開発にあたり苦労された点はどのような部分でしょうか。
手と唇の動きを同時に見ることができないという課題を解決するために、指先に文字を出そうというアイデアを思いついてから、実際に「指でなぞった軌跡上に文字を表示する」という発想に至るまでが一番大変でした。
一言に「指先に文字を出す」と言っても、実は様々な実現方法があるんです。画面をポンッとタッチしたらそこに文章が一度にパッと表示されるパターンや、枠を作ってその中にテキストを流し込むような形のパターンも考えました。いろいろと試行錯誤した結果、指でなぞった場所に流れるように1文字ずつ「じわっじわっ」と出てくる、アナログ感を重視した現在のデザインになりました。
意図的に1文字ずつ表示されるデザインにしているということですね。
はい。「文字を書くとき」と同じようなテンポにしたいと思ったんです。画面の好きな場所に表示させることができるというのも、紙にアイデアを書く動作と似せています。紙に文字をつづるという行為に近い作法なので、今までになかった機能の新しいツールであるにもかかわらず、誰でも自然とすぐに使えるようになる簡単さを実現することができたのは良かったと思います。
文字の表示表現の他にもこだわった部分がありましたら教えていただけますか。
「わくわく感」でしょうか。文字を表示させる時に青い光をまとわせているのですが、これは魔法をイメージしているんです。指先から魔法を出しているような楽しい気持ちでコミュニケーションしてもらいたいと思い、このようなデザインにしました。
魔法のように指先から文字があふれだす
このプロジェクト発足時にデザイナーとして、「ユーザーインターフェースでコミュニケーションの課題を解決する」という目標を掲げていました。つまり、革新的な技術による課題解決ではなく、ユーザーの目に触れる部分や操作する部分のデザインの工夫によって、聴覚障害者の方との意思疎通を円滑にするという目的を達成しようとしたんです。
アナログ風の動作もわくわく感の演出も、どうすればより多くの人に快適に楽しくアプリを使ってもらえるか検討して、細かくチューニングした結果です。
「UIはユーザーが直接触れる部分だからこそ、課題解決の可否に強く影響します」と平井さん