今まで「音」の必要性の話を中心にしてきましたが、「音」の聞こえない聴覚障がい者に対しての情報提供も行っています。火災や地震が発生した時に、駅などでよく見るLED表示ボードに異常情報を流すという、聴覚障がい者向けの緊急避難情報システムです。これは人通りの多いところに表示されることが多いのですが、実は最も必要とされるのはトイレの個室です。トイレ内では、外で何が起きているのか分かりません。そこで、トイレにパトライト※を設置してサイレンに気づけるよう提案しています。このシステムでは、他にもLANネットワークを利用して防犯カメラを取り込む等、様々なことができます。色々なシステムとのコラボレーションによって、障がい者だけではなく、健常者も共用できるユニバーサルデザインを推進することが可能です。
この分野において今後必要になるのは、こういったあらゆる人々に役立つ本当のユニバーサルデザイン化されたものではないでしょうか。そのために一番大切なことは、今まで培ってきた技術を継承するということです。それに対して、利用者の意見を反映しながら新しい技術をつなげていきます。
2020年には東京オリンピック・パラリンピックが行われます。これを機に、世界を視野に入れた何かを考えてみたいと思いますが、反対にオリンピック・パラリンピックというイベントに惑わされてもいけないとも思っています。あくまでも、ひとつの時代のひとつのイベントに過ぎません。ですから、そこで終わってはいけないのです。その後も使っていけるものを作らなければいけません。派手な仕事ではありませんが、ずっと継続していくべき仕事であり、人類が生きている限り必要なものだと思っています。
そのためにも、利用者の声に耳を傾け続け、また、視覚障がい者が巻き込まれた事件や事故の情報を収集し、検証しながら、開発を進めていきたいと思います。
視覚障がい者が「行きたい時に、行きたい場所へ」をキャッチフレーズに、また、視覚障がい者だけではなく、聴覚障がい者等の情報弱者が、緊急避難等で命を落とすことのないように、彼らの「情報取得障害」をこれからも私たちのシステムで補っていきます。
【用語解説】
※パトライト:パトライトとは、異常事態等を光って伝える回転警告灯を指す。