ナノ光構造技術を駆使した深紫外LED、深紫外光ICTデバイス創出への挑戦

研究内容

 深紫外LEDは、情報・電子分野から環境、安全衛生、医療に至るまで、幅広い分野でその利用実現が切望されており、今後広く普及が実現されれば、大きな社会的貢献と新規市場の創出が見込まれます。本センターでは、深紫外LEDの効率向上を阻んでいる最大の課題を、フォトニック結晶やナノ光構造を駆使した光取出し効率の大幅な向上技術を開発することで解決し、深紫外LEDの高効率化や高出力化、さらには産官連携による本格的な実用化技術開発に取組みます

深紫外(DUV)小型光源の開発必要性

紫外(Ultraviolet: UV)光よりも、さらに短い波長(200~300 nm)である深紫外(Deep Ultraviolet: DUV)光は、高密度光情報記録や、細菌やウィルスの殺菌、飲料水・空気の浄化、バイオセンシング、生体・材料分析、光リソグラフィー、半導体生産工程、生鮮食品の安全流通、院内感染予防、光線医学治療など、情報通信から安全衛生、環境、家電、半導体産業、医療に至るまで、極めて幅広い分野でその重要性を増しており、今日の社会を支える重要な基盤となりつつあります(図1)。

深紫外LED,深紫外LDの多様な応用可能性

図1:深紫外光の多様な応用可能性とその社会的価値

 深紫外光の中でも、特にUVC領域として分類される280nm以下の光は、オゾン層で全て吸収されるため、280nm以下の太陽光は地球上には降り注がず、ソーラーブラインド領域と呼ばれています。そのため、この波長領域の小型光源が開発されれば、通信や医療など従来にない新しい技術革新が期待されます。例えば、生物のDNAは自然界には存在しない280nm以下の光を浴びると破壊されてしまいます。この特性により、深紫外光を使えば、塩素などの有害な薬剤を用いずに、細菌やウィルスなどを効果的に殺菌・無害化できます。特に、265nm付近の波長は、DNAの吸収ピークと重なるため、応用上、最も重要なターゲット波長の一つとなります。
従来、それらの深紫外光源として、主に水銀ランプやエキシマレーザーなどのガス光源が使用されてきました。しかし、ガス光源は、ガス種により使える波長が限定されてしまうだけでなく、素子寿命が短く、さらには光源のサイズ、コスト、消費電力量も大きいことから、その利用範囲は制限され、小型・低コスト・低消費電力で波長を自由に選択できる半導体固体光源への置き換えが強く切望されています。
また近年、強毒性ウィルスの蔓延(パンデミック)や生物テロ、院内感染など、有毒ウィルスの世界的拡散の脅威が急速に増しており、さらには、食品・流通における細菌汚染の不安が国民に広がるなど、より身近で小型・効率的な殺菌デバイスの創出実現がますます期待されています。
さらに昨年の2013年10月「水銀に関する水俣条約」が採択され、2020年以降、水銀を含む製品の輸出入が原則禁止される見込みとなり、既存の水銀ランプの代替光源として、深紫外半導体固体光源の実用化が強く期待されています。このような背景から、水銀やフッ素、そして殺菌用の有害な薬剤といった人体・環境に有害な物質の削減・廃絶に国際的な取り組みが加速しており、低環境負荷で高効率・長寿命な深紫外発光ダイオード(LED)の実用化が強く望まれています(図2)。

深紫外LEDのインパクト、深紫外LED素子

図2:既存の深紫外光源に対する深紫外LEDのインパクト、
およびパッケージングしたDUV-LED素子

ナノ光構造を駆使した深紫外LEDの高性能化

 現在、DUV-LEDの効率向上を阻害している最大の課題の一つは、極めて低い光取出し効率の問題です。これは透明な電極を形成することが困難であるという、発光エネルギーの高いDUV-LED特有の問題であり、p型GaNコンタクト層での内部吸収や基板界面・表面での全反射などによって、光を外部に取出すことが難しく、活性層で発光した光の大部分が熱エネルギーに変換されてしまうことがその原因です(図3(a))。3次元時間領域有限差分(3D-FDTD)法による理論計算の結果、p型GaN層の吸収なども考慮すると、AlN基板のフラット表面(光取出し面)側から取り出せる光の取出し効率は、約4%と極めて低い値となります。結果として、この光取出しの問題が主因となり、これまで極めて低い外部量子効率、出力パワーしか得られていませんでした。この効率の問題を改善できれば、熱エネルギーに変換される割合も減少するため、出力パワーはもちろん素子寿命や信頼性についても大きく改善されることは言うまでもありません。
深紫外LEDの性能向上において最大の課題となる光取り出し効率の向上について、現在我々はAlN基板表面(光取出し面)に独自のナノ光構造を付加し、光取出し面からの光出力向上率として世界最高値を達成しています。発光波長オーダーの周期凹凸構造(フォトニック結晶)に加えて、それより十分に小さな微細凹凸構造を組み合わせた全く新たな光取り出し構造を発案・創製することにより、AlN基板表面での全反射抑制を実現しています(図3(b))。本構造は、光取出し効率の向上だけでなく、素子間の光出力均一性、作製コスト、歩留まりの向上などにも配慮した高機能構造であり、AlN基板DUV-LEDに対するナノ微細加工技術を確立することで、極めて高精度・高均一なナノ光構造加工に成功しています(図3(b))。

深紫外LED素子構造

図3:AlGaN系深紫外LEDの素子構造
(a) 深紫外LEDの技術的な課題(高密度な結晶欠陥、極めて低い光取出し効率の問題)を表す模式図と、
(b) ナノ光構造を用いた光取出し構造の模式図と走査電子顕微鏡(SEM)写真、および
(c) ナノインプリント法によるDUV-LEDナノ微細パターニング技術の開発

 本構造を備えた深紫外LEDの光出力は、このナノ微細加工をしていない素子未加工サンプルと比較した結果、光出力比として1.7倍以上と大幅に増大しています(図4)。また、素子間の光出力比の標準偏差は0.03以下であり、実用化に不可欠な素子間の光出力比のバラつきについても高度に抑制することに成功しています。これらの成果は、深紫外LEDの性能、信頼性の向上、及び実用化に向けて今後大きな進展をもたらすと期待されます。

ナノ光構造深紫外LEDの特性

図4:(a) DUV-LEDを評価するために構築したシステム、
(b) ナノ光取出し構造によるDUV-LEDの出力性能の向上結果および
(c) 各印加電流に対する発光スペクトル特性

深紫外光ICTデバイスの研究展開

 従来に無い高効率なDUV小型光源の開発が実現されれば、その社会的な要望の高まり、巨大な市場潜在力から新たな産業が創出されることは間違いなく、今後も世界中の研究機関・企業が各々の特徴を打ち出しながら開発競争を繰り広げていくことが予測されます。我々は、ナノ光構造技術を駆使した光取出し効率の更なる向上、高効率・高出力なDUV-LED実現に向け取り組んでいくと共に、ナノインプリント技術など素子の量産・低コスト化技術についても確立していきます。実際にナノインプリント技術によるナノ微細構造の高精度加工結果を図3(c)に示していますが、本手法を用いて大面積への一括ナノ加工を実現することで、圧倒的な低コスト化が可能となります。本センターでは、実用性を十分に考慮し、性能・コスト両面において高い競争優位性をもったDUV-LEDを開発していきます。
また深紫外光は、LEDだけでなくレーザーダイオード(LD)やフォトダイオード(PD)応用も含めれば、ソーラーブラインドな特徴を活かした情報通信や火炎センサー、災害早期発見システムなど、深紫外特有のこれまでにないDUV-ICTデバイスへの展開も可能です。また新たなDUV光制御技術により、小型・ポータブルなウィルス殺菌システムやポイントオブケア型の医療診断・分析など、安全衛生や医療における新たな貢献、市場創出も期待されます。本センターでは、水銀フリーかつ小型・高効率、長寿命な深紫外固体光源システムを実現することで、これまでに無かった様々な新しいDUVアプリケーションの開発可能性を広げ、安全・安心でクリーンな生活環境、持続可能な活気ある社会の構築に貢献することを目指していきます。

【研究紹介資料】
1. NICT プレスリリース 2015.4.1
「世界最高出力(90mW超)の深紫外LEDの開発に成功」
2. KARC FRONT vol.30 2014 AUTUMN
「深紫外LEDにより安心・安全で持続可能な社会を実現する」 井上振一郎 -NICT KARK FRONT
3. NICT NEWS 2014.4
「深紫外LEDが切り拓く未来」 井上振一郎 -NICT_NEWS