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文字と音声でコミュニケーションを円滑にする―聴覚障がい者支援アプリ「こえとら」(2/4)

2 試行錯誤を繰り返した「こえとら」開発

 「こえとら」の開発に取りかかったのは2011年のことです。

 25年以上音声翻訳の研究開発をやってきましたが、NICTではその研究を利用して、スマートフォン用の音声翻訳アプリとして「VoiceTra」というアプリを開発していました。このアプリは、例えば、日本語で「道に迷いました。駅はどこですか?」などの質問を発話すると音声認識機能によって文字に書き起こされ、「I’m lost. Where is the station?」と翻訳されるという音声翻訳アプリです。翻訳された文章は音声合成機能によって読み上げられます。

 この「VoiceTra」の音声認識技術の性能の高さに、熊本聾学校の先生が関心を持ってくださいました。「VoiceTra」の音声技術を使って音声と文字の相互変換ができれば、聴覚障がい者と健聴者のコミュニケーションの役に立つのではないか、とご提案いただいたのです。それまで聴覚障がい者のコミュニケーションを手助けする実用的なツールがなかった中、「VoiceTra」の音声認識に感心したと言ってくださいました。

 2012年5月にさっそく熊本で開発を始めました。10月にプロトタイプを試作し、聾学校の生徒に使ってみてもらいました。「使いやすい」とか「便利」という意見もいただききましたが、「端末から音声が出ても、利用者である自分たち(聴覚障がい者)にはわからないし、音量がどれくらい出ているのかも確認しようがないので、実際には怖くて使えない」という意見もありました。これを聞いた時は、利用者のことをわかっていないことがショックで、ヒアリングするまで気づかなかったことが情けなかったですね。その意見を参考に、視覚と触覚で音声が発生したことを確認できるよう、音声が発生しているときは赤く光り、振動もするよう改良をしました。

 「こえとら」には、よく使うフレーズの登録機能をつけました。「VoiceTra」も使ってもらった際に、「文字を打つというキーボード操作に時間がかかる」という意見があったからです。デフォルトでいくつか登録してある定型文は、聾学校の子どもたちが実際にノートに書いていたものを見せてもらって取り入れたものがたくさんあります。

 近年、音声認識技術はかなり向上しています。10年前は、車の音や踏切の音などの物音がする中で言葉を発すると音声認識がされにくかったのですが、今では周囲のノイズにもずいぶん強くなりました。その音声認識の技術を最大限に生かしながら、ヒアリングで出た意見をもとに、改良をかさね、利便性を追求しています。

「こえとら」のシステム構成
  「こえとら」のシステム構成

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