エプソンでは2011年にウエアラブル情報端末MOVERIOの最初のモデルBT-100を発売しました。この時は「シースルーモバイルビューアー」という呼称を使いましたが、最近では「スマート」という言葉がIT機器の名称について一般的になってきたこともあり、「スマートグラス」とも呼ばれています。何かをしながら映像を見る、屋外にも大画面を持ち出せる、リラックスして映像が見られる、そのためには周囲の安全確認をする必要があるので周りの景色も同時に見えるようにしたい、というのが、BT-100製品開発の基本コンセプトでした。
また、MOVERIOを利用することで、いつでも、どこでも価値ある情報を入手できて、より良い生活が送れるようにしていきたいという思いがあります。しかし、価値ある情報というのは人それぞれで違いますし、その時々、仕事の場面なのか、プライベートの場面なのか、時間や場面でも異なります。現在はインターネットの普及で情報があふれていますが、価値ある情報の入手手段も変えていかなければならないと考えています。
MOVERIOは基本的にメガネのように装着するヘッドセットとスマートフォンのような形状で映像などのデータを受信、保存するコントローラーから構成されています。
その原理を簡単に説明します。コントローラーにある映像などのデータをヘッドセットに組み込まれた小さな投射レンズによりプロジェクターのように拡大し、導光板※1という部品で映像光を導いて、メガネのレンズ部分に当たるハーフミラー※2部分で反射させ目まで導いています。導光板は透明ですので、外部の景色も同時に見ることができます。人の視角は通常45度程度と言われていますが、MOVERIOでは23度の範囲に映像を映し出すように設計しています。このため、外界の光景も同時に見ることができ、どのくらい遠くを見るかによって、見えている映像の大きさが変わるように感じられます。これは目の錯覚によるものですが、遠くを見れば見るほど、目に映る映像は拡大され、2.5メートル先を見るときは40型、5メートル先では80型、20メートル先では320型に相当する大画面になります。
また、フォーカスポイント(焦点)は7メートル先になっていますので、老眼の方も、老眼鏡なしでも比較的映像が見やすくなります。 さらに、カメラ、地磁気センサー、ジャイロ、加速度センサーなどの多様なセンサーやGPS機能、マイク入力機能、WiFiなども装備されているので、自分が今いる場所が分かるほか、様々な情報収集も可能になっています。
2014年5月には、BT-100を進化させた第2世代の「BT-200」を国内で発売しました。新機種はヘッドセットの重量を、従来モデルの約3分の1の88グラムに軽量化したほか、明るさも2倍に向上させ、より使いやすくしました。これをメガネのように掛け、様々なアプリケーションと組み合わせることにより、AR(オーギュメンテッド・リアリティ;拡張現実)が得られます。ARはバーチャル・リアリティ(仮想現実)に対する言葉だと思いますが、見えない情報を見える形にする技術です。
MOVERIOのシステム
【用語解説】
※1:導光板
MOVERIOのヘッドセット部で、一般のメガネでいうとレンズ部に位置する透明な部品。
映像光は、この導光板の中を複数回反射して進み、最終的に目まで導かれる。
※2:ハーフミラー
光の透過率を変えることにより、片側は鏡のように光を反射させ、片側はガラスのように透けて見えるようにした鏡。マジックミラーとも言う。
MOVERIOのハーフミラー層では、外から入ってくる光(外界光)は透明ガラスのように透過させ、もう片側の面に入ってくる映像光は鏡のように反射させている。