聴覚障がい者に対する情報保障の方法のひとつとして、授業などを受ける際に、2〜4名の通訳者がサポートとして同席し、連携しながら話者の話した音声を要約しながら字幕化し、パソコン画面やプロジェクタ 画面に表示する手法があります(「パソコン要約筆記」または「パソコンノートテイク」と呼びます)。
しかしながらこの方法では、聴覚障がい者の身近に通訳者がいない場合はサポートを受けることができません。また、授業内容や場所の都合でサポートが難しいほか、一般の小中学校では、教室に教師以外の大人がいることによって、聴覚障がい者に対して精神的なストレスを与えてしまう場合もあります。
このたびの「パソコン要約筆記」システムの構築は、このような人的問題や精神的ストレスを緩和するため、NPO法人 長野サマライズ・センターが遠隔で行うシステムの構築を起案したところから始まりました。
開発経緯について説明する 筑波技術大学・准教授 三好茂樹さん
「モバイル型遠隔情報保障システム」を実現するにあたり、国立大学法人 筑波技術大学の障害者高等教育研究支援センター 准教授の三好茂樹さんにお手伝いして頂きました。
以下、三好茂樹さん
まず、今回のシステム提案において、携帯電話の電波が届くエリアであれば、利用することが可能だという点は、利用者にとっては大変魅力的だと感じました。
そこで、システムの構成について具体的に研究を始めたわけです。
実際にシステムの構築を行うに至っては、とにかく構成機器を極限までシンプルにすることに注力しました。『利用者である聴覚障がい者が機器のセッティングが行えること』が重要だと考えたからです。
というのも、機器のセッティングを専門の人に頼むような複雑なものにしてしまっては、情報保障のシステムを遠隔化しても聴覚障がい者に対して精神的なストレスや人件費の問題が残ったままになるからです。
そこで選んだのが、iPhone 3G/3GSと、話者用マイクとして利用するBluetoothマイクスピーカという構成でした。携帯電話iPhoneは、話者の音声を遠隔地にいる通訳者へ伝える普通の「音声通話」機能と、付属のウェブブラウザを使った字幕データ取得および更新を行うための「パケット通信」が 一台で賄えるからです。
聴覚障がい者と話者が1つずつ機器を持つだけという簡略なシステムなため、実際に小中学校で実証実験をおこなった際には、利用者である聴覚に障がいのある生徒が、10分ほどの時間で自ら準備作業を済ませることができました。
利用者側での必要機材(iPhone 3G/3GSとBluetoothマイクスピーカ)
技術スタッフなどを必要とせず、障がい者自身が利用する際に簡単に準備できるということは、情報保障を受けるにあたって障がい者が受ける心理的負担を軽減するメリットがあるほか、障がい者の自立支援にも役立つシステムでもあるといえるでしょう。
ガイド付の観光ツアーなど、移動を伴う状況下での情報保障イメージ
遠隔で情報保障が行えるため、授業や講義に留まらず、今後はガイド付の観光ツアーなど、携帯電話の電波が届くエリアであれば、場所や機会に囚われず様々なシーンでの利用へと発展させることもでき、聴覚障がい者の活動の場を広げることが可能です。
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原本作成日: 2010年3月8日; 更新日: 2019年8月19日;