では国際原子時(TAI)や日本標準時(JST)の高精度化を目的に原子泉型一次周波数標準器の開発を行っています。
原子ビームを用いた従来の標準器(NICT-O1)では、原子の速度が速すぎるため基準信号の正確な測定には限界が生じていました。そこで、 更に高精度な標準器を目指して、レーザー冷却技術を用いた周波数標準器が考え出されました。原子泉型周波数標準器とは、レーザー光の輻射力に よって原子の速度を遅くし、原子を10万分の1度程度の極低温まで冷やすことができるレーザー冷却技術が核となっている周波数標準器です。
レーザー冷却により集められたセシウム原子集団は、レーザー光の輻射力により真上に打ち上げられます。 打ち上げられた原子集団は弾道軌道上に置かれたマイクロ波共振器内で、上昇時と下降時の2回マイクロ波と相互作用をし、 ラムゼー共鳴とよばれる現象をを引き起こし、共振器に供給した周波数がセシウムの共鳴周波数からどの程度ずれているか測定することが出来ます。 原子標準器の場合、ラムゼー共鳴によって得られる信号の線幅は1Hz以下と非常に狭く、このラムゼー信号の中心周波数が「秒」の基準信号となります。
レーザー光により真上に打ち上げられ、重力により落ちてくる原子の様子が「泉」に似ているので「原子泉」、英語では「Atomic Fountain」 と呼ばれています。我々はセシウム(Cs)原子を用いたFountain1号機、『NICT-CsF1』を開発しました。 2015年(4月)現在NICT-CsF1の正確さはおよそ2×10-15、1秒狂うのに1500万年かかるというものです。
--参考文献--
M. Kumagai, H. Ito, M. Kajita, and M. Hosokawa, “Evaluation of caesium atomic fountain NICT-CsF1”, Metrologia 45 139 (2008).