聴覚に障害のある人たちの情報アクセスとコミュニケーションの保障は日本財団の重要なテーマの1つです。現在、日本の聴覚障害者は障害者手帳を持っている人だけでも約32万人に達しています。それ以外にも、聞こえに問題のある人は1000万人以上との推計もあり、高齢化社会の進展に伴い、さらに増加すると考えられています。聴覚障害者は電話が使えないことで、仕事がうまく進められない、110番などの緊急通報ができない、様々な連絡や問い合わせ、予約などができないなどの不便な状況に置かれています。メールを利用することもできますが、いつ返事があるのか分からなかったり、何回もやり取りを行わなければならない事案などでは時間もかかったりして大変です。電話リレーサービスは、多くの人が当たり前に使っている電話という社会インフラに聴覚障害者が平等にアクセスするためのサービスです。
現在、世界では20カ国以上で電話リレーサービスが、公共サービスとして実施されていますが、残念ながら、日本ではまだ、そのような状況になっていません。日本財団は、こうした状況を改善し、日本での普及を目指すため、「電話リレーサービス・モデルプロジェクト」に取り組み、2013年9月から実験サービスを実施し、段階的に規模を拡大するとともに、より良い利用環境をつくためのデータの蓄積などを進めてきました。 財団が進めている電話リレーサービスの方法は基本的に三つあります。
まず一つは、聴覚障害者がSkypeなどの映像送信ができる端末(テレビ電話)を通して手話で「子供が熱を出したので欠席することを学校に伝えたほしい」などという要件を、情報センターなどにいる手話通訳者に伝えます。これをパソコンで受けた手話通訳者が、電話で相手先に連絡し、相手方からの返事を同時に手話で聴覚障害者に伝えます。 二つ目の方法は、LINEなどを使って、聴覚障害者が文字情報を入力して要件を文字通訳者に伝え、これをパソコンで受けた文字通訳者が電話で相手先に連絡し、相手方からの返事を同時に文字で聴覚障害者に伝えます。この過程は全て文字でのやり取り(チャット)で行います。
三つ目は、難聴者や中途失聴者などが利用するケースが多いのですが、相手先に直接電話して自分で要件を声に出して話し、相手の返事は文字通訳者が聞き取って文字で難聴・中途失聴者に伝える方法です。
3タイプの電話リレーサービスの概念図 (資料提供 日本財団)
(図1)電話リレーサービス(手話通訳)の概念図
(図2)電話リレーサービス(文字通訳)の概念図
(図3)電話リレーサービス(音声+文字通訳)の概念図