研究概要

私たちの研究室では、細胞の情報処理と通信能力を利用した新たなICTパラダイムの創出を目指しています。

細胞を模倣する:細胞情報システムの解明と応用

細胞の遺伝情報システムは、35億年の進化によって錬成された自然知の集積です。環境変化に応答する遺伝情報システムの動作原理や分子機構を明らかにし、細胞の自然知を倣った新たなICTの創出を目指しています。

 

droplet

タンパク質-RNA複合体の液-液相分離(LLPS)によるドロップレット間の相互認識によって、相同染色体の対合が引き起こされることを発見しました。生体高分子による情報認識機構の一端を解明する成果です。
Ding et al., (2019) Nat Commun, 10, 5598
Ding et al., (2012) Science, 336: 732-736.

 

exp

超解像顕微鏡を用いた解析により、これまで認識されていなかった新しいDNA領域の発見や、細胞表層構造や細胞形態の形成機構に関する研究を行っています。一細胞レベルの形態形成機構や、細胞内パターン形成機構は、従来の遺伝学、分子生物学、生化学的な解析が困難なため、現在でも全く未知のままです。これを明らかにできれば、細胞を自由に操作できる技術や、ナノ構造を自己組織的に生成する高機能生体材料などへの応用が期待できます。単細胞生物テトラヒメナの細胞表層には幾何学的な規則に従ってオルガネラが配置される結果、機能的な細胞形態が作り出されることが知られています。これまでの技術では解明できなかったこの形態形成機構を、超解像イメージングをはじめとする新しい技術を駆使して明らかにしようとしています。

Lowe et al., (2021) eLife 10:e65369
Murawska et al., (2019) Mol Cell, 77:501-513.
Tashiro et al. (2016) Nat Commun, 7: 10393
Matsuda et al., (2015) Nat Commun, Jul 24; 6:7753.

細胞を観察する:バイオイメージング技術の開発

 細胞内の情報の流れを計測するために、生きた細胞で目的の分子の挙動を高精細に画像化できる蛍光顕微鏡技術の開発を行っています。生体毒性を抑えたライブイメージング法や、超解像顕微鏡に関する技術等の研究開発を行い、一部のツールを世界に向けて公開しています。また、顕微鏡の講習会を通して知識を広めています。蛍光イメージング技術は、細胞の情報処理能力を利活用する上で不可欠の基盤技術となっています。

松田厚志 (2020) 「生物の知を光と計算で読み解くー分解能の限界を超える顕微鏡技術」 情報通信研究機構研究報告 Vol.66 (1)

ms

Tahara et al., (2021) Applied Optics, 60:A260-A267 (生物試料のホログラフィック顕微鏡)
Ashida et al., (2020) J. Biomed. Opt, 25:123707. (補償光学顕微鏡の新しい波面計測法)
Matsuda et al., (2020) J Vis Exp, (160), e60800(超解像顕微鏡の色ズレ補正技術)
Matsuda et al., (2018) Sci Rep, 8:7583プレスリリース「超解像顕微鏡のための高精度色収差補正ソフトウェアを開発・無償公開」
Kraus et al., (2017) Nat Protoc, 12:1011-1028(超解像顕微鏡による生物試料観察)
Demmerle et al, (2017) Nat Protoc, 12:988-1010(超解像顕微鏡のアーティファクト低減法)

細胞を操作する:細胞機能の人工的構築と制御

 細胞の情報処理と通信能力を人為的に操作するための基盤技術として、細胞内に生体−非生体ハイブリッド素子(人工ビーズ)を導入する技術や、それを使って細胞内に人工オルガネラを構築する技術等に関する研究開発を進めています。また、細胞機能の一部を試験管内で再構成し、細胞が行う分子通信を人為的に制御する技術の研究開発にも取り組んでいます。

小林昇平 (2020) 「生体ー非生体ハイブリッド素子を用いた細胞活動の理解と人為制御」情報通信研究機構研究報告 Vol.66 (1)

mov
(movie)

Bilir, et al. (2019) Genes to cells 24, 338-353.
(生細胞内に導入した人工ビーズの周囲における核膜様構造の形成)
Kobayashi, et al. (2015) Proc. Natl Acad. Sci. 112, 7027-7032.
プレスリリース「外から来たDNAの細胞内侵入を感知するDNAセンサーを発見」
Kobayashi, et al. (2010) Autophagy 6, 36-45.
(生細胞内に導入した人工ビーズの周囲におけるオートファジーの誘導)