RESEARCH

/ 研究

嗅覚研究

超高磁場MRIを用いて、ヒトが匂いをどのように感じ、どのように意味づけ、どのように好みを形成するのかを研究しています。 嗅覚は、単に匂い分子の入力だけで決まるのではなく、文脈や言葉、経験、価値判断の影響を強く受けます。 そこで当グループは、一次嗅覚野を含むヒト脳の嗅覚ネットワークを高解像度で計測し、匂い知覚の神経基盤を明らかにしてきました。

7テスラfMRIを用いた高空間分解能計測により、ヒトの嗅覚関連領域、とくに梨状皮質、扁桃体、眼窩前頭皮質における匂い情報の表現を可視化しました。 その結果、梨状皮質の活動は主観的な匂い強度と関連し、後方眼窩前頭皮質の活動パターンは匂いの快・不快の違いを識別できることを示しました。 これは、ヒト嗅覚機能を高精度に評価するための基盤となる成果です。

Donoshita et al., NeuroImage 236:118212, 2021.LINK

同じ匂いでも、同時に提示される言葉ラベルが異なると、匂いの感じ方そのものが変化し、その違いが一次嗅覚野である梨状皮質の多ボクセル活動パターンに表れることを示しました。 7T MRIの1 mm等方ボクセルという高解像度計測とデコーディング解析により、従来は主として下流領域で議論されてきた文脈効果を、より上流の嗅覚処理段階で捉えられることを明らかにしました。 さらに、こうした表現変化には、記憶や意味処理に関わる脳領域との連携が関与することも示唆されました。

Okumura et al., Human Brain Mapping 45:e26681, 2024.LINK  プレスリリース

Olfaction

香り製品に対する潜在的な好みにも注目しています。 新奇な柔軟剤の香りを初めて嗅いだ段階では、主観評価では選好差が明瞭でないにもかかわらず、その後に実際に選ばれる香りに関する情報が、梨状皮質や側坐核、前頭葉の活動に表れていることを見いだしました。 これは、匂いに対する好みが、意識的な自己報告に先立って脳内で表現されている可能性を示すものです。 こうした知見は、匂いの脳科学の理解を深めるだけでなく、香り製品の客観的評価や印象予測への応用にもつながると期待されます。

Okumura et al., NeuroImage 310:121131, 2025.LINK  プレスリリース

Olfaction

当グループは、MRI計測技術そのものの高度化と、嗅覚という複雑な感覚・認知・価値判断の統合的理解を両輪として研究を進めています。 基礎神経科学から産業応用までを見据え、ヒト嗅覚の新しい評価法と理解の枠組みを切り拓くことを目指しています。

MRI計測の高度化

私たちは、脳機能をより正確に理解するために、MRIおよび関連計測技術そのものの高度化に取り組んでいます。 超高磁場MRIを活用した高精細な構造画像、サブミリメートル高解像度fMRIのための新しい撮像法、拡散強調画像や血液量を指標とした従来のBOLD-fMRIとは異なる脳活動計測の可能性を探っています。 加えて、MEGによる高時間分解能計測を組み合わせることで神経活動の時間ダイナミクスも評価し、脳の構造・機能・時間情報を統合した脳機能計測基盤の構築を目指しています。

脳の層構造やカラム構造を非侵襲的に調べるには、サブミリメートル分解能のfMRIが重要です。 私たちは、7T高解像度fMRIのための新しい撮像・再構成法としてマルチショットEPI法を利用し、高いtSNRを保ちながら、サブミリ解像度でのBOLD応答検出の改善を目指しています。 また、私たちは、拡散強調画像や血液量を指標とした functional MRI により、BOLD-fMRIとは異なる脳活動計測の可能性を検討しています。 これにより、従来のBOLD信号とは異なる側面から脳機能を捉えることを目指しています。

7テスラMRIでは、微細構造を高精細に可視化できる一方で、画質、撮像時間、画像処理に課題があります。 私たちは、MP2RAGEを基盤として、MP2RAGEのマルチコントラスト画像を利用して、灰白質・白質・脳脊髄液の高速な脳組織分割法を開発しました。 従来法に比べて短時間で処理でき、7T高解像度画像に適したセグメンテーション手法として有用です。 また、同じMP2RAGE画像から比較的大きな脳動脈を自動抽出する手法も開発しており、追加の血管撮像なしに、脳実質情報と血管情報を同時に扱えるようにしています。 これは、空間正規化や形態解析の精度向上にもつながります。 さらに、MP2RAGEは撮像時間が延びる問題があるが、compressed sensing を用いることで撮像時間を大幅に短縮しながら、T1値の定量性や組織分割の整合性を保てることを示しました。 これにより、超高磁場MRIをより実用的に利用できる可能性が広がります。

MP2RAGE segmentation

MRIが高い空間分解能を持つ一方で、神経活動の時間変化を捉えるにはMEGが重要です。 私たちは、MEGも活用し、とくに嗅覚刺激に対する神経応答を高時間分解能で評価することで、MRIとMEGを相補的に用いた脳機能理解を進めています。

超高磁場MRI、サブミリメートルfMRI、拡散MRI、MEGを統合し、脳機能をより包括的に捉える計測基盤の構築を目指しています。 計測法そのものを開発・改良することで、基礎神経科学からヒト脳機能研究まで、より信頼性の高い解析を可能にします。

Choi et al., PLoS ONE 14:e0210803, 2019.LINK
Choi et al., NeuroImage 222:117259, 2020.LINK
Kida, PLoS ONE 20:e0325783, 2025.LINK
藤田ら、日本生体磁気学会誌, 38, 140-141, 2025
Liu et al., Magn Reson Med 95:86-100, 2026.