AI-Native Networks White Paper
― AIと通信の融合がもたらす未来 ―
AIがネットワークを動かし始めたとき、何が変わるのか
いまのAI活用は、ネットワークの一部にAIを「入れている」段階です。その先には、AIの学習・推論のサイクルとネットワークの設計・運用のサイクルが一体となり、ネットワークが自ら判断し自ら変わる「AIネイティブネットワーク」の姿があります。AIネイティブネットワークが実現される頃には、通信ネットワークの役割は「データを届ける基盤」から「判断の論理と信頼を支える基盤」へと変わっていくことも期待されます。
本ホワイトペーパーはこのような姿を見据え、制御判断の何が事前に決められなくなるのかを「判断の位置・根拠・主体」という三つの軸で整理しました。この問題は、通信制御に関与するAIの説明可能性や検証可能性、人間がどこまで設計しどこから判断を委ねるか、そして社会基盤としての責任分界にも関わります。
その上で、これから未来を見据えて設備投資の根拠をどう説明するか、検証の前提が崩れたとき何をもって「正しい」とするか、障害が起きたとき責任をどう切り分けるか——こうした問いに対して、異なる立場の関係者が共通の条件のもとで比較・検証を重ねていく「検証連携基盤」の考え方と段階的な進め方の案を提案しています。
答えを出すというより、問いを共有するためのホワイトペーパーです。
本ホワイトペーパーが対象とするAI
本ホワイトペーパーは特定のAI技術に限定せず、通信ネットワークの制御・運用に関与するAI全般を対象としています。強化学習によるリアルタイム制御、深層学習による予測・異常検知、機械学習による分類・判定、LLMによる運用支援やIntent変換など、技術や方式が異なっても「判断の位置・根拠・主体が設計時に定義できなくなる」という課題は共通して生じます。
こんなこと生じてませんか? 想定される場面 ー 6つの例
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① トラフィック制御の品質が落ちた。原因はどこに?
Near-RT RICがリアルタイムでトラフィックを振り分けている環境で、通信品質が低下した。原因はRICの判断か、コアネットワーク側のリソース不足か、それともクラウドで更新された学習モデルか。判断が複数のレイヤーに分散しているため、切り分けができない。 -
② 省エネのためにセルを止めたら、つながらなくなった
AIが省エネ目的でセルのON/OFFを制御したところ、特定エリアの通信品質が低下した。判断基準はAIが学習で更新しているため、「なぜこのタイミングでOFFにしたのか」を事後に説明できない。 -
③ それぞれのAIは正しいのに、全体がおかしくなる
複数のネットワークスライスが、それぞれ独立したAIでリソース配分を最適化している。各AIは自らの目的に照らせば正しい判断をしているが、物理リソースの奪い合いが起き、全体性能が劣化した。どのAIの判断が原因なのか、特定する手段がない。 -
④ ベンダーが違えば、判断も違う
ベンダーAのRICとベンダーBのコアNW AIが異なる判断を出したとき、どちらを優先するかのルールは運用中に変わり得る。障害が起きても、「どちらのAIの判断が原因か」を切り分ける手段がない。 -
⑤ 自然言語の指示が、意図通りの制御になっているか分からない
運用者が「遅延を最小化して」とLLMに指示し、LLMがネットワーク設定に変換した。しかし、その変換が運用者の意図通りかを検証する手段がない。LLMの出力は同じ指示でも毎回異なり得るため、再現性も保証できない。 -
⑥ ルールのようで、ルールではない
異常検知にランダムフォレスト等の機械学習を使っている。ルールベースに近い動作に見えるが、学習データが更新されるたびに判定境界が変わる。運用者は「ほぼルール」と認識しているが、実際には判断基準が静かに変わり続けている。
想定される読者
- 通信事業者の技術者・経営戦略立案される方
- AI・クラウド事業者でネットワーク領域に関わる方
- 情報通信システムの社内制度や設計に携わる方
- 通信・AIの標準化活動に参加する研究者・技術者
- 社会基盤としてのAI活用に関心のある方…など
本ホワイトペーパーを読むにあたっての前提知識
本ホワイトペーパーは、AIと通信が融合する社会基盤としてのAIネイティブネットワークの変化を、技術・運用・投資・制度を横断する視点から整理したものです。以下のような基礎的な理解があると、内容をより的確に把握できます。
想定している前提知識・理解
- 通信ネットワークやクラウド、データセンターといった 社会インフラの基本的な構成や役割についての一般的な理解
- AIが、単なる分析ツールではなく、 運用上の判断や制御に組み込まれ始めているという現状認識
- 技術構成の違いが、運用コスト、投資判断、リスク管理、責任分界といった実務上の判断に影響を与えるという問題意識
※プロトコル仕様、数式、アルゴリズムの詳細といった専門知識は前提としていません。
前提としていない知識
本ホワイトペーパーは、以下のような専門的知識を持たない読者でも読み進められるように構成されています。
- 特定ベンダーや製品に関する知識
- 機械学習アルゴリズムや最適化理論の専門的理解
- 個別の標準仕様や規格文書の精読経験
- AI倫理・法制度に関する専門的な議論の知識
ご意見・論点提起について
本ホワイトペーパーは、今後の議論の土台として公開しています。
内容に関するご意見や、議論すべき論点の提起については、専用フォームより送付ください。
※個別の回答や公開をお約束するものではありませんので、あらかじめご了承ください。