トピックス詳細

大規模太陽フレア発生に関する臨時情報

5月10日から数日間、宇宙天気変動に注意

~大型の太陽フレア及び地球方向へのコロナガス放出を確認~

2024年6月27日 16時00分 更新
社会影響を情報追加

2024年5月17日 10時30分 更新
電離圏嵐に情報追加

2024年5月15日 18時00分 更新
太陽フレア・デリジャー現象・太陽高エネルギー粒子・電離圏嵐に情報追加

2024年5月13日 18時00分 更新
太陽フレア・太陽高エネルギー粒子・電離圏嵐に情報追

2024年5月12日 18時00分 更新
太陽フレア・デリンジャー現象・太陽高エネルギー粒子・太陽風・地磁気嵐・電離圏嵐に情報追加

2024年5月11日 18時00分 更新
太陽フレア・デリンジャー現象・太陽高エネルギー粒子・太陽風・地磁気嵐・電離圏嵐に情報追加

2024年5月10日 21時00分 更新
太陽フレア・デリンジャー現象に情報追加

2024年5月10日 16時30分 作成

日本時間5月8日(水)10時41分以降、太陽黒点群13663および13664で大規模な太陽フレア13回を含む複数回の太陽フレアの発生を確認しました。この現象に伴い、太陽コロナガスが地球方向へ放出したことが複数回確認されました。コロナガスの第1波は、日本時間の5月11日(土)の1時半頃に地球周辺に到来し、地球周辺では大規模な磁気嵐・電離圏嵐が観測されました。5月15日頃まで、この非常に活発な黒点群による同規模の太陽フレア及び関連現象の発生が断続的に続きました。

1. 観測した現象

1.1. 大規模太陽フレア

太陽黒点群13663および13664で、日本時間5月8日10時41分以降、15日17時37分までに、Xクラスの太陽フレアが13回発生しました。Xクラス以上のフレアが72時間で7回発生したことはGOES衛星による観測史上初めてです。また、一連の太陽フレアで最大の規模は5月15日に発生したX8.7であり、これは現在の太陽活動周期25が始まってから現在までに観測された最大規模の太陽フレアです。

人工衛星SDO(米国NASA)で観測された太陽画像(左:可視光、右:紫外線)

Xクラスフレア一覧とX線強度の推移を以下に示します。

大規模(Xクラス)太陽フレア一覧

No.

発生日

発生時刻(JST)

規模

1

2024年5月8日

10時41分

X1.0

2

2024年5月8日

14時09分

X1.0

3

2024年5月9日

06時40分

X1.0

4

2024年5月9日

18時13分

X2.2

5

2024年5月10日

02時44分

X1.1

6

2024年5月10日

15時54分

X3.9

7

2024年5月11日

10時23分

X5.8

8

2024年5月11日

20時44分

X1.5

9

2024年5月13日

01時26分

X1.0

10

2024年5月14日

11時09分

X1.7

11

2024年5月14日

21時55分

X1.2

12

2024年5月15日

01時51分

X8.7

13

2024年5月15日

17時37分

X3.4

人工衛星GOES(米国NOAA)によって観測された太陽X線強度。グラフの時刻はUT表記。

1.2. デリンジャー現象

大規模太陽フレアの発生に伴って、デリンジャー現象が発生しました。NICTのイオノゾンデにより観測された5月8日から15日までのデリンジャー現象の一覧と、観測画像の例を以下に示します。なお、5月11日の10時から13時の時間帯は日本各地で強いデリンジャー現象が発生しており、短波帯の通信途絶が発生した可能性が高いと考えられます。

デリンジャー現象の一覧

発生日

発生時刻(JST)

場所(規模)

2024年5月8日

10時45分

日本各地

2024年5月8日

11時30分

日本各地

2024年5月8日

13時30分から14時30分

日本各地

2024年5月9日

6時30分から8時15分

日本各地

2024年5月9日

12時15分から12時45分

日本各地 (弱い)

2024年5月9日

15時15分

国分寺・山川・沖縄 (弱い)

2024年5月10日

12時30分

国分寺 (弱い)

2024年5月10日

15時45分から16時15分

日本各地

2024年5月11日

10時15分から11時45分

日本各地

2024年5月12日

9時45分

日本各地

2024年5月14日

11時15分

日本各地

2024年5月15日

17時45分

日本各地(弱い)

イオノゾンデ(鹿児島 山川/沖縄 大宜味)による電離圏観測。白丸で示した部分の電離圏エコーの消失とともに、
信号強度が弱くなっている様子が確認できます。

1.3. 太陽コロナガス

太陽フレアに伴って、地球方向へのコロナガスの放出が複数回観測されました。5月9日に発生した太陽フレアに伴うコロナガスの放出の様子を以下に示します。

探査機SOHO(欧州ESA・米国NASA)によって観測されたコロナガス放出の様子。
中心部の白丸が太陽の位置を示します。

1.4. 太陽高エネルギー粒子

大規模太陽フレアの発生、及び太陽コロナガスの到来に伴って、静止軌道(高度約36,000km)で高エネルギープロトンの増大が観測されました。GOES衛星の観測によると、エネルギー10 MeV以上のプロトンは日本時間5月9日18時頃から、エネルギー100 MeV以上のプロトンは11日11時頃に増大が始まりました。太陽高エネルギープロトンは、12日12時35分に、10 PFU以下の低いレベルまで減少しましたが、5月13日18時に発生した中規模太陽フレアの影響により、13日23時0分に再び10 PFUを超えました。一連の太陽フレアに伴って観測された太陽高エネルギープロトンの最大値は、10 MeV以上のプロトンで207 PFU、100 MeV以上のプロトンで7 PFUです。

また、ひまわり衛星の観測から、日本経度域の静止軌道(東経140度)でも同様にプロトン粒子が増加していることが確認されました。

(上図)人工衛星GOES(米国NOAA)によるプロトン粒子の観測値
(下図)人工衛星ひまわり9号(日本 気象庁・NICT)によるプロトン粒子の観測値

1.5. 太陽風

大規模太陽フレアに伴い放出された太陽コロナガスが、日本時間5月11日1時半頃に地球周辺に到来したことが観測されました。太陽コロナガスの到来に伴い、太陽風の速度は770 km毎秒、磁場強度は72 nTへ急上昇し、磁場の南北成分は一時 -50 nT前後の非常に強い南向きの状態となりました。8日以降、複数回発生したコロナガスが順次、地球周辺を通過しました。一連のコロナガスの通過に伴って観測された太陽風速度の最大値は約1000 km毎秒、磁場強度の最大値は72 nTです。

探査機DSCOVR・ACE(米国NOAA・NASA)による太陽風の観測値。
グラフの時刻はUT表記。

1.6. 地磁気じょう乱

気象庁地磁気観測所(柿岡)によると、日本時間5月11日2時5分に急始型地磁気嵐が発生しました。この地磁気嵐に伴う地磁気水平成分の最大変化量は、約532 nTでした。この期間、K指数は10段階中で上から2番目の「8」が4回観測されました。なお、地磁気観測所(柿岡)で、K指数「8」が最後に観測されたのは2005年8月であり、約19年ぶりとなります。この地磁気嵐は、14日13時頃に終了しました。

気象庁地磁気観測所(柿岡)による地磁気指数の暫定値。グラフの時刻はUT表記。

1.7. 電離圏嵐

地磁気嵐の発生に伴い、日本上空では5月11日の日中に東北以北、12日には全緯度帯、13日は本州以北で大規模な電離圏負相嵐の発生が確認されました。また、5月11日の夜間に東北以南で電離圏正相嵐の発生が確認されました。

国土地理院GEONETデータから算出された日本上空の電離圏全電子数の推移

また、国土地理院GEONETのデータから算出された電離圏じょう乱指数ROTIのマップによると、日本時間5月11日の21時過ぎから12日の明け方にかけて日本上空を電離圏じょう乱が通過しました.

国土地理院GEONETのデータから算出された電離圏じょう乱指数(ROTI)のマップ
※ROTI: Rate of TEC index。空間スケール数10 kmの電子密度変動を示す。

この電離圏じょう乱指数ROTIの増大が観測された時間帯で、基準局の位置情報を利用するRTK-GNSS等の相対測位に影響があった可能性があります。以下に、後処理キネマティック解析により算出した測位誤差および電離圏じょう乱指数を示します。

(上図)後処理キネマティック解析により算出した測位誤差
(下図)電離圏じょう乱指数ROTI

2. シミュレーション

以下に、NICTの太陽風シミュレーションSUSANOOによって算出された太陽風の予測値を示します。太陽フレアに伴って複数回放出されたコロナガスが塊になって地球周辺を通過している様子が可視化されています。黄緑〜黄色がコロナガスの領域です。X5.8フレアに伴って放出された最後のコロナガスは、日本時間5月12日夜に到来することがシミュレーションにより予測されています。探査機DSCOVRの観測によると、この衝撃波は日本時間12日18時頃地球周辺を通過しました。

上のグラフは地球に到来する太陽風速度と密度の推移予測
下の図は日本時間5月12日9時の惑星間空間の太陽風の速度の分布

3. 社会影響

一連の太陽フレアおよび関連現象に伴い国内外で確認・報告された影響を以下にまとめます。

国内外の社会影響一覧

分野

場所

影響

主な影響

GNSS
(GPS、QZSS等)

日本

  • 国土地理院によれば、カーナビ等に利用される 一周波単独測位では、5月11日9時頃から12日6時頃に誤差が大きくなる時間帯があった。 また、 測量で用いられるGNSS測位方式では、 (日本で電離圏じょう乱が確認された) 5月11日深夜から12日早朝の間 、特定の時間帯において 電離層の乱れの影響を受けた可能性 がある。
    (第1報)https://www.gsi.go.jp/denshi/denshi45043.html
    (第2報)https://www.gsi.go.jp/denshi/denshi45044.html
  • 日本で電離圏じょう乱が観測された期間、 複数のGPS波浪計に水位観測値の乱れ があった。(全国港湾海洋波浪情報網(ナウファス)https://nowphas.mlit.go.jp より)
  • 複数のGNSS測位事業者・利用者から、 1周波相対測位、RTK測位等に影響があった との報告あり。(NICT調査)

アメリカ

  • 一部のGPSシステムは一時的にオフライン状態となり、RTKシステムの精度にも狂いが生じた。 GPS農機による作物の植え付けに影響したとの報告あり。
    https://www.theverge.com/2024/5/12/24154779/solar-storms-farmer-gps-john-deer

通信・放送・レーダー

日本

  • アマチュア無線で利用される HF通信に影響があった との報告あり。
    https://www.hamlife.jp/2024/05/11/magnetic-storm/

アメリカ

  • NOAAによれば、電力、HF通信、GPSに影響が見られたとの報告があった。
    https://www.swpc.noaa.gov/news/g5-conditions-reached-yet-again

南アフリカ

  • SANSAによれば、 HF通信に障害が発生した との報告があった。
    https://www.sansa.org.za/2024/05/the-mothers-day-solar-storm/

衛星

日本

  • ソニーの人工衛星EYEの 高度が400m低下した が、運用に問題はなかったとの報告あり。
    https://x.com/STARSPHERE_Sony/status/1790532549158097082

アメリカ

  • Starlink衛星は影響なかったとの報告あり。
    https://x.com/SpaceX/status/1789838269418471902

航空

国内外

  • 国内外の複数の航空関連事業者で、 宇宙天気の実況や予報情報を踏まえた注意喚起・警戒態勢を実施。航空路変更等の対応 がされたものもあった。 短波通信の一時的な障害の報告があった が、運航休止等の影響の報告はなかった。(NICT調査)

電力

日本、カナダ

  • 影響は特に報告されていない。

ニュージーランド

  • 事前に一部の送電サービスを停止 し、影響はなかったとの報告あり。
    https://www.1news.co.nz/2024/05/12/solar-storm-transpower-extends-grid-emergency-declaration/

観光

国内外

  • 日本など 中緯度を含む世界各地でオーロラが観測 されたとの報告が多数あった。

国内では、電離圏嵐が発生している時間帯において、衛星測位の誤差が大きくなっていたことが確認されています(国土地理院の報告等による)。通信・放送分野では、航空無線やアマチュア無線で利用される短波通信に影響があったことが報告されています。衛星運用分野では、地球を周回する超小型衛星で400mほどの高度低下が報告されています。一方で、衛星に影響が出るほどの高エネルギー粒子の増大は観測されておらず、静止軌道を含め人工衛星の運用においては大きな不具合等の報告は確認されていません。本州を含む日本各地で低緯度オーロラを発生させた今回の地磁気嵐ですが、現時点での知見では日本が含まれる中緯度域の電力網へ深刻な影響を及ぼすほどの規模ではなかったこともあり、国内電力網への影響等は報告されていません。また、地表や日本上空では、人体に影響が見られるほどの放射線量率の増加はありませんでした。

海外では、衛星測位、短波通信、電力分野に影響があったことが、アメリカ海洋大気庁(NOAA)により報告されています。ニュージーランドでは、電力分野での緊急時対応として一部の送電サービスを停止する措置がとられたとの報告がありました。

一連の大規模太陽フレアは太陽活動極大期としては決して珍しくない規模ですが、衛星測位および通信・放送に対する影響や低軌道衛星の高度低下が確認されたとともに、電力・航空分野においては一部で予防措置がなされました。現在の太陽活動は今まさに極大期を迎えつつあり、さらに大規模な太陽フレアの発生やそれに伴う宇宙環境の乱れによる社会基盤へ影響が懸念されます。

4. 補足情報

• 太陽フレア

太陽の黒点付近で生じる爆発現象。強い紫外線やX線、電波等が放射されるほか、コロナガスが放出されることもあります。発生したフレアのX線強度の最大値により、小規模なものから、A、B、C、M、Xの順にクラス分けされています。

• コロナガス放出(Coronal Mass Ejection(CME))

太陽の上層大気であるコロナのガスが惑星間空間に放出される現象。地球に到来すると大規模な宇宙環境変動を引き起こすことがあります。

宇宙天気による社会への影響について

太陽・太陽風について

磁気圏について

電離圏について

その他、よくある質問もご参照ください。