「Ubitone」を開発することになったきっかけや、開発までの経緯について教えてください。
山蔦:私は大学院の博士課程で機械工学を専攻しており、筋肉の収縮を機械的に制御するような研究に取り組んでいました。盲ろうについて関心を持ったのは、研修ツアーでアメリカのシリコンバレーを訪ねた際、視覚障害者向けにオーディオブックを開発するNPO法人を見学したときのことです。そのとき、視覚障害だけでなく聴覚障害もある人は、どうやって情報を得ているのだろうかと疑問を持ちました。帰国後に改めて調べたところ、盲ろうのことを知り、同時に盲ろう者が抱えるコミュニケーションの課題を知りました。
もしかしたら、自分のスキルが役立つのではないかと感じ、NPO法人大阪盲ろう者友の会が運営する生活介護事業所「手と手とハウス」に連絡を取りました。盲ろう支援者や当事者の皆さんにご協力いただき、課題についてヒアリングしました。印象に残ったことは、盲ろう者のご家族の声です。事故で盲ろうになった夫と指点字でコミュニケーションを取っていた女性から、「子どもが幼いので指点字を理解できず、日々の些細な出来事などを気軽に共有できない」という話を聞きました。
指点字を習得するには、時間もかかりますし、まだ幼いお子さんには困難です。もし音声やテキストを即座に指点字に変換することができれば、コミュニケーションが可能になるのではないかと考えました。それが、「Ubitone」のアイデアへと繋がりました。
アイデアを形にするまで盲ろう者の方々にヒアリングを重ね、何度もプロトタイプをアップデートしていきました。現在はまだ試作品の段階で、販売するまでにもう少し時間がかかります。2025年の大阪・関西万博に「Ubitone」を出展する予定なので、そこまでに実用化を目指しています。
大学院時代から休日を使って「Ubitone」を開発した山蔦さん