火災を知らせる臭気発生装置を開発するにあたっては、レモン、ローズマリー、ミントの香りなど、嗅いで気持ちのよい匂いをいろいろ試しました。そのほか、酢酸やイオウの匂い、木材がいぶされた薪のような匂い、いろいろな匂いを混ぜ込んだゴミ箱を開けたときに感じるような匂い。さまざまな匂いを考えましたが、どれも就寝中の人を目覚めさせる決め手にはなりませんでした。その結果たどりついたのが、わさびの匂いでした。
鼻にツーンと抜けるように感じるわさびの成分は、アリルイソチオシアネートによるものです。生わさびに含まれるシニグリンという成分がすりおろすときに酵素によって分解されて、アリルイソチオシアネートという刺激性ガスが発生するのです。このガスがツーンとさせる原因です。アリルイソチオシアネートには細菌の増殖を抑制する効果などがあります。揮発性の物質なので、わさびは噴霧されても室内には残らず、窓を開ければすぐに消えてしまいます。
わさびの匂いは嗅ぐというよりも、眠っている人の三叉神経を刺激して痛みを感じさせ、目覚めさせるのです。神経をたたいて起こすといったらわかりやすいでしょうか。
からしにもわさびのようにツーンとする辛味がありますが、からしの場合は室内に噴霧するとわさびのようにすぐに消えず、不純物が混合されている場合には室内の空気を汚してしまうので適当ではないという結果になりました。また、からしがマスタードガスを連想させるなど製品として採用することが困難でした。
匂いは過去記憶として蓄えられます。一度嗅いだ匂いは、ほとんど忘れることはありません。匂いは嗅いだ瞬間にダイレクトに脳の中の海馬に伝えられると考えられています。
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原本作成日: 2009年6月8日; 更新日: 2019年8月20日;