テラヘルツ連携研究室(フロンティアICT領域技術)    - テラヘルツ帯の有効利用による快適な社会の実現 -

概要

 NICT内外と連携して、テラヘルツ波を利用した100Gbps級の無線通信システムの実現を目指したデバイス技術や集積化技術、計測基盤技術等の研究開発を行う。また、テラヘルツ帯等の超高周波領域における通信等に必要不可欠である信号源や検出器等に関する基盤技術の研究開発を行う。これらの研究開発成果を基に、テラヘルツ帯における無線通信技術及びセンシング技術の実用化を目指した標準化活動の推進に貢献する。
 令和元年度は、テラヘルツ無線テストベッドや、テラヘルツスペクトラム計測のための基盤技術を重点課題として研究開発を推進し、研究開発成果を最大化するための業務として、ITU-RやIEEE802等のテラヘルツ国際標準化活動を推進した。

テラヘルツ無線テストベッド基盤技術

 100Gbps級のテラヘルツ通信技術実現のため、最先端光ファイバ通信技術を援用したファイバ無線技術によるテラヘルツ波信号発生技術の検証を行っている。超大容量テラヘルツ通信の実現にあたり、利用可能帯域が広いテラヘルツ帯といえども周波数利用効率の高い変復調方式(例えば4値位相遷移変調や16値直交振幅変調など)の適用が肝要であるものの、一般的にテラヘルツ帯においては信号源の有する位相雑音の影響により位相情報を用いる変復調方式の実現は難しい。加えて将来テラヘルツ無線の評価を行うテストベッド環境においては、発生されるテラヘルツ信号の周波数の拡大及びその可変性も重要である。令和元年度は、帯域幅が制限された送信機を複数台組み合わせることで一つの超広帯域信号を発生させる手法の検討を実施した。広帯域なテラヘルツ無線システムにおいては、その動的な強度・位相特性を評価するには広帯域な実信号を用いることが唯一の手法であるため、超広帯域信号の生成技術はテストベッドの実現に必要不可欠である。そこで変調速度80Gbaudのシングルキャリア多値変調信号(帯域幅85GHz)をデジタル信号処理により周波数帯域を3分割し、帯域幅45GHz以下の送信機3台にそれぞれの信号を割り振り送信、受信器で一括受信することで一つの広帯域信号として復調する方式を検証した。図1にそのシステム模式図とスペクトル配置を示す。復調した受信信号は広帯域送信機1台で送信した場合と比較して特段の劣化が見られず帯域分割による広帯域信号発生が可能であることが示された。本技術を効果的に援用することで、従来では実現不可能であった超広帯域信号の生成が可能であり、将来超高速・超広帯域基準信号の生成可能性を示した。


図1. 帯域分割による超広帯域信号生成技術: システム模式図とスペクトル配置

テラヘルツスペクトラム計測基盤技術

 スペクトラム計測においては、電波法の定めるスプリアス特性を計測可能とするため、オクターブ(0.3–0.6THz)の超広帯域とする。この帯域を1台の計測装置で担いながら、これまでにない高速、高精度で、スペクトラム計測を可能にする基盤技術の確立を目指している。これを実現する方法のひとつとして、計測周波数帯域をいくつかの帯域に等分割するフィルタバンクを用いてマルチバンド化し、周波数コムを局部発振波とすることで、分割した周波数帯のそれぞれを同時に計測することを提案している。このための要素技術のうち、フィルタバンクについては平成28年度に400GHz帯において設計どおりに動作させることに成功した。フィルタバンクからの信号を中間周波数(IF)にダウンコンバートするIFアンプ集積型ミキサについて平成29年度に試作し、IF帯域の広帯域化に成功するなど設計指針を得た。平成30年度は、高精度光周波数コムを利用したサブミリ波帯周波数コム発生に成功した。令和元年度は、これまで開発した要素技術を用いてマルチバンドスペクトラム計測の原理確認実験を実施した。図2(上段)に、本実験に用いた3バンド用のスペクトラム計測実験系を示す。ホーンアンテナとマルチプレクサ(Ch.1:455–480GHz, Ch.2:430–455GHz, Ch.3:405–430GHz)に加え、三つのRF出力ポートに各々LOカプラとミキサーアンプモジュールが取り付けられた構成となっている。本実験では、原理確認として、1チャンネル分(Ch.2)を評価した結果を示す。図2(中段)は、LOとして454GHzを入力した際のシステムの雑音温度の測定結果 であり、ミキサはRF:432–452GHzに対してシングルサイドバンド(SSB)動作している。図2(下段)のとおり、IF:3–17GHz上で約200Kの雑音温度特性を得た。別の実験から、ダブルサイドバンド(DSB)ミキサ単体での雑音温度は同周波数帯で80K程度であったため、マル チプレクサの導波管損失は、その材質のアルミニウムの導電率などを考慮した計算予測通り、比較的低いことが確認された。また、LOを458GHz, 462GHzとシフトさせるとIFの低周波側から帯域が制限されている様子が見て取れることから、マルチプレクサが適切に動作していると考えられ、テラヘルツスペクトラムの広帯域高速計測技術の実現に向け、重要な実証結果を得た。


図2. (上段)3バンド受信機の評価系のコンセプトとクライオスタ ット内部の写真, (中段)Ch.2のフィルタ特性と(下段)各LO周波数における受信機雑音温度

国際標準化活動

 WRC-19議題1.15「275–450GHz周波数領域の陸上移動業務応用と固定業務応用への特定」に従った標準化活動を行い、令和元年度において下記の結果を達成した。
①ITU-R WP1A(スペクトラム工学技術)において、ITU-RレポートSM.2450「275–450GHz周波数領域における陸上移動業務応用/固定業務応用と受動業務との共用検討結果」を完成させた。
②APG19-5(APTのWRC-19準備会合)においてWRC19議題1.15に関するAPC(APT共同提案書)を完成させ、WRC-19にAPTから入力させることができた。
③WRC-19においてAPTコーディネーター、CEPTコーディネーターとの連携により、図3に示す4つの帯域(275 –296GHz, 306–311GHz, 318–333GHz, 356–450 GHz)を陸上移動業務応用と固定業務応用に特定する新脚注を無線通信規則に追加することができた。

 また、無線機器の標準化を進めているIEEE(The Institute of Electrical and Electronic Engineers)802標準委員会においては、短距離WPAN(Wireless Personal Area Network)システムで初めての300GHz帯無線標準規格であるIEEE std 802.15.3dが平成29年10月に出 版されたが、平成30年度においても引き続き将来的なテラヘルツ無線機器規格について意見交換が行われ、平成30年7月からは、担当グループであるTerahertz Interest Groupが改組されて、Technical Advisory Group Terahertz(TAG THz)となり、令和元年度も引き続きテラヘルツ研究センター長の寳迫巌が同グループの副議長として参画している。上記のWRC-19の結果を受けて、IEEE std 802.15.3dの周波数テーブルの修正を行う予定である。


図3. WRC-19で特定された周波数帯と脚注5.565で特定されている受動業務の周波数帯比較