「ウェブアクセシビリティ」という言葉を日本語で表現するとしたら、「ウェブの情報伝達の保障」となります。ここでは、「ウェブの情報伝達の保障」の基本的な考え方を紹介しています。
インターネットは、私たちの生活や社会活動にとって欠かせない重要なメディアとなっているように、高齢者や障害者にとっても、ホームページは重要な情報源となりつつあります。
特に、外出が困難な障害者や視覚障害者にとっては、ホームページからの情報収集や情報交換は、社会との大切な接点になっています。視覚障害者の場合を考えてみましょう。これまで視覚障害者は、新聞や雑誌、書籍などの文字情報を入手するためには、文字情報を点字に書き換えたり、朗読したり、誰かの助けを借りなければなりませんでした。わからない言葉に出くわしても、辞書をひくのも大変だったのです。
しかし、ウェブが使えるようになると、新聞や雑誌などの情報を、晴眼者(視覚に障害のない人)とほぼ同じタイミングで情報を得ることができます。さらに、これまで他人の力を借りなければならなかった文字による情報を、自分で検索したり、好みの情報を自分の好きな時に得られたりできるようになりました。つまり、自立した生活のためには、ウェブは不可欠な道具なのです。
ウェブの重要性が高まるにつれ、多くの高齢者や障害者がウェブを利用するようになりました。ところが、高齢者や障害者がウェブを利用する時に、利用者の身体条件などによって、思ったように欲しい情報を取得できない、という問題が起こっていることは、これまであまり知られていませんでした。
特にハードルが高いのは、全盲や弱視といった視覚障害者です。視覚障害者は、文字で書かれたウェブサイトを、音声読み上げソフトと呼ばれる補助ソフトを使って、ウェブを“読んで”います。音声読み上げソフトは、テキストデータを日本語で読み上げてくれるものです。ところが、画像で表現されたところは音声読み上げソフトでは、何が書かれているか判別することができず、読み上げてくれません。その部分は読み飛ばされてしまうのです。みなさんがよく利用するウェブサイトを思い出してください。ウェブ中で大事な情報が、大きな画像で表現されているケースが多いことに気が付くと思います。つまり、音声読み上げソフトを使って、ウェブを利用している視覚障害者は、画像で表現された大事な情報を知ることができないのです。
このように、ウェブで提供されている情報が、ウェブを利用する環境や身体的な特徴などによって、得られたり得られなかったりすることがあっては、大変困る場合があります。たとえば、公共性の高い情報を提供している、行政や公共機関のウェブサイトです。市民に情報を公開することを目的にしたウェブサイトでは、障害や年齢、アクセス環境の違いに関係なく、誰でも同じように情報を得られることが望まれます。
行政関連のウェブサイトだけではありません。たとえば、放送局や新聞社など社会性の高い組織はもちろん、商品やサービスの紹介や利用方法を紹介するサイトなどでは、ウェブ上で誰でも情報取得できることが望まれます。
ウェブアクセシビリティは、高齢者や障害者のためだけに必要なのではありません。確かに、現時点では情報の取得が困難な場合が最も多いのが障害者や高齢者であり、配慮が必要である点は変わりません。しかし、ウェブサイトが携帯電話やPDAなどからの利用が拡大しつつあり、こうした“非パソコン”端末からの利用の際にも、ウェブアクセシビリティは有効に機能するのです。
携帯電話やPDA、インターネットテレビ端末などは、パソコンと比べて表現できる情報量が限られています。また機能的にも制限があります。実際に、携帯電話で通常のウェブサイトを閲覧すると、まったく表示されないものや部分的に情報を取得できないことがあります。
ウェブアクセシビリティを十分確保したサイトでは、このような非パソコンからのアクセスに対しても、必要な情報を提供することができるようになります。たとえば、どんなに画像をたくさん使ったサイトでも、必ず画像が表わしている情報をテキストで説明した「代替テキスト」が提供されていれば、たとえ画像が表示されなくても情報の内容を理解することはできるはずです。
このように、ウェブで提供される情報の伝達を保障することは、障害者や高齢者のためだけでなく、健常者も含めたより多くの利用者からの利用を促進することにつながるのです。
ウェブアクセシビリティの重要性が理解できても、実際にウェブアクセシビリティの確保されたウェブサイトが作られなければ、まったく状況はよくなりません。つまり、ウェブアクセシビリティは、ウェブ提供者や制作者に、高齢者や障害者等の利用に配慮したウェブサイトを製作していただくことが、最も重要な課題となります。
ウェブアクセシビリティは、特別に難しい技術を必要とするわけではありません。ウェブアクセシビリティに関するある程度の知識があれば、誰でも取り組むことができるものです。みなさんも、ここで提供されている情報を参考に、ウェブアクセシビリティを理解し、ウェブの情報伝達の保障にチャレンジしてみてください。